7.ギルドだ!
「異世界といったらやっぱりギルドだよね」
【GUILD】の文字がある一軒の店の前で、リナがにこやかに言う。
そして迷いなくドアを開けた。
中に入ると、木の机と椅子が並び、昼間だというのに酒の匂いが漂っている。
壁には剣やら依頼書やらが雑に貼られていた。
5人ほどの男が座っており、鎧姿の者もいれば、明らかに無職っぽい者もいる。
「なんだろう、やっぱり治安悪そうだな……」
「ね? でしょ?」
「嬉しそうにされても困る」
すでに顔見知りがいるのか、何人かの男が手を上げてリナに挨拶をしている。
「よっ、リナ!」
「今日も来たのか!」
「うん、ちょっと見学」
軽く手を振り返すリナ。
当然、カナタの方はほとんど気にされていない。
一瞥もされない。
……と思ったら、一人が彼をちらりと見て、ぺっと唾を吐いた。
「いや、おかしいだろ」
「どうしたの?」
「あー、いや、何でもない。もうちょっと奥へ行こうぜ」
(なんで初対面で嫌われてんだ俺……)
傷つきながら少し奥の方へと歩みを進める。
カウンターの奥では、誰かが依頼書をめくりながらため息をついていた。
「しかしリナ、結構人気あるじゃないか」
「そうかな?」
リナは本当に不思議そうな顔をしていた。
進んだ先の受付らしきところには、エプロン姿の女性が座っている。
笑顔だが、どこか事務的だ。
「ところで、ギルドに登録してどうなるんだ?」
「え、知らないの?」
意外そうな顔をするリナ。
「すまん、教えてくれ」
「わかった。まず、ゴミ捨て場を利用しても怒られない」
「ん? それギルドか?」
「毎月、草むしりに出なくちゃならない」
「ギルドの依頼ってそういうの?」
雲行きが怪しい。
「回覧板も回ってくるよ」
「町内会じゃねえか」
カナタは頭を抱える。
受付の女性がちらっとこちらを見る。
聞こえているらしい。
「あとね、班分けもある」
「完全に町内会だろ!」
「班長になるとちょっと偉い」
「もういいから。リナ、入るかどうかを迷ってたのってここか」
「うん。でも毎月ギルド会費って言うのを取られるんだよ。2000Gも」
なかなかの金額だ。先ほど食べたンガバフウドンが1つ45Gだった。
「そうなのか。でも会費を取るにしても冒険者っていろいろ移動してたりしないか?」
「でも、町内会長さんが移動魔法で徴収しに来るんだよ」
「今、町内会長って言った?」
「腸内環境?」
「言ってない言ってない」
疲れてくるカナタである。
そのとき、受付の女性が口を開いた。
「ここは普通のギルドですよ」
「まあ、そうですよね」
「登録すれば依頼を受けられますし、報酬も出ます」
「ほらね。俺の言ったとおり」
「言ってたっけ?」
勝ち誇るカナタ。一方のリナは納得していないようだ。
「でも草むしりは?」
「それはただの依頼の1つです」
「回覧板は?」
「ありません」
「班長は?」
「ありません」
「じゃあ町内会じゃないんだ」
「違います」
きっぱり否定された。
「とにかくここには、入った方がいいのかわからん……そもそもギルドなのか町内会なのかもわからんし」
「私が迷ってた理由わかった?」
「うん……でもそっちの言ってることの方が変だったぞ」
「おかしいなあ。何かと勘違いしたのかな」
「いや、でもまあ……依頼が受けられるなら話は別だな」
カナタは壁に貼られた依頼書を見る。
薬草採取、荷物運び、害獣駆除。
「……いかにもって感じだな」
「ね、やってみる?」
「そうだな……せっかくだし、1つくらい受けてみるか」
カナタがそう言うと、受付の女性がにっこりと微笑んだ。
「では登録からご案内しますね」
「うわ、急にちゃんとしてきた」
「さっきからずっとちゃんとしてましたよ」
その一言で、カナタは少しだけ安心した。
(……たぶん、大丈夫だよな)
不安は消えないままだった。




