21.フルーツカレー
《本日の日替わりはフルーツカレー。明日、明後日はお休みです》
ギリギリになったが、何とかフルーツカレーの準備が間に合った。
フルーツカレーには一見するとカレールーじゃないってものが沢山入っている。
某固形のカレールーに入っているリンゴだけじゃなく、キウイ、バナナ、以前も使ったパイナップル。
これだけではない。レーズンに隠し味に使ったハチミツ、と甘いもののオンパレードだ。
「甘い香りがしますね!」
「味見してみるか?」
「はい! あ、いらっしゃいませー」
味見を前にして、最初の客が訪れたため、チルルが元気よく彼らを迎え入れる。
「何、この香り。デザートを始めたのか?」
「いえ。本日の日替わりがあまーいカレーなんです」
猫頭と犬頭のコンビが顔を見合わせ、日替わりのフルーツカレーを注文した。
甘い香りに誘われてか、鼻の利く獣人たちはすんすんとしたあと、ほやあと顔が緩む。
「甘いカレーが一番おいしいかも!」
「以前にパイナップルのカレーも出たと聞いたわ」
数少ない獣人の女性兵士二人が甘いカレーをいたく気に入ってくれたようだ。よしよし、彼女らにとっても十人十色の極上になっていたら嬉しい。
フルーツカレーは数少ない女性の獣人兵士と人間兵士に大好評だった。
中には仲間の女性兵士を連れてくると、言った者まで。
男性の獣人でも種族によっては好きな者もいる様子。獣人は様々な特徴を持っているからな。
チルルのような獣耳と尻尾がある者、頭が動物になっている者、など様々だ。それら特徴によって味の好みが違う傾向にある。
共通しているのは、豆を常食している者が多いくらいだろうか。
なので、チルルにも獣人から好みを聞けたら聞いてくれるように頼んでいる。
ううむ。
こうなってくると悩ましいな。これまで出した日替わりは全て、誰かにとっての極上の一品である。
一番は過去分まで含めて全てメニューに加えることだが、それは不可能だ。
カレールーが極上となる時間は限られている。同時並行で作るにも限界があるし、出せたとしても三品がせいぜい。
三品出すとなれば、新作の日替わりを作る研究時間が大幅に削られる。
「いいことを思いついた」
「レインハルト様。何か嬉しいことがあったですます?」
ちょうど落ち着いてきたところで、チルルが傍までやってきた。
そんなににやけていたのか? 俺は。
それも致し方あるまい。何故なら、素晴らしいことを思いついたからな。
腕を組み自信満々に言い放つ。
「そうだとも」
「どのようなことが?」
「過去の日替わりのみを出す場合、研究時間は必要ない」
「一度作ったものは、同じ手順で作ることができるからですよね」
その通り。
そもそも過去の日替わりカレーは出すつもりでいた。だが、日替わりとして一品だけ出す決まりなんてないわけだ。
研究時間が必要ないなら、日替わりを二種出すことも可能。ものによっては三種いけるかもしれない。
一人より二人、二人より三人。彼らにとっての至高を味わってもらうことができるとは、なんて素晴らしいことなんだ!
「しばらくは新作日替わりになると思うが、過去分を出すときにはチルルにも何を出すか一緒に考えて欲しい」
「喜んで!」
ぱああっとこの上なく嬉しそうに尻尾をフリフリするチルルなのであった。
ひと時の静寂の後、人間の兵士が大挙して押し寄せてくる。
「おいしい! 今までで一番好きかも」
「このようなカレーライスもあったでありますか! パイナップルカレーともまた違った趣でありますね」
セレナとリズが特に満足した様子。
「今まで出た日替わりも出して欲しいな」
ダインからのリクエスト。
「誰しもが初回の日替わりから食べ続けているわけじゃないものな」
ガレスも続く。
「至高が一度きりしか味わえない、というのが難点だと考えていた。ある程度日替わりの種類が増えたら、過去の日替わりを循環させ、たまに新作を挟むとか、今考え中だ」
獣人客が引いた後に考えたことを彼らに伝える。
「おう。そいつは嬉しい。またイカを食べたいぜ」
「俺も肉のが食べたい」
「私は噂のパイナップルカレーを」
ダイン、ガレス、セレナについては聞かずとも分かる。日に日に客が増えていっているから、最初の頃の日替わりは味わったことのない者もそれなりにいるはずだ。セレナのように。
お次は鬼族とドワーフ時間がやってくる。
ちょっと彼らに聞いてみたいことがあったのだ。
「酒好きの者はいるか?」
ドワーフたちが一斉に手をあげる。彼らだけじゃなく鬼族も俺も俺もと手を上げた。
「俺は余り酒を飲まなくてな。各自にどの酒がカレーライスに合うかを試して欲しいのだ。店の営業とは別にやりたい」
「参加するぜ! 神父さんも一緒がいいって」
「そうだな。神父も誘うか」
実は神父とリズは今日も店に残っていたりする。
「今日の日替わりなら、同じくフルーツの酒がいいんじゃないか?」
などなど、酒好きたちから色々案が出てくる。
「明日、明後日は店が休業の予定だ。そういう意味では絶好の機会だな。明後日のいつも君らが来る時間に試飲会を開催でいいか?」
歓声があがった。
「レインハルト様。人間や獣人には声をかけないのですか?」
「無類の酒好きなのはドワーフたちじゃなかったのか?」
「そうかもです。全員お呼びしても店にはいらないですます」
「そうだな」
言い忘れたが、最初の客からずっと、休みの連絡も忘れていない。立て看板にも休みのことを書いていたから、伝える前に知っている者もいた。
休みの日は何をしようか。
まずはスープカレーの研究から行く? それとも他の研究にするか?
酒は酒の元となる食材を集めておき、当日カレーを提供しつつ試飲してもらおう。




