12.シーフードカレー
「よし。完成だ」
「ふああ。レインハルト様! 今の今までお鍋とにらめっこしていたのですか……」
「もうそんな時間か。獣人が来るまでは……まだ時間があるな」
「まだ朝ですのでお昼まではまだ時間がありますです」
熱中していたら、時間を忘れていた。もうチルルが起きてくる時間になっていたとは。
しかし、今はそのようなことなど些事! イカメインのシーフードカレーが完成したのだからな。
恐れおののくがいい。シーフードカレーの極上さに。
「少し眠る。寸動の火加減はセットした。チルルに一つ頼みがある」
「は、はい」
ゴクリと喉を鳴らすチルルのネズミ耳と尻尾が緊張からか、ピンとなる。
「立て看板を任せたい。今日の日替わりはシーフードカレーなのだが、イカがメインだ」
「シーフードカレーはイカがメインじゃないものもあるのですね!」
「さすが、察しがいいな。日替わりの名前を考えて欲しい」
「わ、分かりました。立て看板はお任せください」
いつものネズミの絵も描いていいぞ、と告げ、眠りにつく。
◇◇◇
「いらっしゃいませー」
チルルの元気な声が帝国側の獣人兵士を迎え入れる。
立て看板には『日替わりはシーフードカレー(イカメイン)』と描かれていた。ネズミの絵もちゃんと入っているぞ。
眠る前にチルルに告げた通り、シーフードカレーは肉と同じく様々な種類があり、一言にシーフードカレーと表現するのはかなり引っかかる。
しかし、チルルの判断でシーフードカレー自体に馴染みがないので、まずは最も広い意味でシーフードカレーとした方が分かりやすいとなり、シーフードカレー(イカメイン)とすることにしたのだ。
来店した獣人たちからさっそく日替わりの注文が入った。
堰を切ったように、どんどん日替わり注文が入り、獣人たちががつがつカレーライスを食べている。
チルルも獣人だからか、獣人たちの時間帯は比較的最初から好意的な空気だった。今では馴染みの客が彼女と二、三、会話を交わすことも珍しくない。
チルルが新しく来店した犬頭と猫頭の獣人に向け元気よく挨拶をする。
「いらっしゃいませー」
「チルルちゃん。今日の日替わりは?」
「シーフードカレーです。イカがたくさん入ってますよ」
「おお。好物なんだ」
などと猫頭の獣人がウキウキの様子。
一方の犬頭はいつも通りで、極上カレーを注文する。察したチルルが犬頭に十人十色の精神を説明した。
良い判断だぞ。チルル。
「みなさんから好みのものを聞いているんですよ」
「好みか……」
犬頭の顔は優れない。
なにやら、好みというわけではないのだが、彼は貧困の出らしく、豆を食べて飢えを凌いでいた記憶があるらしい。
「豆ですか。あたちも似たようなものでした」
残飯を漁っていた自分と重ね、チルルの目が潤む。
いやいや、待て。ここは口を挟まずにはいられん。
「豆か。どんな豆なのだ? 何でもいいのか?」
「森に入ると豆があってな。小さいものでもかじったさ。ただかじるだけじゃない。潰して水でスープにする。腹が膨れるんだ」
「豆か。おもしろい。君の思い出の豆を極上のカレーライスにしてみせよう。豆は嫌いではないのだろ」
「ある意味、思い出の味だな。苦い記憶とともにな」
苦笑いする犬頭の獣人兵士であったが、その顔、明日にはとびっきりの笑顔へと塗り替えてやろう。
さてお次はお待ちかねの帝国側人間兵士の入店時間だ。
「いらっしゃいませー」
「チルルちゃん。こんにちはー」
ひらひらと手を振るダインに無言で会釈をするガレスが来店する。
彼らに遅れ、セレナとリズも席についた。
「俺はもちろん日替わりだ」
「俺も同じ。二皿で頼む」
さあて、今日の十人十色のターゲットであるダインはどんな反応をするか楽しみだ。
チルルが日替わりのシーフードカレー(イカメイン)をダインらの卓に置く。
「待ってましたー」
パクリと一口。続いて、二口。その後は止まらぬようで、ガツガツと食べきるまでダインのスプーンが止まらない。
「こ、こいつはうめえ! 特にこのイカ。今まで食べた中で一番弾力があって、なのに柔らかく、煮込んだのにしっかりと味が残っている」
シーフードカレーに感動するダインは、お次はおかわりの日替わりカレーに手を付け始める。
ふ、ふふ。カレールーに合うとっておきのイカを用意したからな。
満足する彼の様子を見て、ほくそ笑む俺であった。
いや、満足している場合ではない。
リズは……よし、ちょうど食べ終わったな。
彼女と目が合う。ちょいちょいと手招きするとリズがこちらまでやって来てくれた。
「獣人の兵士が豆をよく食べていたと聞いた。どのような豆なのだ?」
「レンズ豆とかひよこ豆ではないかと推測するであります」
「ふむ……」
「ま、まさか、また魔獣やクラーケンとかじゃないですよね?」
動く木のモンスター『トレント』の亜種に豆をつけるものもいるが、今回は畑で採ったものの方が良いだろう。
豆のカレーとなると、ダルカレーだな。
極上カレーほどではないが、ダルカレーは食感がおもしろい。
「チルルさん。私たちからも日替わり候補をリクエストしていいのよね?」
「はい! ぜひ」
セレナの問いに淀みなく答えるチルルである。
「私は果実を使ったパイナップルカレー? のような甘味のあるものがいいわ。カレスは?」
「俺は肉だな。肉が多めのカレーライスが食べたい」
ほほお。果実を使ったカレーに肉肉カレーか。こいつは興味深い。
しかし、今の俺の頭の中には豆を使ったダルカレーしかないのだ。次の研究対象は今が終わってからは当然のこと。
でなきゃ、ダルカレーは至高のものにはならないからな。他にうつつを抜かすなど言語道断だ。カレーライスに対し失礼極まる。




