10.所持金の謎だ!
カナタの所持金が6000G。一方のリナは10Gだ。
パーティーを組むことになり、それが明らかになった。
「解散したら離婚の時の財産分与みたいに揉めそうだ」
「え?」
「何でもない」
軽く手を振ってごまかすカナタ。リナは首をかしげたままだ。
「ところで、なんであんたはこんなにお金持ってるの?」
リナに問われてカナタは一瞬だけ言葉に詰まり、顔をしかめた。
まずいことを聞いたか、とリナは内心で身構える。
まさか異世界に来て早々に借金したのか、それとも触れてはいけない事情でもあるのか。
「昨日、異世界まんじゅうを商人からもらっただろ」
「うん。変な味がしたって言ってたやつね」
「あれで腹壊したって言ったら、金くれた」
「ええ……? 無料でもらったやつでしょ確か」
「向こうが勝手にビビって払った」
「ひどいでしょ」
カナタは悪びれる様子もなく肩をすくめる。
「いや、だって本当に腹痛かったし。レビューにはその辺のことをうまく書くからと伝えたし」
「炎上狙いじゃないの」
呆れるリナだが、内心、ほんの少しだけカナタのことを見直してもいた。
(異世界だとこういう、ヤバい交渉も必要なのかも?)
カナタのこうした図太さは冒険者としては悪くないのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、やがて目的の宿にたどり着いた。
木造二階建ての、ごくありふれた安宿だ。入口の看板も少し傾いている。
「ここ。あたしが泊まってるとこ」
「だいぶ年季入ってるな」
「安いからね。文句言わない」
リナは慣れた様子で扉を開ける。中からは夕食の匂いと、宿泊客らしい賑わいが出迎える。
彼女は長期滞在の予定で、すでに前金を払っているらしい。
「しかし、どうしてリナは10Gしか持ってないんだ? 昼のうどん代も危なかったじゃないか」
「45Gは高いよね」
「いや、俺におごってもらうつもりだったとか?」
「普通は、『ここは僕が払います』『いえいえ私が』ってやって、最終的に男が払うものじゃない?」
「めんどくせえ婚活女か」
「あはは、でもちゃんと残金は計算してるから大丈夫」
そう言って、リナは自分の懐に軽く手をやった。
そこにあるのは、ほとんど空に近い財布。だが彼女の頭の中では別の計算が進んでいる。
パーティー解散時に分与されるのは、あくまで所持金だけ。
アイテムは対象外だ。
(お金を使って、換金しにくい形にしておけば……)
高額な装備や素材に変えてしまえば、分配の影響は受けない。
ほんの一瞬だけ、そんな打算がよぎったが、まあいいかと考え直した。
今はまだ、この奇妙な男とパーティーを組んだばかりなのだから。
「じゃあ、また明日。朝の9時に店の前に集合しましょう」
「ああ、遅れるなよ」
「あんたがね」
軽く言い返して、リナは階段の方へと向かう。
カナタはその背中を見送りながら、小さく息をついた。
仲間ができるなど、いろいろなことがあった一日だった。
そして明日から、いよいよ冒険らしい冒険が始まるはずだった。




