殺鼠剤
中学を卒業した二人は、同じ高校――市立南岬原高等学校に進学した。潤也と出会う前、彼らはただ調査と報道だけを繰り返していた。そう――宏太たちが復讐代行部を結成したのは、あの巨悪との出会いがきっかけだったのだ。
ある日、西山と云う男子生徒が潤也と揉めていた。
「潤也ァ! テメェ! マジでふざけんなよ!」
「おいおい、先に手を出ししてきたのはお前じゃないか」
「だからといって、限度ってモンがあるだろ!」
何やら、彼らはただならぬ事態に直面しているようだ。潤也は飄々と嗤っているが、西山は怒りで真っ赤になっている。この妙な光景は、宏太の好奇心を著しく刺激した。
「君たち、何があったのか話してくれないか?」
そう問うた彼は、両者の間に割って入った。しかし状況を正確に伝えられるほど、西山は冷静ではない。
「殺したんだ! コイツが、オレの……オレの……!」
西山は酷く取り乱していた。そこで宏太は、潤也の方に視線を向ける。今この場で要求されているのは、状況説明だ。潤也は薄ら笑いを浮かべたまま、楽しそうに語り始める。
「ことの発端は、西山が俺にカツアゲしたことなんだ。どうやら俺は、アイツに足元を見られていたらしい。だから俺は、二度とナメられないように、ちょっとした『授業』をご教授してやったのさ」
重要なのは、その授業の内容だ。
「具体的に、君は何をしたの?」
そう訊ねた宏太は、胸を躍らせていた。他の生徒を脅して金銭を奪い取るような人間が義憤するというのは、そう滅多にお目にかかれるイベントではない。余程のことがあったのは、間違いないことだ。
潤也は真相を話す。
「西山の奴、ゴールデンレトリバーを飼ってたんだよ。女の子で、名前はベンジーちゃんだったかな? 俺は西山の散歩コースの三か所に、一週間くらい継続して殺鼠剤を設置してやったんだ。ベンジーちゃん、虹の橋を渡ったらしいぞ」
その真実は、宏太たちの予想をはるかに逸脱したものであった。絶句する宏太の横で、絵里は義憤に駆られる。
「ベンジーに罪はないでしょ! なんでそんなことをするの?」
廊下には、彼女の怒号が響き渡った。それに続き、西山も声を張り上げる。
「ペットはなぁ、家族同然なんだよ! 潤也! お前は、オレの家族を殺したんだぞ! ベンジーはもう、二度と蘇らない! もう散歩にも行けないし、ソファでくつろげないし、同じベッドで寝ることもできないんだぞ!」
いくら先に手を出したとは言え、彼の怒りは正当なものだ。愛犬を謀殺された恨みは、金輪際晴れることなどないだろう。
その場の大勢がどよめいていた中で、例外が二人いた。一人は、犯行を起こした潤也本人だ。そしてもう一人は、宏太である。彼の脳裏に、ある考えがよぎる。
「これは……使える」
少なからず、潤也の胆力は並大抵のものではない。彼を仲間に引き込めば、より一層人間観察を楽しめるようになるだろう。
「……潤也。僕たちと一緒に、非公式の部活を結成しないか?」
そう提案した宏太は、眼鏡越しでもわかるほどに目を輝かせていた。当然、絵里はそれに反対する。
「却下! 却下却下! こんな危ない奴、あーし怖いよ!」
彼女はそう主張したが、宏太は淡々と囁いていく。
「その名も、復讐代行部。いじめが蔓延した校内の、いわゆる自警団のようなものだ」
その誘いは、あまりにも唐突なものだった。その勧誘を受けた時、潤也は運命のようなものを感じ取った。
潤也は言う。
「いいよ。俺の力が必要な時は、いつでも頼りにきてくれ。最高に楽しいゲームを、最高のスーパープレイで攻略してやるよ」
かくして、南岬原高復讐代行部が結成された。その傍らでは西山が慟哭していたが、宏太と潤也はまるでお構いなしだ。二人にとって、これは序章に過ぎなかったのだから。




