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24.狂乱の酒宴

《本日はお休み。お酒の方は中でお待ちを》

 本日はドワーフと神父に約束していたカレーに合う酒の研究日だ。

 チルルに書いてもらった立て看板もセットし、準備万端。

 昨日、海底都市より帰ってから今日のために準備を進めた。俺に抜かりはない。さあ、いつでも来るがいい。


「こんにちは!」

 お。さっそく酒飲みたちがやって来たぞ。

 チルルの元気いっぱいの声も、今日は客として迎えるわけじゃないから挨拶になっている。

「心待ちにしておりましたぞ」

「神父様と一緒に参りましたー」

 最初に訪れたのは神父にリズ。そして、無言で会釈をするセレナだった。

 彼女は酒を飲まないと聞いていたが、実は酒好きだったりしたのだろうか?

「チルルさん。セレナは飲まないんだけど、連れて来ちゃってごめんね」

「別に構いませんよね? レインハルト様?」

 問題ない、と仕草で示す。

 まだ続くチルルとリズの話を聞くに、セレナは店に来るまでの護衛役だったみたいだ。

 せっかくご足労いただいたのだ。カレーライスを味わってくれればいい。

 酒の研究をするといっても、あくまでカレーライスをおいしく食べるためだからな。主役がカレーライスであることは変わらない。

 

 チルルとリズの会話が終わる頃、ドワーフや鬼族たちも次々と店を訪れる。

「よし、テーブルを寄せてくれ。余った者はカレー鍋を運んでくれ」

「今日はご自身でお好きなカレールーをよそって食べてくださいね」

 俺の言葉にチルルが続く。

 カレー鍋には保温の魔法をかけているから、数時間程度ならば至高の味を保つことができるのだ。

 その辺り、抜かりはないぞ。


「酒は? 酒はどこだ?」

「そうですな。酒がないですぞ」

 ドワーフと神父がきょろきょろと酒を探す。

「酒はどれを酒にしたいか選べ」

 カウンターに次々と食材を並べる。さまざまな果実や穀物、種、イモ類など、どれも酒にすることができるものだ。

 次から次へと酒にし、どれがカレーライスと合うか試してもらう。


「これ、そのまま食べてもいいでありますか?」

「構わんよ。チルルとセレナも食べるといい」

「ありがとうございます」

「ありがとう」

 果物ナイフも置いてあるから、セルフサービスで頼む。

 今日は店の営業ではないのだから。

 果物を手に取ったはいいが、すぐに手放したリズが俺の隣に立ち、わくわくした様子で見上げてくる。

「どうした?」

「レインハルトさんがお酒を造るところが見たいであります!」

「研究熱心だな。見ても大したことはないが」

「自分にとっては大したことであります!」

 特に見られて困るものでもなし。存分に見るがいいぞ。カレーに比べれば面白くもないかもしれんが、面白くなければ見なきゃいいだけだ。


 皆、自分で皿にカレーライスを盛り、希望の酒を依頼する形式だ。

 これと指定した後、その場で発酵、醸造させ、酒にする。

「たまりませんな。酒好きにとっては夢のような試飲会が開幕ですな」

 神父の一言が鏑矢となり、カウンターの前へドワーフたちが集まってきた。

「何でも酒にできるのか?」

「ここにあるものならいけるぞ。そうだな。試しにこいつだ」

 サツマイモを手に取り、隣に樽を置く。

 目を閉じ、念じると、サツマイモが芋焼酎に転じ、樽に注がれる。この間、僅か30秒だ。

 酒ができる様子に先ほどまで騒がしかった店内が静まり返る。

 その静寂を破ったのはリズだった。

 

「す、すさまじすぎて理解不能であります」

「レインハルトだからな……」 

 呆然となったリズのつぶやきへ、ドワーフのうち一人が続く。

 

「うおおお。すげえ。酒だ。酒だ」

「それをいただいていいかの?」

 理解が追いついたドワーフらが歓声をあげる。

 歓声につられ、鬼族らもカウンター前に集まってきた。


「こいつは芋焼酎だ。激辛カレーの時に出したかもしれん」

「レインハルト様。フルーツカレーに合うお酒というお話では?」

 チルルから突っ込みが入る。

 当然、フルーツカレーに合う酒というものは視野に入っているぞ。フルーツカレーも用意している。

「せっかくだから、これまで用意した日替わりの中で味の構成が異なるものも準備してある」

 パチリと指を鳴らすと、ゴーレムたちが寸動を持って奥から出てきた。

 ゴーレムの背丈は膝の上くらいでテーブルに届かないが、ドワーフたちが手伝いテーブルに乗せる。

 

「そいつにも保温の魔法をかけている。時間がたっても冷めないから安心してくれ」

「コンロに乗せなくてもよいのですますか?」

「そうだ。言ってなかったが、最初に出した鍋にも同じ処理を施している。だが、保温の魔法は効率が悪くてな。こうして食べる分にはよいのだが、煮込んだり、ずっと置いておくには使い勝手が悪い」

「そういうものなのですね。でも、おいしく食べられますね!」

 そうだ。そこが重要だ。チルルは分かってる。

 激辛カレー、フルーツカレー、いつもの至高のカレー、そして、シーフードカレー(イカメイン)が一同に介した。

 壮観で思わず口元が緩む。

 

 次々に投入されるさまざまな酒にドワーフたちが意見を交わしながら、真剣にカレーに合う酒を選んでいっていた。

 彼らは飲むことが大好きであるが、酒好きとしてカレーに合うとテーマを与えられたからには、真剣に選ぶ。

 それが酒好きの矜持と言わんばかりに。

 

 神父が俺に酒を向け、朗らかに自分の意見を述べる。

「私はこの冷酒という酒が気に入りました。シーフードカレー(イカメイン)によく合う」

「ほお。冷酒は日本酒だから、海鮮に合うのかもな」

「日本酒? 冷酒とは異なるのですかな?」

「日本酒を冷やしたものを冷酒と呼んでいる。温めたものは熱燗だ。ほら」

 熱燗をちびりとやり、カレーに浸されたイカをパクリとする神父であった。

「ほおお。こいつはよいですな。老体にはとてもよい」

「体があったまると聞いた」

 神父が大満足のところ、悪いが、まだ終わらんのだ。

 

「そうだ、もう一つある」

 付け合わせのうち、研究に時間を要さず準備できたものを出す。

 人参のラペ、らっきょうは準備できた。福神漬けはまだまだ研究中だ。

 他には温泉卵もある。

「付け合わせとしてカレーに混ぜて試してみてくれ」

「ほおほお。こいつは酒にもあいますな」

 神父がさっそく人参のラぺを摘まむ。

 

「付け合わせは一皿で味を変えてカレーが楽しめる」

「そうだ。店主。チーズを混ぜてもうまそうだと思った」

 チーズか。確かにチーズは定番だな!

「それは日替わりで提供してみる。チーズを入れるとなればスパイスの構成を変えたい」

 完璧を求めるレインハルトは、この場でチーズを提供しない。

 こうして酒好きたちによる狂乱が続くのであった。

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