一軍女子
そして現在、昼休みの空き教室には、四人の一軍女子が集まっていた。当然、その中には蒼木由依も含まれている。そもそも彼女は、一軍女子を率いる女王なのだ。さっそく、その女王が話を切り出す。
「次のいじめの標的、絵里にしよ」
そう告げられた途端、一軍女子たちは騒然とした。幾度となくいじめの報復を受けてきた身として、彼女たちは復讐代行部の恐ろしさをよく理解している。
「ダメだよ。流石に、それだけは……」
「絵里のバックには、宏太と潤也がいるんだよ? 勝てっこないよ、あんな奴らに……」
「ワタシはアナタを恐れているけど、それ以上にあの連中を恐れている」
いくら女王の指示だからといって、そう容易に付き従う三人ではなかった。復讐代行部の所業の数々を鑑みれば、彼女たちが下手を打てないのも当然のことだろう。ただでさえ誰を標的にしても復讐されるのに、相手が復讐代行部の部員であれば殊更に危険だ。
由依は憤り、机を勢いよく蹴り倒す。
「君たちは、私の舎弟でしょ! 私が命令したら、それに従う! それができないのなら、今までの全てのいじめの責任を背負うスケープゴートになる! 私たちは、そういう約束のもとで動いてきたでしょ!」
空き教室に、彼女の怒号が響き渡った。一方で、舎弟たちも決して引き下がりはしない。
「いくらなんでも、横暴だよ!」
「そうだよ! 復讐代行部を敵に回すなんて、自殺行為じゃん!」
「ワタシたち、まだ社会的に死にたくない!」
彼女たちの知る範囲でも、五人の生徒が人生を狂わされた。一人は愛犬を謀殺され、一人は完全に孤立した。一人は自宅を荒らされ、一人は痴女のスティグマを植え付けられた。更にもう一人、同性愛者のラベルを貼られた生徒もいる。それら全てが復讐代行部の所業によって引き起こされた以上、彼女らが怖気づくのも無理はないことだ。四人が唯一成功した例は、せいぜい師走を追い詰めた一件だけだ。その一件も、復讐代行部が動かないことを前提としていたがゆえに成立した節がある。あの部の部員に手をかけることは、この瞬間までずっと暗黙のタブーだったのだ。
由依は嗤う。
「でも、私も君たちの人生を壊せるんだよ? 君たちはあまりにも手を汚しすぎた。用済みになった駒は、トカゲの尻尾として使い捨てるだけのことだよ」
復讐代行部と、蒼木由依――両者の存在を天秤にかけ、舎弟たちは必死に思考を巡らせる。どう転んでもリスクを冒さなければならないこの状況は、まさしく地獄の沙汰であった。これには彼女たちも、涙目で許しを請うしかない。
「お願いします、蒼木さん。どうか、今回だけは許してください!」
「ウチも、アイツらみたいに人生を狂わされるのは、まっぴらごめん被ります!」
「ワタシも……耐えられない。ワタシたちばかりにリスクを背負わせて、アナタはどう責任を取ってくれるの?」
三人の言い分はもっともだ。いくら彼女たちが舎弟で、由依が女王だからといって、復讐代行部を敵に回すという代償を背負わなければならない道理はない。流石の由依も、この時ばかりは支配者ではいられなかった。これ以上説得を繰り返しても、眼前の舎弟たちは絵里を狙いはしないだろう。
「……わかった。そろそろ、私が直々に動く時だね」
ついに、南岬原高の女王が自らの手を下す時が来るようだ。無論、それで懸念点が無くなるわけではない。
「本当に、大丈夫なの?」
「由依。悪いことは言わない。復讐代行部の部員を狙うのだけは、絶対にやめた方がいい」
「ワタシからも言わせてもらうね。今からアナタがしようとしていることは、ドラゴンの尻尾をくすぐるようなものだよ」
彼女たちは、必死に制止を試みた。されど由依は、その瞳に覚悟を宿している。
「簡単だよ。要は、宏太にバレなきゃ良いんだから」




