来客の用件
悲鳴と共に、座ったまま前傾姿勢となっていた体が跳ね上がる。
それによって上がった視線に飛び込んで来たコメント欄が目に入った。
『あれ、何も聞こえなくなったよ?』
『鼓膜ないなった』
結構でかい悲鳴上げちゃったからね。鼓膜は冗談にしても、ヘッドホンとかで聞いてたならダメージを受けたろう。すまぬ。でもこっちも好きで上げたわけではないので許して欲しい。
というかあれだ、女性しか住んでないしトイレとかが外だから部屋の鍵かけとかちょくちょく忘れるけど、最低限コスプレRPするときは鍵かけしとくべきだった。今度から注意しよう。あとさすがにノックしてくださいテイルさん。
「あー、可愛い格好してる~」
そのテイルさんはベッドの上に俺の姿を認めると、目を輝かせて黄色い声を上げる。
「やっぱり、カズサちゃん可愛いからそういう服似合うよね、いいなぁ~」
『おまかわ』
『元気っ娘メイドもいいものです』
『美少女メイドコラボ配信まだですか?』
確かにテイルさんも間違いなく似合うと思うけど、さすがに何もしらない相手を飯(というか能力)の種にする気はないからな? こうやって配信に映りこんじゃうのだってちょっと気になってるんだから。まぁさすがに映り込み回避は無理だからどうしようもないけど。
実はずっと別の世界に向けて配信してまーすなんて説明できないしなぁ。そもそも配信って理解してもらえるかもアレだし。あーでもテイルさんだんだん俺と過ごしている時ガードが甘くなってきているから、このまま行くと事故が怖いな。こないだの風呂の時みたいな事があったらシャレにならんし。なんかうまい言い訳を考えておくか……あるかなぁ。まあこれは後日雑談タイムでリスナーの皆に相談しよう。
それはそれとして。
「テイルさん、いきなりどうしたの?」
いまだキラキラ俺の全身を眺めまわしているテイルさんに、そう声を掛ける。
普段のテイルさんなら、さすがにノックもなしに扉を開けるようなことはしない。それに今の彼女の格好だ。今の彼女は、ところどころに皮や金属での補強が入った服を着ている。近接で速度を活かして戦うタイプらしい彼女が仕事の時に纏っている装備だ。何度かアパートメントに帰って来た時に着ているのを見たことがある。
着替えもせずそんな恰好で、しかもノックなしに飛び込んで来たあたり何かしら急ぎの用件があるんだと思うんだけど……?
「あー、そうだった。もう、突然目の前にカズサちゃんが可愛い姿見せるんだもん、頭から要件が吹っ飛んじゃうところだったよ」
『テイルちゃん、実は誑しでは?』
『確実に口説きに入ってますねぇこぅれわぁ』
『チャラ男が同じセリフ口にしたら腹パンしたいところだけど、テイルちゃんなら許します』
『もう結婚すればいいのでは?』
お前らすぐにそっち方面に話持っていきすぎ、そんなに百合が好きか。そもそも片方が俺だと百合(偽)だからな。
テイルさんは割と思った事をすぐ口にするタイプ(悪い方の失言っていうのはしないので、気を使えないタイプってわけじゃなくて、そういった事を口にするのに照れがないタイプなんだと思う)っていうのは短い付き合いの中でもわかってきているので、テイルさんは別にリスナー達が言っているような他意はなく、本当に思った事を言っただけだと思う。
本当に、思った……事を……
『あれカズサちゃんなんかちょっと顔赤い?』
『これは何かえっちな事を考えちゃいましたね。間違いない』
『カズサさんやーらーしー』
考えとらんわ!
全く……ただおかげで若干変な方向に流れた思考はリセットできた。感謝はしないが。
「ん、カズサちゃん顔赤い? 熱ある?」
「いや大丈夫。それで用件思い出した?」
「あーあーうん、思い出した思い出した。カズサちゃんさ、探索者組合に登録済みっていってたよね?」
「うん、そうだけど?」
一切活動はしてないけどね。真面目な組合員は新しい能力を獲得したら自身の情報をちゃんと更新しているらしいけど、俺の場合は現状は仕事を受け付けているわけではないので登録時以降放置のままだし。<<ディスインテグレイト>>を獲得したらダンジョンいくからそのついでに更新しようとは思ってたんだけども。
「それで、それが何か?」
探索者組合絡みの話であれば、何かしらの依頼がらみである可能性が高い。ただテイルさんは俺が戦闘能力ほぼ皆無なのは知っているので、そういった話ではないだろう。
となると<<ピュリファイ・スピリット>>絡みの依頼かな? でも辺境だったグリッドと違いこのパストラでは使い手が俺一人というわけではないと思うし、わざわざ俺の方に話を振ってくるかな?
後は<<ポイントテレポート>>も使い手少ないだろうけどこっちは逃げ以外に使えないからなぁ……ダンジョンとかの緊急脱出には使えるだろうけど、事実上それ以外はお荷物でしかない俺を連れて行くデメリットの方がでかいだろう。となると前者の方か──
「今ちょっと依頼関係で<<ポイントテレポート>>の使い手さがしてるんだよね。カズサちゃん手を貸してくれないかな?」
そっちだったかー。




