28.宿屋の幽霊が心配だ!
「じゃあ、この宿屋、月影亭に出る幽霊をどうにかする依頼にしようか」
カナタは壁の依頼書を剥がして手に取った。
「えー……あたし、またここ泊まるの? 結構怖かったんだけど」
以前にここで夜中に甲冑の幽霊が部屋のドアを開けてきたという体験をしたリナ。浮かない顔である。
「でも、この依頼を見つけるまで、宿屋で甲冑の幽霊が出たなんて話はしてなかったじゃないか」
「寝ぼけて勘違いしたのかと思ったの。でも、この月影亭で幽霊が出るっていうから、やっぱりあれも本当だったのかって」
リナが見たのは甲冑を着た幽霊だが、依頼書に書かれているのは黒髪の女の霊についてだ。
そこの齟齬もカナタには気になった。
「まあ、とにかくこの依頼で何かわかるかもしれない」
「そうね……」
ギルドの受付に依頼書を渡し、正式に依頼を受けることになる。
二人はその足で月影亭へと向かった。
「甲冑の幽霊が出てから、その晩はどうしたんだ?」
「布団をかぶって震えてたよ……モンスターかもしれないと思ったけど、あたしのレベルも1だったから戦えないし」
「それが正解かもな。モンスターだとしても強さがわからないし。よし、着いた。ここだ」
「うん……間違いないよ。ここ」
月影亭の前に着いた。
早速入ろうとするカナタだが、服の裾をリナがつかんでいる。
「ねえ、ここで何があっても……あたしを守ってくれる?」
「……」
上目遣いでカナタの方を見てくるリナ。出会ってからカナタが初めて見る表情だ。
少し考えて、こう言った。
「時と場合によるな」
「ひどっ! こういうときはもちろんだとか言うべきじゃないの!?」
ブリブリ怒るリナである。
「この朴念仁!」
「難しい言葉を知ってるな」
捨て台詞を吐いて、リナの方が先に宿へ入っていった。
「いらっしゃ、あ、あなたは……」
宿の主人の男性が驚いたようにそのまま固まる。
「覚えてる? そう、ここの宿で幽霊に襲われかけた冒険者のリナよ」
「いえ、あなたは出禁リストに入っています。今、警察を呼びますので……」
やりとりを見ていたカナタがずっこけかける。
「なんでよ!」
「一ヶ月ほど前に、部屋の花瓶を投げたり、絵画を窓から外に投げ捨てたりしましたね」
「そ、それはあの……」
「横からすみません。この女性は夜中に幽霊を見たと聞いています。部屋の備品を壊したというのも、それに驚いての行動ではないでしょうか?」
「いえ、その旨の説明は受けましたが、修繕費をいくらかお支払いいただく段になると姿を消されて」
「……」
「結局宿泊料金も支払われず、その後に宿ガイドブックのレビューに星1つを付ける工作を本名でされていて」
「リナ……お前、そんなことまでしていたのか」
「だって、あたしの話を信じてるのかわからない態度で……」
「布団をかぶって動けなかったとか言ってたが」
「花瓶を投げた後に布団をかぶったのよ」
リナはぷるぷる震えているが、それが怒りによるものなのか、行為がバレたことによる焦りによるものかはカナタにはわからなかった。




