第8話 しでかしたエルフ
「あはは、まさか……世界を救った勇者様が男性好きだったとは……いや、ま、ま、まぁその……多様性ですからね……エルフにも男色は当然にありますし! 大丈夫です! よいうか、なかなかに大人ですね……」
カルファが出した答えは、大人の関係というもの。
というか、自身の趣味趣向からくるようなヤバいやつである。
もちろん、カルファ以外そんな狂った勘違いをしないだろう。
あったとしても、トールの幼少期を知る人物という位置付けくらいだ。
「いやいや、待ち待ち! とんでもない勘違いしとるな! 察するとかやなくて、もうそれ妄想の域やで? 自分」
さすがのトールもびっくり、頭の中は、はてなだらけである。
「え、あ、そうだったのですか? 私はてっきり――」
「ハハ、まさか……そっち方面の話をぶっ込んでくるとは……」
カルファは、目の前で呆れる宏斗から視線を向けたことで、助けを求めるように左隣のドンテツへと視線を向けた。
(助けを求めるんがドンテツって……なんでやねん。そこはまず、僕に謝るところやろ……)
頭の回転は速いけど、どこか抜けている。
そんなカルファに内心ツッコミを入れつつも、トールはもうしばらく様子を伺うことにした。
(こういうのは、すぐ助け船出すと、なんで機嫌悪くなってるか、伝わらへんからな……)
その考え、子を見守る母の如しである。
だが、この間にも、カルファの挙動はおかしな方に向かっていた。
「祖国で読んだ……禁断の園と一緒……ですし……きっと違いありませんよね……ふふっ」
不敵な笑みを浮かべながら、ドンテツへと近づいていく。
もうただの不審者である。
(あー、なんか酔っ払った時に言うてたやつか……って、あれ……ドロドロの同性同士の恋愛やんけ)
しかも、相手は筋肉ダルマの身内同然な宏斗である。
さすがのトールも、イラッときてしまい、注意しようとしたが、
(ん? ドンテツも察してるな……これは――)
そう、その飲みの席は、ドンテツも同席していた。
更に、トールの視線を受けた瞬間。
同情するような表情をし軽く頷いて、窓の外を見つめた。
カルファとは違い、トールと近しい感覚が常識がある。
(ほんまは、直接言いたいけど、任せろってことやろうし、ここはドンテツに任せるか……)
「よいか? そういった趣向は人に向けるものではない!」
「ふーん……それがなんですか? 私は推理できる範囲のことを口にしているのですが?」
理路整然と事実を口にするカルファ。
ドンテツの正論を受けてもビクともしない。
それでどころか、
「あれですか? もしかして、ヒロおじさんに嫉妬とか――?」
難癖極まれり、といった感じで自論を武装したことで、ドンテツを黙らせてしまった。
それでも、手を緩めることなく、顔スレスレのところまで近づき近距離でじーっと睨む。
「やめい、そんな目でこっちを見るんじゃない。儂は強いおなごが好みだ」
「振られましたね……トール様」
「ちょい、カルファ。こっちおいで……」
とんでもないカルファの発言に、トールは微笑みながら手招きした。
(これは、あれや。ちゃんとした躾や)
呆れと怒り、暴力はいけない。
けれど、ダメなことをダメというのも誰かがしなければいけない。
今から行なおうとしていることを、正当化しつつ、精一杯の笑みを浮かべた。
「な、なんでしょう! もしかして、チィコのように頭をぽんぽんしてくれるとかですか?!」
一応、宏斗の話を理解し、話を進めた。
ということは、それくらいのご褒美はあってもいい。
カルファは、ことの経由をそう捉えているのであろう。
実に残念なことである。
トールの気持ちなど、全く知らないカルファは、素直に指示に従って、立ち上がりトールに近づいた。
「はい? なんでしょうか? トール様」
――が、その瞬間。
「口拘束、加重力」
素早い詠唱と共に、トールの体から、光り輝くマナを纏った鎖が発現しカルファの口元覆った。
そして同時に紫色の波紋が頭上に現れ、それが「むごむご」言っているカルファを抑え床へ強制的に座らせた。
これが天誅である。
「っ?!?! ふごぉ、ふごご!?」
光り輝く鎖と頭上に浮かぶ紫色の波紋に寄って、カルファはその場で身動きすらできない。
「ええか、しばらくそこで正座や」
トールはそう告げて、視線を外した。
「ねぇ、ドンテツ! どうしてカルファは正座しているの? 悪いことでもしたの?」
そんな二人のやり取りと見ていたチィコが言う。
「うむ、あれだな。ものを考えず言葉を口にした結果だな。チィコ、お主はまだ子供かも知れんが、時には言葉を受け取る相手のことも考えるようにするんだぞ? でないと痛い目にあうこともあるからの」
「う、うん! 気をつける!」
「そうやで……チィコはこうなったらアカンからな」
「ふごぉぉぉぉ〜!」
市長室には、トールの深ーいため息とカルファの叫び声が響き渡ったのだった。




