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彼は今日も壁打ちをくりかえす  作者: 津山直太


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第8話 生成AI最初の一歩

 藤沢製菓に着くと、なぜか受付の女性と並んで由美子専務が立っていた。


 ギョッとして、立ち止まると、ニッコリと笑顔を向けられた。


 何だろう、美人の笑顔って怖い。


「柳瀬君、ご足労ありがとうございます。山崎さんもお時間とらせてしまったわね」


 丁寧なお辞儀をした由美子専務が受付ブースから出てきて、オレたちの前に立つ。


「いえ、営業の一環だと上からも言われているので、気にしないでください」


 美里さんが笑顔を作って一歩前へ出た。


 あれは営業スマイルっていうやつなんだろうか?


 というか、これは営業活動だったんだ。


 部長へ報告したときに美里さんと一緒に行けって言われていたのはそういうことか。


「早速だけど、私の部屋でよいかしら?」


「えーと。大きめのモニターがあると見やすいですかね」


 由美子専務はあごに指を当て、しばし考えてから受付にある電話の受話器を持ち上げた。


「会議室は空いている? 大型のモニターあったわよね」


 そう言うと、受話器を置いてこちらを振り向く。


 目をキョロキョロさせた後、オレをじっと見てから。


「柳瀬君、人数が増えてもいいですか?」


「は? 別に問題はないですけど……」


 オレが答えると、再び受話器を持ち上げて、どこかへ内線を繋げた。


「手の空いている社員がいたら、会議室へ来るように通達して。今すぐよ」


 なんか、バイタリティー溢れる人だよな。


 美里先輩とはちょっとベクトルは違うけど、似た者同士か?


 なんか、仲良さそうな雰囲気だったしな。


「会議室に大きなモニターがあるから、そこでお願いするわ。ほかの社員にも見てもらうことにしたので、問題があったら言って下さい。講義とか講演とかじゃなくて、私と柳瀬君のやり取りを見てもらうってことで、最初に説明するから」


 由美子専務は早口でオレに話すと、答えを待つようにオレの目をのぞき込んでくる。


「オレは大丈夫ですけど、業務を止めてしまってよかったんですか?」


「手が空いている社員だけだし、問題はないです。それに本社での業務は製造ラインとは関係ないから、暇している社員も多いんです」


 暇している社員がいるのもどうかと思うが……。


 この人が変えようとしているんだろうな。


「それと、由美子専務。オレに敬語はいらないです。なんか、むずかゆいんで」


「でしたら、柳瀬君もいつもどおりに話してくれていいですよ」


 ちょっと困って、美里さんを見ると小声で「いいんじゃない」と言ってくれたので、頷く。


 案内されて、会議室へ入ると数人の社員がモニターへ向かって並べられた会議机に座っていた。


 オレはモニターに繋がれていたHDMIケーブルを持参したノートパソコンに繋げ、ノートパソコンの画面とリンクするよう設定した。


 準備している間に更に数人の社員が入室してきて、十人ほどが会議テーブルに座っていた。


「由美子専務、準備はできたので進めていいですよ」


 声をかけると、由美子専務は立ち上がった。


「突然の呼び出しに集まってもらって申し訳ありません。今日は急ではありますがAIについての勉強会を開催することにしました。今後の業務にきっと役立つと思うので、おつきあいください。よろしくお願いします」


 由美子専務が社員へ向かって、深々と頭を下げる。


「いつものやつだな」とか「どうせ暇だしな」とかの声が聞こえる。


 その雰囲気から由美子専務の苦労が伺える。


「こちらが、今日の勉強会の講師の柳瀬さんです」


 由美子専務の紹介に、立ち上がって軽く頭を下げる。


「皆さんは生成AIって使ったことありますか? 由美子専務はどうですか?」


 突然話し出したオレに由美子専務がギョッとした表情で顔を向ける。


「検索の延長でAIを使ったことはありますよね。スマートフォンでも簡単にできますから」


 アイコンタクトで答えを促す。


「そうですね、調べ物をするときに使うことがあります」


「多くの人は『○○について調べて』って感じで使うことが多いそうです」


 社員を見渡すと、何人かが頷いていた。


「でも、このAI。調べたことをわかりやすく表にしてくれることもできるんです。ちょっとやってみましょう」


 オレは座って、ノートパソコンでAIを起動すると、チャットウィンドウにプロンプトを打ち込む。


『△△駅付近のお菓子屋さんを調べて』


 オレの命令を受けて、画面には製菓店のみならず販売店も含めたお菓子屋さんが簡単な説明とともに表示される。


「AIに単純に調査を依頼すると、こんな感じで回答が返ってきます」


 オレは続けてチャットウィンドウへ『菓子の製造を行っている製菓店だけを抽出して、一覧表を作成。店名、住所、電話番号、特徴を見出しとする』と入力した。


 画面にはAIが確認した実行内容の後に、整えられた表が表示された。


「生成AIを使うなら、このように表や文章、絵なんかまで作るところまでが使用目的となります。生成AIは知りたいを満たすものではなく、作りたいを手伝ってくれるものなんです」


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