11.スキル精霊の噂だ!
「おはよう、早いね」
「おっ!? おはよう」
翌朝。カナタに挨拶してきたのはリナだ。
宿の朝食は、なんとバイキング形式だった。
王都にほど近いこの街は、さまざまな種族が行き交う観光地でもある。
人間だけでなく、獣人、エルフ、ドワーフ――それぞれ食べられるものも好みも違う。
そのため、宿側は長年頭を悩ませていたらしい。
「全員が満足できる食事を用意できない。どうすればいいのか」
そんな嘆願書が王のもとに届いたという。
そこで考案されたのが、『食べられるものを食べてね食卓 by 王様』。
通称、バイキングだった。
とにかく種類を増やせば、誰かしら食べられるものがあるはず、という豪快な発想である。
もちろん、その分だけ仕込みは大変になる。だが、制度を採用している宿には王から補助金も出ているらしい。
(雑だけど、理にはかなってるな……)
昨晩その説明を聞いたカナタは、朝からその恩恵を全力で受けていた。
「9時に待ち合わせ予定だったけど、もう会っちゃったね。しかしずいぶんとまあ、朝から豪快に……」
リナが思わず引く。
カナタのテーブルの上には、エビ、ハム、サニーサイドアップ、何かのフライ、分厚いブロックベーコン、そして申し訳程度のサラダがぎっしりと並んでいた。
しかも皿という皿が埋まっている。
「んぐ、んぐっ……朝からバイキング取り過ぎた」
「ホテルあるあるよね、それ」
「でも、見てると全部うまそうでさ……」
「その結果がそれ?」
「後悔はしてない。ちょっと苦しいだけだ」
「してるじゃない」
カナタはもくもくと口に詰め込みながら、次の一品に手を伸ばす。
「こんなに多くて、昼までに食べきれるかな」
「……ルール確認してきなさい」
時間制限を無視しているカナタである。
リナはすでに食事を終えており、あとは水を飲みながらカナタを眺めているだけだった。
「ところで、今日だけど、んむっ、ふむっ」
「食べてから喋ろうよ」
「んむっ、んぐっ」
「聞き取れないって」
諦めたように肩をすくめて、リナが口を開く。
「じゃあ私が話すから、食べながら聞いてて。今日はスキルの確認に行こうと思うの」
「なるほど、いいじゃないか」
「急に口がすっきりするのやめて。ちゃんと聞いてた?」
「おむっ、んもっ」
「……食べ終わってから話せばよかった」
妙な返事に呆れつつも、リナは話を続ける。
「カナタもまだスキル持ってないでしょ? 私もまだなんだ」
「え、そうなのか。リナってもっと進んでるのかと思ってた」
「一ヶ月前からいるだけで、そんなに強くなれるわけないでしょ」
少しむっとしたように言い返す。
「レベルは3だよ。でもね、スキルを覚えないと、その練度自体が上がらない」
「練度?」
「使えば使うほど強くなる、みたいなやつ。レベルって言った方がいいよね。でも、すでにスキルを持ってる状態じゃないと意味がないの」
「なるほど、スキルの成長か」
「そういうこと。だからまずはね」
リナは少しだけ声を落とした。
「スキル精霊のところに行って、スキルをもらう必要があるってこと」
「スキル精霊……」
聞き慣れない単語に、カナタは手を止める。
「なにそれ、ガチャ的なやつ?」
「……ちょっと近いけど、多分痛くないから大丈夫」
「嫌な予感がするな」
カナタは小さくつぶやき、残りのエビを口に放り込んだ。
どうやら今日も、平穏とはいかなそうだった。




