32.事件の真相だ!
「僕が導き出した結論はこうです」
宿の受付の前。関係者を集めて――といってもリナと宿の主人だけだが――カナタは腕を組んで言った。
「この宿屋幽霊事件の謎は大きく2つ。1つめは、甲冑姿の幽霊と黒髪の女性の幽霊の正体。2つめは、それらが現れた理由です」
「そうね……」
リナは腕をさすりながら、落ち着かない様子で周囲を気にしている。
「まず結論から言おう。最初に出てきたと言われる甲冑姿の幽霊。あれは幽霊じゃない。人間だ」
「え……?」
宿の主人が目を見開く。
「甲冑を着ていれば顔は見えない。そんなものが夜中に現れれば、目撃者は幽霊だと思い込む。つまり――正体を隠すための変装だ」
「じゃあ……誰かが、わざと幽霊のふりを?」
「そう。幽霊のふりをして客室に出る目的は1つ。客室への侵入だ」
リナが息を呑む。
「泥棒……ってこと?」
「おそらくな。夜中に部屋を開けて回る理由としては、それが一番自然だ」
カナタは一拍置いて、視線をゆっくりと宿の主人へ向けた。
「ただし、外部の人間がわざわざ甲冑を持ち込んで宿に侵入するのは非効率だ。どの部屋に客がいるかもわからない。となれば」
「……」
「内部の人間が関わっていると考えるのが妥当だ」
宿の主人は無言のまま、視線を逸らした。
「でも、それと黒髪の幽霊はどう繋がるのよ」
リナが割って入る。
「依頼はそっちを退治してほしいって話だったじゃない」
「ああ、そこが2つ目の謎だ」
カナタは頷いた。
「黒髪の幽霊――あれは本物だ」
「やっぱり……!」
リナが一歩後ずさる。
「だが、ただ出てくるだけの幽霊じゃない」
「どういうこと?」
「行動が不自然なんだ。部屋を閉鎖すると別の部屋に現れる。全ての客室でなく3部屋だけだ。さらに受付にまで出るようになった」
「確かに……」
「場所に取り憑いているなら、そんな動きはしない。つまりあれは、場所ではなく、目的で動いている」
カナタはゆっくりと言葉を区切った。
「この幽霊は、何かを探している。……いや、違うな」
一瞬考えて、言い直す。
「何かを知らせようとしている」
「知らせる……?」
「そうだ。自分に何があったのかを」
その場の空気が、わずかに冷えた。
「僕の結論はこうだ。甲冑の姿で客室に侵入していた人間がいる。そして、その現場で――ある女性が殺された」
「……!」
リナが息を呑む。
「その女性が、黒髪の幽霊として現れている。そして彼女は、自分が殺された事実を伝えようとしているんだ」
「じゃあ……部屋を移動するのは……」
「犯行に関係する場所をなぞっているんだろう。そして受付に何度も現れる理由も同じだ」
カナタははっきりと言った。
「犯人に一番近い場所だからだ」
静寂が落ちる。
宿の主人の額に、じわりと汗が浮かんだ。
「な、何ですかその話は。何を根拠にそんな……」
「決定的な証拠なら、今から見つかる」
カナタは床を指さした。
「ここだ、受付の横。ここを調べれば分かる」
「ま、待ってくれ……!」
主人が思わず声を荒げた。
その瞬間――
ふっと、空気が揺らいだ。天井の照明が明滅する。
一瞬、部屋の中が真っ暗になり、再び明かりが点いた。
そして受付の奥の床の上に、黒髪の女が静かに立っていた。
「ひっ……!」
リナがカナタの腕にしがみつく。
黒い髪が顔を覆い隠して表情が見えない。女はゆっくりと腕を上げ、足元を指さした。
「……おそらく、あそこに」
カナタが小さく呟く。
宿の主人は顔面蒼白で後ずさった。
「ち、違う……私は……」
「そこを掘り返せば、おそらく女性の遺体が出ます。よかったですね。女性の幽霊をなんとかする、って依頼はこれで果たせますよ」
カナタの言葉に、主人はその場で頭を抱える。そしてリナが、後ろから主人を縄で縛り付けた。




