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罠に落ちた 猿と麒麟 蒲生氏郷 第八章
第八章:独眼竜の毒(奥州仕置の闇)
「蒲生殿、お顔の色が優れませぬな。この薬をどうぞ」
伊達政宗が、その独眼に不敵な光を宿し、慇懃無礼に茶碗を差し出した。
葛西・大崎一揆という泥沼の策謀に引きずり込まれ、心身を削削っていた氏郷への、それは文字通りの「毒」が混じった誘い。
氏郷は、迷うことなくその茶を一気に飲み干した。
「……政宗殿。毒か薬かは、飲む者の『覚悟』が決めるものだ。俺の体には、日野の冷気が流れている。貴様の小細工など、喉を通る前に凍りついて届かぬわ」
一瞬、政宗の端整な顔から余裕が消え失せた。目の前の男は、死すらも「現場の判断」でねじ伏せようとしている。
一方、江戸の家康からも「見舞いの薬」が届く。
狸は、氏郷が「不遇な左遷者」を演じ、北の守護神として「擬態」していることを完全に見抜いていた。
「氏郷殿、無理をなされるな。貴殿が倒れれば、この東国の均衡が崩れる」
家康の言葉は、表向きは至極真っ当な敬意であった。
だがその真意は、「お前という重石が消えた瞬間、俺の天下取りが始まる」という、冷酷きわまる宣戦布告。
氏郷を取り囲むのは、奥州の野心と江戸の沈黙。
麒麟の命を削る、目に見えぬ包囲網がじわじわと狭まりつつあった。




