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役目を終えたオカン系勇者の現実スローLIFEはままならない  作者: ほしのしずく


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第40話 新刊

 カルファと舞香が旅から戻って一ヶ月後。


 夕飯時の勇者トールの住まいにて。


 世の中は夏休みという長期連休に突入しており、勇者一行も例外ではなかった。


 勇者トールは、株投資で決まった稼ぎ、その足でヒロおじのいる市役所へ現状の報告をし買い出しに。


 エルフ族のカルファは、ここぞとばかりに惰眠を貪りながら、オタ活に勤しみ。


 ドワーフ族のドンテツは、あいも変わらず、月乃屋商店に赴き鉄を打ち。


 獣人族のチィコは、夏休みの宿題をトールやドンテツ、そしてカルファに教わりながらも、子供らしく友達と出掛けたりしていた。


 そして、今日がその休みの最終日。


 室内は、相変わらず賑やかなやり取りと、美味しそうな匂いが立ち込めていた。


「トール様、聞いて下さい! 亀川先生の新作が出たんですよ!」


 ダイニングテーブルに着いているカルファは、仕事終わりに購入した著者、亀川影の新作を手に持ち、キッチンの守護者と化した勇者トールにアピールしている。


 新作の名前は【旅に出た魔法使いは現世で推し活】。


 実は、亀川影自身がカルファ相手に経験した実体験を元に作ったお話。

 その内容は異世界から日本に転移してきた魔法使いが二次元に触れたことで日常を充実させていくといったコメディ要素強めとなっている。


「なにや、そのタイトル……というか、今支度中やねんから向こういってくれる? この料理時間との勝負やねん」


(って、なんとなく知ってるけど)


 トールはキッチン内を素早く移動しながら、右側のコンロでパスタを茹で。

 中央のコンロで乾燥わかめを茹で、そして左側のコンロで刻んだニンニク、一口大に切ったベーコン。

 ミックスシード、刻んだ唐辛子、マッシュルームを炒めている。


 今日の献立は、勇者特製・夏の終わりくらい手抜きしたい日のシーフードパスタと中華スープ。


 スープの具材は、ワカメと玉子といったシンプルなもので、味付けは顆粒鶏がらスープと塩のみ。あとは香り付けにゴマ油といった感じだ。 


「そう、邪険に扱わないで下さいよー! この作品、私をモデルにしているようなんですから」


「はいはい、確かにタイトルからして、そう感じてしまう部分はあるわな。でもや、この日本ではこういうタイトルは珍しくない」



 ――ピピッ、ピピッ!



「おっ、茹で上がりやな」


 あらかじめセットしていたタイマーを切り、茹で上がったパスタをフライパンに入れる。


 同時に茹で汁をお玉で掬い入れ、火加減を強火に。


 そしてフライパンを煽りながら水分を飛ばすようにして炒めていく。 

 

「いや、そうではなくてですね! 先日話した実話を元に――」


「そら、相手は第一線で活躍中プロ作家やで? 何でも話のネタにするくらいのもん持ってるで。あ、卵溶いてくれる?」


 トールは、カルファの言葉に耳を貸そうともしない。

 寧ろ娘に料理を手伝わそうとする母親のようだ。

 

 だが、それは仕方のないこと。


(魔法の痕跡があったしな……)


 家に戻ってきた時、なんとなく不安に思ったトールは、その残滓を調べたのである。


 つまりは、カルファがやらかした大方ことが、バレていたのだ。


(というか、いい歳してソファーで寝て、あんな大きな声で寝言とかいうからやけどな)


 そうなのだ。

 カルファは、自ら申告していたのである。

 寝言で。


(あれやろな……きっと、尊敬する先生の名誉とか、色々と考えてるんやろうな……でも、今回は助け船出さへんで)


「はぁ……まぁ、そうですね」


 トールの読みがあったのか、カルファは腑に落ちないような表情を浮かべながらも、その指示に従い卵を割り溶いた。


 すると、ダイニングが定位置となったチィコが、獣人族特有の身軽さを生かした動きで宙を舞って、カルファの後ろに立って、


「カルファ〜! 落ち込んでいるの? あ、ジャーキーいる?」


 そういうと好物であるジャーキーを手渡した。


「ジャーキー! 頂きますね! でも、今回は落ち込んではいませんよ♪」


「うーん? そうなの? それならいいんだけど!」


(やっぱ、チィコはいい子やなー!)


