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19.お休みは必要であります

 しばしの沈黙の後、リョウがふと口にする。

「カレーってさ。福神漬けとかラッキョウとかあるけど、その辺も作ろうとしたの?」

「な、なんだと……」

 た、確かにそうだ。カレーライスのチェーン店には何かしらの付け合わせがる場合も多い。

 いやむしろ、福神漬けが標準で入っているものの方が支配的ではないだろうか。

 リョウは弱ったなと後ろ頭をかいているが、あからさまに俺から目を反らし、言葉を続ける。

「あ、いや、インドカレー屋さんとかだとサラダがついてたりするよね。どこの店でもオレンジ色っぽいソースだよね。はは」

「な、なんだと……」

 そ、そうだ。そうだったな。

 日本時代に俺が好きだったゴー〇ーカレーもキャベツがライスの上に乗っていた。

 一方、リョウは頭を抱え「あああああ、やっちまったああ」とか叫んでいる。

「こ、この状況を打開するには。レインハルト」

「……ん。なんだ?」

 付け合わせとサラダのことで頭がいっぱいだったってのに、どうしたってんだ?

 顔を上げるとリョウが拳を突き上げる。

「戻ってきたー! カレーは飲み物!」

「スープカレーか。悪くない」

「い、いや。ネタだよ?」

「そういやそういう言葉もあったな。しかし、スープカレーという発想は悪くない。日替わりに出そうか」

 スープカレーは女性に人気だとか聞いたことがある。

 俺としては変化球のカレーライスになるが、スープカレーはスープカレーで挑戦すべき研究材料だな。

 スープカレーは野菜の役割が通常のカレールーと異なる。形を残し、大きく切り分けたニンジンやナスをスプーンで切って食べるという独特なものだ。

 

「レインハルト様?」

 チルルが俺の名を呼ぶ。

「よおし。研究意欲がこの上なくわいてきたぞおお」

 しかし、研究熱に浮かされた俺はついつい叫んでしまった。

 そのため、呼びかけたチルルがびくううっとなっている。

 すまんな。リョウが次々に新たな発想をくれるものだから、叫ばずにはいられなかったのだ。

 

 この後、ドワーフが数人来店し、その間もリョウたちは店にいた。

 閉店後、神父を送ったものの、リズは店に戻り、食材集めについてくることとなったのである。

 研究熱心なのは良いことだ。

 

「明日の日替わりは何にしますか?」

「果実のカレーにする。しかし、それだけじゃあない。付け合わせも目途をつけたい」

 チルルの問いに即答する。

 リョウからもらったサラダと付け合わせを研究する必要があるが、こちらは一筋縄ではいかないだろうから。。

 これらを開発するなら、店を一日休んで食材集めに行くのも手だな。

 

 休み、休みか。

 む。俺はともかく、チルルには休暇を与えないといけないと今更気が付いた。

 俺はカレーライスを提供することが喜びだ。休暇など必要ない。俺がサラリーマンなら週休二日必須だがね。

 カレーライスの伝導は仕事ではないのだ。人は毎日食べ、風呂に入り、睡眠する。俺にとってカレーライスはそれと同じ。

 なので、カレーライスの開発・研究については、24時間365日続けても全く問題ない。

 だが、チルルにとってはそうじゃないって話だ。一人で研究はできるが、店をやりくりするには彼女にいてもらわねばならないからな。

 最高のカレーライスを提供するには味だけじゃダメだ。食す空間も落ち着いて、心安らかにし食べる必要がある。

 つまり、味と環境が揃って初めて至高となるのだ。

 味はともかく、環境に関して彼女の貢献は大きい。

 来店した客への挨拶、彼女の笑顔、配膳、それらが、客に良質な環境を提供する。

 カレーライス屋に彼女は必須の存在で、彼女がいなければ環境が提供できなくなってしまう。

 俺が、彼女にいてもらわねばならないと言った理由が明確になっただろうか? 

  

「今何日連続で開店していた?」

「え、えっと。五日? でしょうか」

 五日か。

 カレーライス屋を仕事とするなら、休みはどうするか。そうだな。

「明日営業したら、二日休むぞ」

「は、はい……」

 呆気にとられた様子のチルルを見やり、彼女の理解が追いついていないのかと想像する。

 ところが、外野が騒ぎ立ててきた。

「お休みは必要であります」

「そうだそうだ。ブラック反対ー」

 リズにリョウが続く。

 ふむ。やはり休みは必要だな。

 まずは週休二日で様子を見よう。祝日や夏・冬休暇がない状態なので、今後の応相談としておく。

 俺? 俺は店が休みの間に、みっちりと研究を進めるに決まっている。


「リズは素材集めについてくるとして、リョウとヴェルネーゼはどうする? 泊るなら部屋を用意するが」

「泊めてくれると嬉しい」

「分かった。先に部屋を作っておくか。この後、俺たちは食材集めに向かう」

「ありがとう。僕たちは休むよ」

 ちゃちゃっと魔法で部屋を二つ作り、ついでに風呂の説明もする。

 リョウは風呂にとかく喜んでいた。

「感想は明日の朝にでも聞く。改善点を出して欲しいからな」

「分かった。何から何までありがとう」

「なあに、大したことじゃない。カレー研究の効率化のためにやったことに過ぎないからな」

「カレー脳ここに極まりだな……」

 感激したいたリョウの顔がげんなりとしたものに変わった。 

 

 ◇◇◇

 

 そんなわけで、素材集めのため転移する。

 転移先は南国系フルーツが多くなる空の島だ。二人とも一度来たことがあるから、今回は注意事項を述べる必要もないだろう。

「う。何度経験しても転移は慣れないであります」

「ちょっとばかし、クラクラしますよね」

 言われてみれば、転移時は確かにふわりとする。

 似たような感覚だと、高層階から一気にエレベーターで地上まで移動した時に近い。ふわりとした浮遊感があるというか、そんな感じだ。

 空の島でパイナップル、バナナ、キュウイ、ナツメヤシ(デーツ用)など南国系フルーツを採集する。


「よし、回収終わりだ。次へ転移するぞ」

「ま、またでありますか」

「はいい」

 お次は、人が住まぬ奥地にある庭園である。

 ここはブドウ畑になっており、レーズンを作るためブドウを採集しておこうと思ってね。

 

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