30.聞き込みの結果だ!
「ではこうしましょう。僕が今夜、幽霊が出ると言われる客室に泊まります」
カナタの提案に宿の主人はニッと笑った。ほしかった答えをもらえたような仕草だ。
「おお、そうしていただけますか」
「でもカナタ、甲冑姿の幽霊が出るか、黒髪の女の幽霊が出るかわからないんだよ」
「甲冑姿の幽霊ならばすぐに倒す。黒髪の女性の幽霊なら話を聞こう」
「は?」
リナも宿の主人も、訳がわからないという顔つきをする。
「話を聞く、というのは?」
「黒髪の女性ならば、そのまま僕と一緒に泊まるかもしれないでしょ」
「うわー……」
明らかにリナは引いている。
「その場合はちゃんと2人分の料金をお支払い下さいね」
宿の主人は冷静に金勘定を始めた。
「そりゃ無茶苦茶だろ!」
「あんたが無茶苦茶なのよ」
憤ったカナタだが、すぐさま突っ込みが入る。
「ともかく、女の幽霊をなんとかしていただけるのならば方法は問いません。できれば倒していただきたいのですが……そのために一部屋をお取りしましょう」
「この月影亭には客室が何部屋あるのですか?」
「4部屋ございます。そのうち2部屋は幽霊が出るということで閉鎖しています。こちらのリナ様も泊まられるのでしょうか?」
「え……もしかして、同じ部屋に? あ、あたしは……」
戸惑うリナ。横目でチラチラとカナタの方を見る。
「リナには別の部屋で待機してもらいます」
……安堵したような、期待外れのような、微妙なため息をつくリナだった。
「僕に何かあったら彼女に助けに来てもらいますよ」
「では、リナ様は……そうですね。幽霊の目撃情報がない部屋をお取りします。今日はお客が少ないので、稼働はお二人の部屋だけです」
「調査にとっては好都合ですね」
あっけらかんというカナタ。
「それでは夜まで時間がありますから、付近の人に幽霊情報の聞き込みをしてきます」
「え?」
「リナはここで主人と話をしながら待っていてくれ」
「気まずいからいやだよ」
「それなら仕方ない。ちょっと別行動してこれについて調べてもらって……」
ごにょごにょと、主人に聞こえないところで二人は作戦会議を始めた。
……夕方。
調査を終えたカナタが再び宿の受付に戻ってくる。
リナも一日動き回ったらしく、少し疲れた顔で座ってお茶を飲んでいた。
「街の人たちに幽霊について聞いて回った」
「どうだった?」
宿の主人も同席し、緊張した面持ちでカナタの話を聞く。
カナタはボードを取り出した。2つの枠が描かれており、そこに小さな丸いシールが何枚も貼られている。
「甲冑姿の幽霊に会いたいと答えたのが2人。黒髪の女の幽霊に会いたいと答えたが16人で、黒髪の女の幽霊が圧倒的に優位だ」
「調査って、これ希望調査じゃないの!」
リナの怒りが爆発する。
「いやすまん。これはあくまで予備調査だ」
不審げな目を向けているリナ。一方、宿の主人は不安そうにカナタの置いたボードを見つめている。
カナタはボードを裏返すと、そこには箇条書きで判明事項が記載されていた。
「このとおり収穫はあったぞ。甲冑姿の幽霊が見かけられていたのが1か月ほど前。これはリナが見た時期とも一致する」
「そうね……」
「ただ、黒髪の女性の幽霊が現れたのは最近、先週ぐらいからだった。ご主人、それで合っていますか?」
「はい、そうです」
「出現時間は深夜が多いのかと思ったが、安定していない。また、甲冑の幽霊も黒髪女の幽霊も、出た部屋は2階の一室に限定されていた。リナの泊まっていた部屋だ」
カナタが言うのを聞いて、宿の主人がビクッと背中を震わせた。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません」
「でも不思議ね。さっきは客室は2部屋閉鎖したって言ってたけど」
「わ、私が夜に片づけをしていたら女の幽霊が出たのです! 本当です!」
主人が慌てたように重ねてくる。
「そうなんですか……わかりました」
何か釈然としないものがあったが、これ以上詳しく聞ける材料もない。
「では、問題の幽霊が出たという部屋に泊まりましょうか」
カナタは上階へと歩みを進め始めた。




