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彼は今日も壁打ちをくりかえす  作者: 津山直太


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第3話 定例会議は危険がいっぱい

「以上で状況報告は終わりになります。なにか、個別の議題があれば挙手願います」


 議事進行をしている営業部の松岡課長が締めに入ろうとしたところで、高見係長が挙手し、立ち上がった。


「業務処理へのAI利用はよくないんじゃないですか?」


「高見係長、何を言っているかよくわからないが。それは君個人の疑問なのか、それとも何かしらの議題の提起なのか。どっちなんだ?」


 クスっと失笑が聞こえ、数人が苦笑いしている。


「……業務でAIを使うと情報漏洩とか問題があるじゃないですか。企画部でも情報漏洩を考えるとAIの利用は控えるべきだと思います」


「情報管理室の誰か、説明してくれるか?」


 眼鏡をかけた長身の中年男性が立ち上がる。


「当社で使用しているAIは法人契約をしていて、セキュリティが確保された状態で運用されています。その上で、個人情報を多く扱う営業部についてはAI使用を基本的に禁止としています。また、機密情報と関連するキーワードはフィルタリングされており、AIが受け取らないよう設定されています。これらについては既に周知されていますし、社内規定として文書化もされています」


「と言うことだ、高見係長。これを踏まえて、AI利用を控える理由を具体的に説明してくれるか」


「柳瀬がAIを利用して、仕様書や企画資料を作成しているが、フィルタリングされているのを見たことがない。そ、そうだ! AIを個人使用している場合はリスクがあるんじゃないですか?」


「企画部長、企画部はもう一度、社内研修しますか?」


「はぁ、勘弁してくれ。高見係長、当社は企業アカウントで縛られていて、個人アカウントの使用は厳重に禁止されている。柳瀬は毎回、使用履歴を提出しているよ」


「情報部でもアクセス履歴を確認していますし、柳瀬君は当社の中でもリテラシーが高いですよ。AIへ情報を投げるときのマスキングも徹底していますから」


 何度も名前を出され、視線がオレの方へ集まってくる。


「おかしいだろ。僕がAIを使ったって、あんな資料にならないぞ。絶対にほかの優秀なAIを使っているに違いないんだ!」


「企画部長、再教育の方はお願いします。本日の定例会議は終了とします。それと、柳瀬君は少し残ってもらってもいいかな?」


「承りました」


 企画部長がオレの肩をポンと叩いて、うなだれている高見係長を連れて出て行った。


「悪いね柳瀬君、残ってもらって」


 営業1課の松岡課長。営業部のエースで美里さんの直属の上司に手招きされる。

 近くにあった椅子を引き寄せて、向かい合う位置に座った。


「いいんですけど。そもそも、どうしてオレが定例会議に参加させられているんですか? 初めて呼ばれたんですけど、係長以上しかいなかったですよね」


「それは私がメンバーに入れたからだよ。山崎君が絶対面白いことになるって言うから、試してみたくなった。企画部長も賛成してくれたしね」


「お試しなら、今回限りってことで――」


「次月の定例会議は私の補佐をしてもらうからね」


「はぃ? いや、オレ企画部ですよ」


「何か問題が?」


「……ないです」


「情報部も君に興味津々だったね。さすがAIの利用履歴数トップのヘビーユーザー」


「情報部の方が使っているんじゃないですか? そういう仕事ですよね?」


「うちの情報部はシステムの導入と管理はするけど、システム開発はしないからね」


「で、本題は何ですか?」


「営業部でもAIを活用したい。モデルケースを山崎と協力して作ってもらえないか?」


「具体的には?」


「顧客情報と営業報告書をソースとして、アプローチ方法やリスクヘッジに使えないか?」


「情報量によってアプローチは変わりますけど、普通にやっていることじゃないですか?」


「柳瀬君の普通は世間の2歩くらい先にあるみたいだな」


「期限はどうしますか?」


「一般業務優先で一ヶ月ごとに進捗報告、完成期限は設けない」


「業務処理番号の設定をお願いしますね」


「追って連絡する。期待しているぞ」


 自席に戻ると美里さんが駆け寄ってきた。

 何気に目立つので、視線が集まる。


「課長から聞いたよ、OKだって?」


「金曜日に教えてくれればよかったじゃないですか?」


「定例会議の様子を見てからって言われていたんだもん」


「『だもん』じゃ、しょうがないですね」


 本日は全く進んでいないタスクリストを確認しながら、新たなタスクを追加する。営業AI。具体的な項目設定は未定としておく。


「スケジュール調整しなくちゃだよね」


「そうですね」


 着信メールを開くと、由美子専務からカレンダーの共有通知が届いていた。

 美里さんが起動したカレンダーをのぞき込んで「うわー」とか言っている。

 パッと見る限り、空白の日が見当たらない。


「わたしたちもカレンダーの共有する?」


「グループウェアで確認できるから大丈夫です。空き時間の重なりはAIにやらせて、共有するんで確認して下さい。一般業務を優先するんで流動的にいきます」


「了解。で、今日は定時上がりかな?」


「まあ、今から詰めても効率悪いですし、その予定です」


「じゃあ、一緒に帰ろうか」


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