第12話 今日デートだし
卓球勝負は美里さんの圧勝だった。
面白いようにスマッシュを決められた。
「次の競技は直人君が決めていいよ。サッカーのアトラクションもあったよね?」
「そうですね。やっぱり、バスケにします」
思わず目をそらしてしまった。
「え、サッカーだめだった?」
「オレ、ボールを蹴れないんですよ――」
「何があったの……あ、ごめん」
少し困った顔をしたオレを見て、美里さんが言葉を止める。
「一年生の時の秋の大会で怪我しちゃって、膝なんですけど」
卓球のゲージに人が近づいてきたので、外に出てベンチを探して座った。
オレは床を見ながら、当時のことを思い出して話を続けた。
「二年の春ごろには走れるくらいに回復して、練習にも参加できるようになったんですけど、練習試合で無理しちゃって。レギュラーになりたかったんです」
美里さんは何も言わず、黙って話を聞いている。
「そのあとは、焦りで完治しないままトレーニングしたりして……バカですよね。MFってポジションで周りはよく見るくせに、自分がよく見えていなかった」
ため息をついて顔を上げると、美里さんが今にも零れ落ちそうなくらい、涙をためていた。
オレ、泣かせるようなこと言ったか?
「美里さん――」
「ごめん」
彼女は膝に乗せていたタオルで、しばらく顔を覆っていた。
「もう大丈夫」
彼女は鼻声でそういうと、タオルを外して赤い目でオレを見つめる。
「今朝、歩いてきたんでしょ? それに、バッティングや卓球だって……大丈夫なの?」
「激しい運動したり、強い衝撃を受けるようなことをしなければ問題ないです。それに、大丈夫じゃなかったら、ここに誘ったりしませんよ。もう無理はしないことにしていますから」
「ならいいんだけど」
不安そうな顔で見つめられる。
「もしかして、ボウリングって膝の負担を考えてのことだった?」
「え? そこまで考えていなかったですけど……。ここ来るの初めてで、こんなに体を動かせるアトラクションあるって思ってなかったから」
「そうなの? 直人君だと、しっかり調べてから決めていそうな気がするんだけど」
「プランBなんで……時間がなかったんですよ」
美里さんは少し座り直して、体をこっちへ向ける。
「プランAはどこへ行く予定だったのかな?」
「屋外のアスレチックへ行こうと思っていたんですよ。美里さん、そういうの好きそうだし」
天を仰ぐが、空の様子が見えるわけでもなく、コンクリートの天井だけが目に映る。
「楽しそうだね。天気が良い日に行きたいね。私、お弁当つくるよ」
「美里さん、料理できるんですか?」
「直人君、ちょっと失礼だよ」
「すいません」
美里さんに笑顔が戻って、ホッとする。
「どうしようか? 予定通りにボウリングにする?」
「勝負はいいんですか? オレなら、大丈夫ですよ」
「うーん……勝負はまた今度にしようかな。今日は初デートだし、その――」
美里さんの声がだんだん小さくなって、口を閉ざしてしまった。
「少し早いけど、次に行きますか。近くにパンケーキのお店があるの――」
「いく!」
あまりの勢いに、こっちが驚いてしまう。
外に出ると相変わらずの曇天で、湿気のせいで空気が少し重い。
街路樹からは青臭い匂いがして、隣からはシトラスの香りがほんのりと漂う。
路面は乾いていたが、ところどころに残る水たまりを避けながら歩いていく。
離れたり近づいたりを繰り返しながらも並んで歩き、目的の店の前に辿り着く。
ドアを開けると、小麦粉の匂いと甘い香りに包まれた。
「いらっしゃいませ」
鈴を転がすような声で出迎えてくれたエプロン姿のウェイトレスは小首をかしげた。
「お二人様ですね? ご案内します」
案内されてテーブルに着くと、ウェイトレスがオレの顔をジッと見る。
「柳瀬先輩ですよね?」
名前を呼ばれて、ウェイトレスの顔を見るがピンとこない。
思案顔をしていると、ウェイトレスが頬を膨らせてから、声を低くして答えをくれた。
「五十嵐です。サッカー部のです。忘れちゃいました?」
「五十嵐さんって、マネージャーだった?」
「そうです、思い出しました?」
「雰囲気が違わないか?」
「ああ、髪伸ばしましたから」
彼女は一つにまとめた長い髪を肩にかけて見せてくる。
「直人君?」
美里さんの声で、五十嵐さんはハッとして、仕事モードに戻った。
「彼女さん、すいません。ご注文はテーブルのタブレットでお願いします。お水はセルフサービスになります、あちらのサーバーでお願いします」
そう言うと、彼女はテーブルを離れ店の奥へと歩いて行った。
「誰なの? 知り合い?」
「多分。高校のときの二つ下の後輩で、サッカー部のマネージャーをしていた子」
「多分?」
「高校のときはショートカットで、日に焼けていたから。あんな感じじゃなかったですよ」
「ふーん」
口をとがらせながら、美里さんはテーブルに置かれていたタブレットを手に取る。
タブレットをオレにも見えるように、二人の間に置くとページをスライドしていく。
「お代わり自由なんだ!」
だから、ここにしたんだよな。
目をキラキラさせてメニューを選ぶ美里さんを見ながら、ほっこりしているとヒップポケットのスマートフォンが振動した。




