14.肉肉カレーは肉の捕獲も必要だ
「ありがとうございましたー」
元気よくチルルの声が店内に尾引き、本日最後の客を見送って、閉店の時間となる。
「送るぞ。先日リズを送り届けた場所でいいか?」
特に異論はなかったので、神父とリズを宿舎近くの林まで送り届けた。
「あ、あの。この後、食材を集めに行かれるでありますか?」
「そのつもりだ。明日は肉肉カレーにする」
「じ、自分もついて行きたいです」
「構わんぞ」
神父とはここで分かれ、リズを連れて砦跡のカレーライス屋に戻る。
「お帰りなさいませ! リズさん。お泊りになられるですますか?」
「いいのかな?」
チルルとリズの目線がこちらへ向く。
「構わんぞ。部屋を一つ追加するか」
「あ、あの。あたちの部屋でも」
チルルがそう言うなら、彼女の部屋へベッドを一つ追加するか。
「リズさん。お仕事はよいのですか?」
「うん。さっきエドガー神父に『もしかしたら帰れないかも』と伝えてもらうように言ったんだ」
「そうだったのですますか」
「肉を集めるのにどれくらい時間がかかるか分からないから。今回は気絶せずに……きっと」
グッと両手を握りしめるリズである。
話がまとまったようなので、出かけるとしよう。
「肉、肉、肉をご希望だから、色んな肉を試すか。複数の肉を使うのは必須だな」
「な、なにをとりにいくでありますか……」
握りしめた拳が緩んだリズの顔が青ざめる。だが、彼女は決して「行かない」とは言わなかった。
チルルは特に動じた様子もなく、ぽやぽやあっとしている。
豚、牛、鶏は当然として、他も試すか。
結局、牛が一番だったのだがガレスの求めるのは肉と肉のハーモニーだ。
脂が多くジューシーな肉、あっさりとしたささ身のような肉、食感が楽しめる肉、肉一つとってもいろいろなアプローチがある。
何より大事なのが、ルーに染み出る肉の出汁だ。
これらが複数の種類の肉を合わせた時に絶妙にならなきゃならん。
「おもしろい。思った以上におもしろいじゃないか」
ワクワクしてきた。
◇◇◇
最初に転移した先は密林である。狙うは泥で濁った川のほとりだ。
川岸の水面にさざ波発見。
そこへ躊躇なく魔法の光弾を撃ち込む。
ドゴオオオオン。
ちと威力が強すぎたか。巨大なワニが空へ浮かび上がり、背中から岩へ激突し絶命する。
「きゃああああ」
落ちた場所が悪かった。リズの目前に巨大なワニが落ちたため、彼女の盛大な悲鳴が響き渡ってしまう。
これにはリズだけじゃなく、チルルも言葉を失っている様子。
「次行くぞ」
「は、はいい」
手を差し出すとチルルは即握ってきたが、リズの反応がない。
「リズ」
「……行くであります!」
ふう。再起動してくれたようだ。
その後――。
「ふああ。でっかい鳥ですます!?」
崖から空を見上げると、翼開帳20メートルほどの怪鳥が悠々を飛翔していた。
ワニを仕留めた時と同じく光弾で……いや、ワニの時と違って直撃を受けたら爆散してしまうかもしれんな。
「ならば、麻痺させるか」
怪鳥は魔法で麻痺状態にする。当然ながら、飛翔できなくなり、真っ逆さまに落ちて行き、地面に激突した衝撃でおだぶつになった。
鳥肉を獲得したらお次は、こいつか。
先ほどの怪鳥を倒した場所から近い、険しい山の中腹へ転移する。
同じく空に飛翔する巨大な生き物が。
「あ、あれ。竜種じゃないんですかああ」
「飛竜だぞ。尻尾は毒があるから食べられない」
リズが叫ぶ。
あれを見ても鳥には見えんだろ。そもそも鳥肉はもう確保済みだ。
「ですますうう」
「ありますうう」
これにはリズだけでなく、チルルも怖かったようで、二人揃って叫んでいる。
彼女らがおののいている間に怪鳥の時と同じく、飛竜を麻痺で地面に落として仕留めておいた。
「そういえばリズ。ドラゴンの肉が好みなのか?」
「い、いえ、そういうわけではないであります」
「リズの好みも聞けたら教えて欲しい」
「自分。嫌いなものがありませんです」
それより、見たことのない食材にワクワクするとのこと。
俺もだ。ありとあらゆる食材を使い、カレールーを作る。これほど楽しいことはない。
「ドラゴンの肉は色々な種類があるのは知っているよな?」
「は、はい。一口にドラゴンと言っても色々な種がありますです」
ふむ。
「い、いや、見に行きたいと言っているわけでは……きゃああ」
「チルルも来るか?」
「はい!」
というわけで、一説では飛竜は竜種に含まれないらしいので、今度は竜種を狩ることにしよう。
うーん、何がいいか。
雷竜にしておくか。雷竜は竜種の中でも比較的肉質が柔らかく、癖がない。
といっても、個人的には大型ワニの方が淡泊でカレーライスによくあう。
「あわわわ」
リズが真っ白になっているが、そのうち元に戻るだろうさ。
◇◇◇
《本日の日替わりは肉肉カレー》
食材集めのかいあって、本日の日替わりは肉肉カレーである。
獣人の兵士たちには好評で、一皿でも腹いっぱいになる。お得だ。という感想が多かった。
さて、いよいよ本番が来店したぞ。
「いらっしゃいませー」
「チルルちゃん。俺たちは日替わりの肉肉カレーね」
ダインとガレスの二人はさっそく日替わりカレーを注文する。
続いてのセレナはどちらにするか悩んでいるようだった。肉肉は脂が多く、あっさりを好む客とは相性が悪いかもしれないな。
獣人たちの様子を見るに、好きな者にとってはたまらないようだったが。
む。
金属の擦れる音が複数店へ近づいてきているな。
しかし、チルルだけじゃなく、音に敏感だろう兵士らが誰も金属音と足音双方に気が付いていないようだった。
理由はもちろんある。
初日に砦跡に来た時、チルルが戦場の音や声に対し不安を感じていた。
言うまでもないが、カレーライスをおいしく食べるには安心してゆったりと、静かに、落ち着いて食べることのできる空間を作ることが肝要だ。
そこで、外の音をある程度遮断できるようにしておいたというわけさ。ただし、店の扉を開けると外の音が普通に聞こえるようになる。それでも、建物の中なので外にいるよりは音が届かないがね。
数十秒後、扉が開かれ、騎士風の全身鎧を身にまとった数人が店内へ入ってきた。
ほう。また違うタイプの客だな。こいつは楽しみだ。




