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20.カレーの研究時間確保のために風呂他

「レインハルトさん、何か動いてるであります!」

「ゴーレムか。沢山いるぞ。彼らにこの庭園の整備を任せているのだ」

「あ、あれがゴーレムなんですか!」

「可愛いですよね」

 チルルは慣れたものだったが、リズはそうではないらしい。

 空の島にもゴーレムがいたのだけど、見てなかったか?

「畑ごとにゴーレムの形が違うんですよ!」

 チルルが尻尾をパタパタさせながら、リズに説明をしている。

 ここのゴーレムは犬ほどのサイズがあるリスと、通常サイズのリスの形をしたゴーレムに手入れを任せていたっけか。

 カレーライスの食材集めのために、多数の畑や庭園を作った。

 余りに数が増えてくると、俺としてもどこに何があったのか頭の中で全て記憶しておくのが難しくなってきたのだ。

 そこで、場所ごとにゴーレムの形を変えたりと工夫を凝らしたのだが、結局、それでも記憶だけに頼るのが難しくなった。

 最終的に場所ごとの目録を作り、現在に至る。


「よし、この後は砦跡に行かず、リズを送る」

「ありがとうございます!」

 リズの送り先は神父の送り届けた場所と同じ、お馴染みの林の中だ。

 彼女とここで分かれ、今度こそ砦跡のカレーライス屋へ戻る。 


 ◇◇◇


 砦跡のカレーライス屋に戻るなり、リョウが血相を変えて迫ってきて、俺の腕をグイグイ引く。

「レインハルト! 一体全体どうなっているんだい!?」

「何だ? 帰るなり騒がしいな」

「風呂だよ! 風呂!」

「風呂に入れないとかトラブルがあったのか?」

 そうじゃないと、風呂場まで彼に付き添うことになった。

 

 風呂場は特に変わりはない。

 風呂桶に洗い場、そして、シャワー設備だ。

「特に問題ないが?」

「そこじゃないって! 蛇口とかどうやったんだ!? 日本の家庭用の風呂と変わらないじゃないか」

「ああ。蛇口を捻ってお湯が出る方が早いだろ。リョウの知る風呂との違いは、温度調節ができないことだな」

「それは些細な問題だよ。蛇口を捻ったらお湯が出る。シャワーを浴びることができる。これがどれほどのことか」

 温度調節もやろうと思えばできるのだが、やらない。

 理由は単純明快だ。

 そもそも、生活設備を整えるのは何のためにやっているのか。

 言うまでもないが、カレーライスの研究のためである。

 蛇口を捻って湯が出て、風呂にすぐがいることができるということは、それだけ風呂に要する時間を節約できるということだ。

 その分、カレーライスの研究に時間がさける。

 温度調節をしないのは、温度調節する時間が勿体ないからに過ぎない。

 

「こっちもだ」

「今度は何だ……」

 お次は転移前に作った客室に連れてこられた。

「ここを押すと、天井が光る」

「部屋に電灯は必要だろう?」

「一般的じゃないんだけどな……。こんなの海底都市でも見ないぞ。せいぜい魔法のランプだよ」

「ランプじゃ暗いだろ。いつ何時でも研究ができるよう、光量は肝要だ」

 何故か頭を抱えるリョウ。

 少しも不思議なことじゃあるまい。メモを取るにしても明るくなければ見えないだろう?

 あ、そういうことか。

 ようやく理解したぞ。


「リョウは前世知識で物事を判断していたのだろう?」

「いや、そういうわけじゃ」

「エルフは暗いところでも昼間のように見通せる、なんてことはない。人と変わらぬよ」

「そこじゃねえ!」

 ほんとうるさい奴だな。疲れないのか?

 はあと盛大な溜息をついたリョウはちょこちょこと俺についてきていたチルルに絡んでいく。


「君じゃ話にならない。チルルさん!」

「は、はいい」

「ご、ごめん。語気が強かったよね。ちょっと色々驚いちゃってさ」

「お気持ちは分かりますです」

 チルルがネズミ耳がピクピクさせ、同意する。

 彼女もまた風呂や部屋の設備に驚いたようだったが、レインハルト様の魔道具なので、と納得したらしい。

 設備といえばこれだけじゃない。

 最も大事なキッチンにも力を入れている。こちらもシンクは蛇口を捻れば水も湯も出るようになっているのだ。

 コンロは科学だとなかなか難しい温度を一定に保つ機能も付けてある。

 ゴミ処理も魔法で砂に変えてしまえば一発だし手間がかからんぞ。

 

 彼女と会話して満足したと思ったら、リョウがまたこっちに来た。

「何故これほどまで快適さを追求したんだ?」

「カレーの研究により時間をかけるためだ。生活のために時間をかけることはできないだろ。掃除もこうだ」

 指をぱちりとすると小さなゴーレムがわらわらと出てきて掃除を始めた。

「惜しみなくバカスカ魔力を使うんだな」

「大したものじゃあないさ。効率化しているから、それほど魔力を消費しない」

「効率化?」

「魔法は科学に似たようなものだろ? 数式を解けばいい」

 いやいや、それはおかしい、とリョウが呆れる。

 

「リョウはそこまで魔法の仕組みを研究していないのだな」

「魔人の使う魔導書は一通り読んだぞ」

「元々ある魔導書の類は、呪文やらが書いてあるだけだろう? ライターのスイッチの押し方が書いてあっても、ライターに火をつく仕組みは解説していない」

「魔法を科学と見立てて紐解いたの?」

 さすが元日本人、理解が早くて助かる。

「い、一から理論構築をしたのかよ。一体どんだけ時間をかけたんだ……」

「カレーの研究に費やした時間は300年を超える。魔法理論もその一環だ。無いなら探求し、作るしかない」

「く、くるってやがる……」

「はは。誉め言葉と受け取っておこう」

 全ては至高のカレーライスを食べるためだ。

 魔法理論も、その結果生まれた転移魔法やゴーレムを作る魔法も全て。

 真っ白けになるリョウはヴェルネーゼに任せ、俺は俺のやることを進めるとしよう。

 

「チルル、先に風呂へ行ってもらえるか? 俺は明日の日替わりの準備をはじめる」

「はい! レインハルト様のお風呂セットも置いておきますね」

「助かる」

 パタパタと風呂へ向かうチルルを見送ってから、キッチンへ向かう。

 さあて、果実を使ったカレー。どのように持って行くか研究のし甲斐がある。

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― 新着の感想 ―
至高のカレーへの道のり、凄い。 リョウのツッコミが途中で迷子になっている。
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