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彼は今日も壁打ちをくりかえす  作者: 津山直太


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第7話 これもうデートだろ?

 迎えた金曜日、美里さんと一緒にランチしてから先方へ向かうことになった。


 連れ立って、会社を出ると天気予報通りに雨が降り出した。


 手に持っていた傘を素早く広げ、ごそごそとカバンから傘を探す美里さんを傘へ入れる。


「駅はすぐそこですし、入っていきますか?」


「えっ! は、はい……いいの?」


「ん? 何か問題があります?」


「……直人君はそういう人だったよ。それじゃ、お願い」


 傘を持ち直して、二人の間にくるようにすると、美里さんがピタリと体を寄せてきた。


 今日も柑橘系の匂いがする。


 並んで歩いていると、歩幅の違いがよくわかる。


 少しずつ歩幅を狭めて、美里先輩と同じリズムで歩くと一体感を覚える。


 なんとなく心地いいな。


「直人君はお昼、何がいい? 麺類、定食、それともファストフードとか」


「そうですね、しばらくラーメンを食べていないから、ラーメンを食べたいかな」


「ふふふ、なんか安心しちゃった。わかった、藤沢製菓の近くに美味しいところがあるからそこへ行こうか」


「安心? えと、店はよく知らないんで、お任せします」


 電車は時間帯のためか空いていて、並んで座ることができた。


「直人君て本当にデートしたことないんだ」


「え、そうですけど。どうしてですか」


「ん、なんとなく」


 ラーメン屋は目的の駅からほど近く、数人の行列ができていた。


 結構な人気店らしい。


「美里さんはよく来るんですか?」


「たまにね。由美子専務に教えてもらったの」


「あの人もラーメンなんか食べるんですね」


 看板や暖簾、窓に貼られたPOPについ目がいってしまう。


 後で店員に聞いて写真を撮っておこうかな。


 思ったよりも待たずに店内に入ることができた。


「混んでいるし、一緒に買っちゃうね。なににする?」


 店内に貼られているメニューと、券売機のメニューをざっと眺めるが、文字だけではイメージするのが難しい。


「美里さんと同じのでお願いします」


 券売機で食券を買うと、カウンター席に案内された。


 美里さんは食券を店員へ渡すと、隣の席に座り髪をまとめた。


 髪をまとめると、高校時代にテニスコートで見た美里さんの姿とシンクロする。


 じっと見つめている自分に気づいて、あわてて正面に向き直る。


 何とはなしに店内を眺めながら時間を潰していると、カウンターの前に湯気をあげた、もやしが山盛りの丼が置かれた。


「お待たせしました。味噌ラーメン大盛り、野菜増し、ニンニク抜きです」


 当然だが、隣にも同じものが置かれる。


 ずっしりと重い丼をカウンターへ移動させ隣を見ると、美里さんはニコニコとして割り箸を手に取っていた。


 言葉を失っていると、割り箸を渡されたので受け取る。


「いただきます」


 美里さんが手を合わせていたので、同じように「いただきます」と言って、割り箸を割った。


 ボリュームたっぷりのラーメンはコクがありながらも、しつこさはなくスープまで飲み干すほどうまかった。


 さすがにお腹がいっぱいになって、少しベルトを緩めて隣を見ると、美里さんも食べ終わるところだった。


 綾乃さんの店でも結構な量を食べていたけど、あれを普通に食べきっちゃうんだ。


 すごいな……なんか、可愛い。


「あー、美味しかった。満足、満足」


 いやこれは、面白い人だな。


「うまかったです。それじゃあ、行きましょうか」


 店を出て時間を確認すると、約束には少しばかり早かった。


「ちょっと早いですね。どこかで時間つぶします?」


「あそこ行こうか?」


 美里さんが指さした先はレトロな雰囲気の喫茶店だった。


「いいですね。オレ、ちょっと写真を撮っておきたいかも」


「仕事に使う的なやつ?」


「直接関係なくてもサンプルソースは沢山あった方がいいんで」


「ふーん。そういうもんなんだね」


「あっ、そうだ。ここも写真……は帰りにします」


 いまだに、行列ができていて営業の邪魔になりそうで諦めた。


 喫茶店の中もレトロモダンというのか、ゆったりとした雰囲気が流れるような内装で、歴史を感じさせる家具が並んでいた。


 カウンターから質の良いシャツとスラックス、エプロンを身に着け、白髪をオールバックにした男性が出てきた。


 ここのマスターなのだろう。


「ご案内しますね」


 窓際のテーブルに案内されて、椅子に座り店内を見回すと、満席に近いくらいにテーブルは埋まっていた。


「ご注文はお決まりですか?」


「チョコレートパフェを一つ」


「え? ああ、オレはホットコーヒーで」


 マスターは一礼して、カウンターへ戻っていった。


「あの、美里さん。チョコレートパフェって、大丈夫なんですか?」


「ん? 何が?」


「何がって、お腹の方が……」


 向かいに座った美里さんは何かに気づいたようにハッとすると、見る間に顔を赤く染めた。


「……甘いものは別腹というか……」


「あれって、本当に胃に隙間ができるらしいですね」


「……直人君。本当に彼女いなかったんだね。それはそれでいいんだけど――」


 小声でボソボソと美里さんが何か言ったが、よく聞き取れなかった。


 それにしても、美里先輩はよく食べる。


 どうやってカロリー消費しているんだろ?


 まだ、テニスをやっていたりするのかな?


 美里さんがぺろりとチョコレートパフェを食べ終わると、ちょうどいい時間になっていた。


「それじゃあ、美里先輩。由美子専務のところへ行きますか」


「そうだね、お腹もいっぱいになったし」


「……そうですね」


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