22.出口付近だ!
「今の気配は……?」
「森の出口の方角、だよな」
何か、不穏な、もっと言えば不吉な気配がした。
感覚としてはもうすぐ森を抜けられる。手強いモンスターもいたがなんとか倒せた。
だが、肌にまとわりつく異形の気配。
「これさ、ちょっと聞いて。私が異世界に来る前のことなんだけど」
「おお、どうした」
リナが小声で喋り始め、カナタとタイスマリーは少し彼女の方に顔を近づける。
「あのね、ここに来る前は私、車を運転してて」
「うん」
エルフのタイスマリーに車の概念があるのかは不明だが、とりあえずカナタは相づちを打つ。
「家に帰る途中に、信号待ちをしてたの。バックミラーでちらっと見たら後ろにも車が並んでて」
「よくある話だ」
「そしたら、後ろの車の人がなぜかワイパーを凄い速さで動かし始めて」
「雨降ってたの?」
「ううん。晴れてたよ。だから、ウォッシャー液でフロントガラスを洗ってるのかと思って」
「なるほど」
話が見えないがとりあえず頷く。横をチラリと見ると、タイスマリーも真剣に聞いている。
「でも、ワイパー動かしてる時間がかなり長くてさ。もう15から20往復……? そんなに動かしても意味ないよね」
「多い気はするな」
「それで、どんな人が乗ってるんだろうとそのとき思って、顔を見ようとしたんだけど、ちょうど凄い勢いでワイパーが動いてたから、それに遮られて顔が見えないの」
「うん」
「信号の方をちらっと見たけど、まだ青にならなくて。また後ろの人の方見たんだ。髪の毛だけは見えて、女の人かなって思って」
「おお……」
「そしたらちょうどワイパーが止まってさ、乗ってる人の顔が見えたの」
「どうだったんだ……?」
「その女の人の顔に、でっかい穴が開いててさ」
「え? 後ろの座席のシートとかが見えたってこと?」
「ううん、黒い穴。黒い……なんか、何も見えない黒い穴だけが、顔にあるの」
「何それ、怖いな」
「それで思ったんだ。ああ、この人、目とかないから、ガラスがきれいになったのかがわからなかったんだ、って」
「うん……?」
「今、そんな気分だよ」
「どんな気分だよ!」
カナタが怒りを爆発させる。
タイスマリーは怒っているカナタの方を見て、怯えた表情を見せた。
「いや、おかしいだろ! なんだよこの話!」
「はっきり見えないと、不気味だよねっていうことを言いたくて」
「は?」
「なるほど、リナさんはその女の人も前が見えないし、リナさんもワイパーで女の人の顔が見えないし、という、両方のことが言いたかったんですよね」
「なんであなたは理解してるんだ……?」
タイスマリーが解説するが、カナタは理解ができずにいた。
そのときだった。ゾッとする感覚。悪寒がカナタの背中を走り抜ける。
「……?」
風が止んだ気がした。葉の擦れる音も聞こえない。
何かから逃れるために姿を隠したように思えた。
リナが唾を飲み込む音がした。
タイスマリーは無言で前方を見据えている。少し腰を落とした体勢だ。
視線をゆっくりと前に向ける。
森の出口の方角。その手前にある大きな木の影。
そこから赤黒い鱗が現れ出た。
「……っ」
それは、森にいるはずの存在ではなかった。
ドラゴンだった。




