作り話
その日の夕方、潤也は帰り道でスマートフォンを操作し、ウェブ小説家の集うコミュニティサーバーに参加した。別段、彼は小説を書きたいわけではない。彼はサーバーの利用規約を流し読みし、リアクションの絵文字をつけた。こうしてサーバーの正式メンバーとなった潤也は、さっそく自己紹介を書き込む。
「名前:アラクネ 性別:男 執筆ジャンル:社会派ヒューマンドラマ、クライムサスペンス 自己紹介:小説初心者の男子高校生です。色々、辛口でご指導してください」
自己紹介を書き終えたのち、彼は「相談フォーラム」というチャンネルを開く。そこに彼が書き込むのは、以下の文章だ。
「女子高生が夜の街で道を踏み外していく小説を書いています」
「主人公の杏奈は内申点欲しさに、たくさんの男性教師と肉体関係を持っています。そんな彼女は校内随一の不良少女なのですが、男性教師たちの計らいによって守られています」
「すでに三名の教師が安奈に売られ、教権をはく奪されている設定です。後、安奈は歓楽街で深夜徘徊をし、様々な男から金を貢いでもらっています。リアリティのある生々しいストーリーラインを厳守しつつ、他のエピソードも考えてください」
いずれも、対話型AIに投げればリクエストを拒否されるような内容だ。ゆえに彼は、生身の人間しか頼ることができない。当然ながら、サーバーの参加者たちはこの新入りを、本気で小説を書こうとしている人物だと思い込んでいる。彼らはそのご厚意により、次から次へと案を出す。
「その歓楽街に咳止めが違法販売されていて、安奈がODしているのはどうですか? そこから麻薬にも手を出し始めて、徐々に反社との関わりが深くなるとか」
「歓楽街には他にも路頭に迷う高校生がいて、安奈がその高校生を唆して今日の食料を万引きするのもアリかも知れない」
「闇バイトに手を出す展開もありだと思う。先ずは出し子からかな。表面上は荷物を受け取るだけの仕事だから、無知な高校生なら騙されると思う」
サーバーのメンバーたちは、一切の悪意を見破っていない。仮に猜疑心を持つ者がいたとして、ここで新入りを勘ぐるような発言をして角を立たせるのも得策ではない。結果、様々なユーザーが潤也のプロットを監修し、一つの物語が完成した。
以下は、潤也が書いた文書ファイルの内容だ。
*
以下、蒼木由依に関する虚偽情報です。口裏を合わせ、情報の断片だけをSNSに書き込んでください。全員が全ての内容を網羅した書き込みをすると、確実に怪しまれます。
由衣は内申点を高めるため、様々な男性教師と肉体関係を持っていた。
由衣が守られてきたのは、男性教師たちの計らいによるものである。
約束を破った教師三名(赤井太郎、和田三木男、中村愁一)が社会的に抹殺されている。
他にも、由依は歓楽街で様々な男から金を貢いでもらっている。
歓楽街では咳止めが違法販売されており、由依はよくODしている。その延長で、大麻を吸っていたこともある。
歓楽街ではたくさんの非行少年が路頭に迷っており、由依は彼らに食料を万引きすることなども指示している。
闇バイト勧誘に引っかかった由依は、今は受け子として働いている。
一人が宣えば大嘘でも、皆で言えば真実味を帯びます。皆さんの力で、蒼木由依の評判を落としましょう。
*
さっそく、潤也はこの文書を深層ウェブに投稿した。続いて、彼はクラスのグループチャットに匿名のサブアカウントを入れ、そのアカウントで文書ファイルの共有リンクを送信する。そこでクラスを焚きつけるのは、絵里だ。
「良いね、やろうやろう! 由依は皆の人生を壊したんだもの。由依自身の人生に報いらないと、皆気が済まないでしょ?」
そのメッセージを皮切りに、生徒たちは次々とSNSアカウントを開設していった。




