18.魔人の転生者
「これにて、屋外出張は終了だ」
ひとしきり食べ終わったことを見た俺は、そう宣言し青空店舗の撤収を始めた。
結構な時間が経過したので、店に客が来ているかもしれないからな。
「やはり。いたか」
「お待たせしましたー。いらっしゃいませー」
店に戻ると、リズと神父が来店しており、並んでカウンターに座っていた。
すかさずチルルが水を注ぎ、彼らの前に置く。
「すまん。待たせたな」
「いやいや。お邪魔しておるよ」
「待たせた詫びだ。こいつを試してみてくれ。きっとカレーライスに合う」
「ほおお」
神父へ芋焼酎をロックで渡す。氷もちゃんと入れているぞ。
こいつは先日、神父とドワーフが会話しているのを聞いて、試しに作ってみたのだ。
酒のことにはあまり詳しくなく、どうやって作ろうかと思ったが、魔法だと適当でも何とかなるもである意味驚いた。
神父らは酒精の強いものがいい、と盛り上がっていたので、アルコール度数の高いものって何だろうと考えてな。
たしか、芋焼酎がカレーライスに合うとか何かで見たか読んだ記憶があったので、適当に発酵魔法を使ったら完成してしまったのである。一応、カレールー用のものであるが、アルコール度数を計測することも行った。
度数は24度と、まあまあの強さになったのではないだろうか。
「水で割った方がいいか?」
「いや。いい塩梅ですな。もう一杯」
「いいぞ。これからカレーライスを準備せねばならんからな」
「ほお。ありがたい」
神父は念願の二杯目にホクホク顔である。
お次はリズが声をかけてきた。
「レインハルトさんはどちらへ?」
「届けに行っていたのさ。ダインに頼まれただろ」
「え。ええええ。今日って……」
「何やら小競り合いが起きていたが、問題ない。みな、うまそうに食べていた」
口をパクパクさせ、頭の上にあるゴーグルを掴んでプルプルするリズだった。
「おいしそうにみなさんで?」
「そうだとも。鬼族も一緒だ。ドワーフは見なかったな」
「……ドワーフは技術班が多いので、戦場に出ても最前線の方は少ないと思います」
「そうか。残念だ。彼らにも食べて欲しかったのだがな」
そ、そうですね、と乾いた笑いを返すリズ。
まあ、明日には店へ訪れてくれるはずだ。彼らからも十人十色を聞かねばならんな。
リズと神父へ配膳が終わる頃、店の扉が開く。
「いらっしゃいませー」
「ふう。なんとか巻いたぞ……」
来店したのは先ほど青空店舗で出会った魔人のリョウだった。
「先ほどぶりだな」
「ま、ま、魔人じゃないですかあああ。取材したい……」
「しゅ、取材はちょっと……この子、変わってるね」
キラッキラの目で見つめるリズへ嫌そうな顔をするリョウである。
その時、リョウの髪の毛がざわりとなり、背筋を震わせた。
「リョウ。ここにいたのね。また女の子を引っかけてるのかしら」
「ご、誤解だあああ。店主ー」
「レインハルトだ」
「レインハルト。説明を求む」
「カレーライスを喰うのか、喰わないのか?」
「せ、説明になってねえ」
説明しろと言うから説明したってのに、失礼な奴だな。
「あ、あのですね。……というわけなのですます」
チルルがネズミ耳と尻尾を激しく動かしながら、たどたどしくヴェルネーゼへ説明をする。
「ありがとう。リョウはすぐ女の子にちょっかいをかけるものだから」
「誤解だって言ってるじゃないか」
キッとヴェルネーゼから睨まれ、「きゃん」と情けない声を出すリョウであった。
「誤解も解けたし、レインハルト、カレーライスを一杯頼む」
「さっき食べたところなのによく食べられるわね」
「カレーはドリンクです」
「ルーはともかく、ライスは違うんじゃないの?」
ヴェルネーゼに突っ込まれているが、あっという間にリョウがカレーライスを完食する。
彼が食べている間にリズがチルルへ魔人とはどのような種族なのか説明していた。
「魔人は誰しもが魔法を使うことのできる種族なのだけど、数が少ないの。それでね。なんと海の下に街を作って住んでいるんだって」
「海の底、でありますか!?」
「見てみたいよね。研究心が刺激されるよね!」
「は、はい」
リズの勢いにたらりと冷や汗を流すチルル。
まとめると、魔人は海底都市に住んでいる種族で、帝国や連合国で見ることは滅多にない。
数はエルフと同じく少ないが、誰もが魔法を使うことができ、魔力の多い者から魔人と呼ばれている。
「飛んでいたのも魔法ですますか」
「と、飛んでいたの!? 見たかったあ」
「リズさんもあたちも浮かんだことあるじゃないですか」
「た、確かに」
リズが、海での出来事を思い出したのかさああっと青ざめていた。
一方で食べ終わったリョウは俺にカレーライスの感想を述べ始める。
「いやあ。本当においしかった。僕も世界各地を飛んで回っていたんだけど、カレーライスを見ることはなかったよ」
「そうだな。無いなら作る。これしかない」
「ま、まさか一から全部作ったのかい?」
「そうだとも。スパイスの一つから全て、だ。恐らく、ターメリック一つとっても、別種だと思う。しかし、味が同じであれば代替できるだろ」
「そいつは気が遠くなる……一体、カレーライスを作るまでにどれくらいの時間を費やしたんだい?」
「300年はくだらないな」
口をパクパクさせて、絶句するリョウ。
地球のように材料が全て揃っているなら、ここまで時間はかからなかったさ。
カレールーに使うスパイスは最低でも20種類は必要だ。世界中を旅して、似たようなスパイスを探し、再現できないものについては、品種改良や魔法による改良を加え、仕立て上げる。
途方もない挑戦だったが、至高のカレーライスを食べるためと思えば安いものだろ。




