5.実食だ!
テーブルに運ばれてきたそれを見て、カナタは沈黙した。
「……なあ」
「なに?」
「これ、本当に食べ物か?」
皿の上には、うどんのようなものが乗っていた。
「ンガバフウドンお2つでーす」
店員が言う。間違いではないのだ。
確かにうどんのような食べ物だ。
だが色がおかしい。全体的にうっすら青い。
「どうなんだこの料理の色」
「落ち着いていいと思うよ」
「青づくしだけど」
「食欲も落ちつくよ」
「そんな効果はいらないだろ。体も青くなるんじゃないか……」
さらによく見ると、麺の上に何か乗っている。
「これなんだろう? 野菜か? 見たことないけど食えるのか?」
「その辺に生えてたやつじゃない?」
「ポジティブに考えろよ」
「自分が言い出したんじゃん」
カナタは額を押さえた。
「青々としてるけど、青い麺に乗せられてもな」
「新鮮なんじゃない?」
リナは箸を手に取った。
「まあいいじゃん。いただきます」
「おい、もうちょっと考えてから……」
止める間もなく、リナは一口すすった。
数秒の沈黙。
「……どうだ?」
「……」
リナはゆっくりと口を動かした。
「……おいしいかも」
「マジで?」
「うん、なんか普通に……」
カナタは疑いの目を向ける。
「カナタも食べてみなよ」
「いや、でもな……」
恐る恐る、カナタも箸を伸ばす。
青く光る麺をつまみ、口に運ぶ。
「お゛い゛じい゛よ゛」
「何よその発音」
リナのツッコミが飛ぶ。
カナタは口を押さえた。
「ごめん、なんか舌が……絡む……」
「さくらんぼみたいな?」
「舌だっつってんだろ。茎を舌で絡ませてるのと違う」
「ごめんごめん」
「いやこれ絶対おかしいぞ。もうちょっといってみる」
もう一口食べる。
「うん。お゛い゛じい゛よ゛♡」
「悪化してるよ! うっふんあっはんな小説みたいじゃん」
今度はリナが頭を抱えた。
「その表現も古くないか?」
「そう? まあ、味自体はあたしは平気なんだけどね」
「味はまあ、食えるんだけど」
「でしょ?」
「危険な香りがする」
カナタは箸を置いた。
「やっぱりこれは罠だ」
「うええ、また始まった」
「異世界の意思が俺を取り込もうとしている」
「だからないってそれ」
「この゛発音も゛、その゛一環だよ゛」
「まだ続いてたんだ、それ」
「なお゛らない゛ん゛だ」
カナタは真剣な顔で言った。
「デスメタルのボーカルになれるよ」
「い゛い゛なそれ゛」
異世界にバンドがあるかは知らない。そのとき。
「お味はいかがですか?」
店員がにこやかに聞いてきた。
二人は顔を見合わせる。
「……」
「……」
カナタはゆっくり口を開いた。
「お゛い゛じい゛よ゛」
「あちゃー」
再び腹が心配になるカナタだった。




