2.異世界に来た理由だ!
首が繋がったらしい首なし騎士から逃れる。
しばらく走り続けて、ようやく二人は息を整えた。
「はあ……で、さっきの続きだけど」
リナが膝に手をつきながら顔を上げる。
「カナタはどうして異世界に来たの?」
「唐突だな。そんな話してたっけ」
「重要でしょ。私はね、トラックで走ってたら倒れちゃって、そのまま転移したみたい」
「陸上?」
「うん」
「トラックに、じゃなくてトラックで、か」
何かがズレたような、妙な気分になるカナタ。
「ん?」
「いや、日本語って難しいなと思って」
「難しい要素なんかあったかな」
リナがじっとりした目を向けてくる。
「で、カナタは?」
「ああ、俺はSNSで腹立つやつがいてさ。文句言ってたんだ」
「まさか逆恨みされて刺された?」
「物騒だな。違う違う」
カナタは軽く手を振る。
「レスバで興奮してたら、そのまま倒れて、ここに来てた」
「……憤死したってこと?」
「儚く散ったということさ」
「表現だけ変えてもねえ……」
リナはしばらく黙ってから、ため息をついた。
「転移のきっかけがひどいね。何やってんの」
「いやでも、ある意味かっこいいだろ」
「どの辺が」
「三国志の周瑜みたいじゃない?」
「周瑜はレスバなんかしないよ」
「いやするでしょ。絶対するって」
「しないって。もっとこう、戦略とかで勝負するんでしょ」
「三国志知ってるの?」
「一応ね」
カナタの目が輝いた。
「おお! どの版? 横山? コーエー? 俺さ、横山版だとさあ」
「急に距離詰めてくるのやめて」
リナは半歩下がった。
少しだけ沈黙が二人を包む。風が草原を撫でていく。
「でも、まあ」
リナがぽつりと呟いた。
「お互い、なぜかわからないけど異世界に来たってことだね」
「そうだな。でも、なんかこの憤死の記憶自体が、結構前のことみたいな気がするんだ」
「どういう意味?」
「その、憤死して異世界に来た、っていうのがさ。そこから今の異世界に至るまでの間に、もっと長い何かがあったような」
それを言われてどうするのだ、という表情のリナである。ただ、カナタから細かく聞いても何もわからなそうだと判断した。
そのとき、遠くでまたあの不快な鳴き声が響いた。
二人は顔を見合わせる。
「デュラハンが近づいてきてるのかも……」
「相手が馬に乗ってたら、俺たち逃げられないんじゃないか」
「ううん、多分、馬と並走してると思うよ。首が付いて元気になって」
「変わってるな……でも、もうちょっと安全な場所で話そうぜ」
「賛成」
そして次の瞬間、彼らは同時に走り出した。
「走ってばっかりだな、俺たち」
「私は元の世界で慣れてたけどね」
「なるほど、いいじゃん」
どちらからともなく、少し笑った。




