15.お呼びです
騎士風の男たちが入店すると、これまでざわざわしていた店内が静まり返った。
「はじまるのか……」
静寂の中、呟かれた誰かの言葉が嫌に耳に届く。
発言した当の本人はうつむいた後、何事もなかったかのように食事を続ける。
一方で 騎士たちが向かう先はダインたちのテーブルだった。テーブル席では昨日食材集めについてきたリズを含めたダイン、ガレス、セレナの四人になる。
騎士たちが来ても、ガレスが眉をしかめるだけ。セレナは見て見ぬふりをしてマンゴーラッシーを飲んでいる。
リズは完全に無関心で、どこ吹く風といった感じで相変わらず店内をきょろきょろと見渡していた。
「ビルシュタイン伯爵。団長がお呼びです」
「これから飯なのに……急ぎだよな?」
騎士に応じたのはダイン。なんと、ダインはビルシュタイン伯爵なる貴族だった。
ところが、テーブルに座った他の三人は彼が貴族ということを知っていたらしく、「行ってこい」とガレスが彼の肩を叩く。
「俺がお前の分も食べておくから心配するな」
「いやいや、それで俺の腹は膨れない。ちょ、ま。引っ張るな」
「ビルシュタイン伯爵!」
「いやああ。店主。カレーライス、カレーライス」
それほど食べたかったのか。
仕方あるまい。至高のカレーライスはいつ何時でも食べたくなる気持ちは分かる。
「届けてやろう」
ダインを見送った三人だったが、この後は無言で食べ続ける。
他の兵士たちも心なしか元気がない。
この後の鬼族らは逆にいつも以上に陽気で、どんどんおかわりだー、と食べまくっていた。
ドワーフに今日ばかりは酒の二杯目を、とせがまれるが、もちろん拒否したぞ。
二杯、三杯と飲むことでカレーライスが至高に近づくというのなら話は別だが、酒のことは詳しくなくてな。
ドワーフは単に酒が飲みたいだけに思える。事の次第は神父に聞いてみた方がよいだろう。
◇◇◇
閉店後、どうしたものかと空になった寸動を見つめ顎に手をやる。
「どうされたのですますか?」
「いや。明日の日替わりをどうしたものかと考えていたのだ」
「セレナさんがリクエストされた果実のカレーはいかがですか?」
「そうするつもりだったのだが、問題があってな」
思っても見ない返答だったのか、チルルのネズミ耳がペタンとなった。
彼女のことだから、俺より早く気が付いていると思ったのだが、意外だ。
「明日も肉肉カレーを日替わりにすべきではないかと思っているのだ」
「あ……」
「肉肉カレーの依頼主はダインだ。しかし、ダインは食べることを目前に連れていかれた」
「ダインさんのための肉肉カレーはまだ食べられていない、ということですね」
チルルの言う通り。肉肉カレーがダインにとって至高かどうかも見ぬうちに次の日替わりへ進むことはできん。
ダインが食べた結果、至高ではない、となれば再研究の道もある。
だが、食べないことには何も始まらないのだ。
「ダインさんは毎日来られますので、明日の日替わりを肉肉カレーにしますか?」
「そうだな。明日は肉肉カレーにしよう。ダインのことだが、彼に届けると約束した。明日は来店を待つのではなく、ダインの元へ行くぞ」
「はい!」
「そうなると、店の営業をどうするかだな……」
「レインハルト様でしたら、転移魔法ですすっと行けるのでは?」
「確かにそうだな。チルルも来るか?」
コクコクと頷きを返すチルルであった。
整理しようか。明日の日替わりは肉肉カレーとし、店の営業は続けつつ、ダインの元へ肉肉カレーを届ける。
「よし。明日の日替わりは肉肉カレー。ならば、採集に向かう必要がなくなったな」
「この後ゆっくりとお風呂に入られますか?」
「いや、届けるとなれば準備が必要だ。今から配達用の準備をする」
「肉肉カレーの仕込みですか?」
それもある。
だが、それだけじゃあない。まあ、カレーライスに比べれば大した手間でもないさ。すぐに終わる。
◇◇◇
《本日の日替わりは肉肉カレー》
立て看板を店先に出し、いつなら獣人兵士たちが訪れる時間帯となった。
「どなたもいらっしゃいませんね」
「そうだな」
ふむ。俗世間のことにはあまり詳しくないが、仕事をしているのならそういう日もあるだろうさ。
これはこれで悪くない。
「来店がないなら、ダインへ肉肉カレーを届けに行くか」
「はい!」
元気よくチルルが返事をする。
目をつぶり、遠見の魔法で彼の位置を探っていく。
「沢山、見込み客がいるじゃないか」
自然と口角があがる。こいつはいい。
日替わりの肉肉カレーだけじゃなく至高のカレーも持って行くか。
「お客さんが沢山いるのですか?」
「見込み客だがな。せっかく届けるのだ。その場で欲しい者にも振舞おう」
準備を整え、チルルを伴い、転移する。
そこは、まさに戦いが始まろうとする戦場だった。
帝国、連合国の両軍が睨み合っている。続いて、鬨の声とドラの音が鳴り響くと、両軍が声を上げながら接近していく。
「あ、あわわ」
「どうだ? 見込み客が沢山だろう?」
「あ、いえ、そう、いえ」
「さあ、準備をしよう。チルル。立て看板を持て」
ポンと彼女の背中を叩くと、ピンと尻尾が伸び、動き始める。
さあて。出張店、営業開始だ。




