第13話 MEGAサイズ
ポケットからスマートフォンを取り出すと「綾乃さん」の表示の後に「予約承ったよ」とメッセージが書かれていた。
今朝、Webから予約したのを今確認したんだな。
「急用とかじゃないよね?」
「綾乃さんから、予約の確認報告でした」
「綾乃の店に行くの? いつ? 誰と?」
美里さんが小首をかしげて、聞いてくる。
「今日、美里さんと。オレ、店ってよく知らないし。美里さんがデートの報告をするって言っていたから、ちょうどいいかなって思って……。ダメでした?」
「そんなことないけど、綾乃の店でよかったの?」
「料理おいしいですし――」
肩をつつかれて、言葉が止まる。
振り向くと銀色のトレイを抱えた五十嵐さんが目を細めていた。
「先輩、いちゃつくのは注文してからにしてくださ〜い。なかなか注文が表示されないから来ちゃいましたよ」
「いちゃついていないって。すぐ注文するから五十嵐さんは戻ってくれて構わないよ」
「せっかく来たのに、あたしも混ぜてくださいよ!」
「仕事中だろ? ほら、戻りな」
「先輩は変わらないな。そんな真面目な感じで、そこの彼女さんを口説いたんですか?」
「か、彼女さん……」
美里さんが驚いたように五十嵐さんを見る。
「彼女さんじゃないんですか? えっ、マジで……」
五十嵐さんはくるりと背中を向けて、なにかブツブツとつぶやくと再び奥の方へ消えていった。
「はぁ。美里さん、注文しましょう」
♢♢
オレは食事系のパンケーキを注文し、2枚のお代わりを頼んで発酵バターを塗って食べている。
一方、美里さんは初めからクリームがたっぷりと乗せられたパンケーキを注文した。
「美里さん、それ何枚目ですか?」
「数えていないから、わからないよ。でも、まだそんなに食べていないよね」
「これが、9枚目と10枚目です」
パンケーキが2枚乗った皿を片手に乗せ、五十嵐さんが現れる。
「お代わり自由は60分なので、あと5枚くらいは行けそうですね」
「最高は何枚なの?」
「女性の方ですと25枚ですね」
「あと何分残ってる?」
「30分少々――」
「ゆっくり食べすぎた。スピードアップしなくちゃ。追加お願い」
「承りました。先輩はどうします?」
「オレはもういいよ」
本当にスピードアップして食べ始めた美里さんは結局、23枚でタイムアップとなり、拳を握って悔しがっていた。
店を出たところで「今度連絡しますね!」の五十嵐さんの声に、軽く手を振り駅へ向かった。
「この後はシネコンに行こうと思うんですけど、いいですか?」
「映画館は久しぶりだな。最後に観たの何だったかな」
「オレは先月以来です」
「直人君、映画好きなの?」
「映画も好きですけど、映画館が好きなんですよ。たくさん知らない人同士が、同じ空間で同じものを見て、必ずしも共感していない。スポーツ観戦なんかとはちょっと違うんですよね」
「演劇なんかも見るの?」
「あれは財布にやさしくないし、人気があるのはチケットを取るのも大変ですから」
「でも好きなんだね」
電車に乗って30分ほどで、目的のシネコンに着いた。
休日の昼過ぎとあって、混雑していたが美里さんが選んだアニメ映画はまだ空席が残っていた。
上映まで時間があるので、座れるところを探していると、袖を引かれる。
「ねえねえ、今日は二人だからさ。あの、バケツみたいなの買ってもいいよね?」
美里さんはMEGAと書かれたポップコーンを目で示す。
この人、ついさっきパンケーキを23枚も食べたはずなんだけど。
オレが返事をする前に、すでに注文しているし。
「直人君は飲み物何?」
「ウーロン茶でお願いします。ってお金」
「お昼はごちそうしてもらったから、ここは私が払う!」
美里さんがトレイを持って振り返ると、ポップコーンで顔の半分が隠れていた。
「ぷっ」
思わず笑いがこぼれ、あわてて口を押さえた。
美里さんからトレイを受け取り入場状況を見ていると、そっと伸ばした美里さんの手が視界のすみに映る。
こんど、大食いチャレンジメニューのあるところに連れて行こうと心に誓った。
♢♢
さすがに上映中にポップコーンを食べ終わらなかったので、今はベンチに座って残りのポップコーンを食べている。美里さんが。
「綾乃さんのところの予約時間まで二時間ちょっとあるんですけど、美里さんは行きたいところとかあります?」
「特にないかな。直人君は?」
「だったら、デパ地下に行っていいですか? パッケージのサンプルになりそうなものを物色しようと思って」
「仕事なの?」
「仕事用で購入すると経費扱いになるんです。中身の有無は経理に追及されません」
「もしかして、それは私たちが食べても良いってことなのかな?」
「今日は買いませんよ。領収書の日付が土曜日になるので面倒なんです」
「なーんだ」
「でも、来週はいくつか買おうと思っているんですよね」
「時間が足りないかも、すぐに地下に向かうよ」
美里さんはバケツのような容器を煽るようにして、ポップコーンを食べきると、オレの手を取ってエレベーターへ歩き出した。