 チィコの素直さに自然と顔を綻ばせるトール。


(でも、ご飯前やしな)


「チィコ。今からご飯やから、あんま食べ過ぎたらあかんで?」


「はーい! これで終わりにしますー!」


「カルファもやで?」


「は、はい! あ、卵溶けました!」


「ええ感じや、ありがとう」


「はい♪」


 トールは笑みを浮かべるカルファから溶き卵を受け取ると、中央の鍋をかき混ぜながら溶き卵を入れ、中華スープを仕上げていく。


 すると、薄暗くなったベランダの方から声が聞こえた。


「今日も賑やかだのー……」


(ドンテツは、もう一杯やってるんか! ええこっちゃ)


 その視線の先では、ドンテツが、ベランダで夜風にあたりながら温めたワンカップ酒を口元へ運んでいた。


「ふぅ……そのまま飲むとやはり飛竜の酒には劣るが、炙ったエイヒレを入れれば、何の遜色もないか。いや、寧ろ食感が柔らかいからこっちの方がいいかもな……早く冬がこんかの。さすればもっと美味かろうて」


 ドンテツは最近、コンビニで買ったエイヒレを炙って酒に入れるのにハマっている。


 香ばしくも柔らかな食感のエイヒレと、日本酒特有の鼻に抜ける匂いが好きなのだ。


「あ、エイヒレだ! ボクもほしー!」


 チィコは炙ったエイヒレの匂いに鼻をヒクつかせキッチンからドンテツのいるベランダへと移動する。


 コンビニで売っているエイヒレは、チィコも気に入っているらしい。

 とはいえ、一番好きなのはやはりジャーキーのようだ。


(ジャーキー好きやもんな。チィコ)


 帰り際に寄ったコンビニでの出来事を思い出すトール。


『チィコ、今日テスト頑張ったわけし、ご褒美いる? ジャーキーとか、どうや?』


 夕飯前だから、そこまで腹の膨れないものを。

 そういう思いで口にした。


 けれど、


(言葉を聞いただけで、涎を垂らすってどんだけ好きやんねん!)


『ジャ、ジャーキー……た、食べるぅ!』


 チィコは、そう返すと、おねだりする子犬のように魔法で消えたはずの尻尾をブンブンを振っていた――ように見えた。

  

(あんときはびっくりしたな……魔法解けたんかとか、色々と考えてしもたで……)


 トールが振り返っていると、ドンテツの豪快な笑い声が響き渡った。


「ガハハッ! チィコ、お主は匂いの強い物が好きだな!」

 

「いやいや、ただ単に匂いの強い物を選んでるわけじゃないからね!」


「むう、そうなのか? 儂はてっきり匂い強弱で好みが分かれていると思っておったわい」


「うーん、もちろん匂いが強い方が好みだけど、腐ったような臭いのする食べ物は無理だよ? ほら、何だったっけ? 大豆っていう豆が腐ったやつとか」


「――ああ、納豆ね」


 トールが出来上がった料理片手に言う。


「そう! 納豆だよー! アイツさーネバネバしてるしーそのネバネバが触れた物は全部納豆の臭いがして取れないんだよねー。日本は好きだけど、納豆は無理かなー」


 チィコは納豆の話になると、露骨に顔をしかめる。

 それこそ名前を聞いただけ顔しかめるくらいに。


(嗅覚が発達してるっていうのは、良いことだけやないってことか……でも、あんときの子犬は納豆好きやったけどな……その辺は、別ってことか……)


 ヒロおじこと、宏斗が子供たちを喜ばせるために手配した子犬たちとの触れ合いイベント。


 十三時からということもあって、トールは昼食を取ってから駆けつけた。


 すると、子犬たちは、ジャーキーを前にしたチィコのように、涎を垂らしながら、尻尾を振りながらトールに群がった。


 その時、食べたものが納豆パスタだったのである。 

 

 改めて獣人族と動物の違いを認識したトールは、再び三人の会話に耳を傾けた。


「ええ……そうですか? 私は納豆大好きですよ! 体に良いですし、ご飯にもパスタにもうどんにも合うではないですか」


 一方でカルファは、納豆の話になるとむしろ嬉しそうだった。健康に良いだの、ご飯にも麺にも合うだの、前にも似たようなことを言っていた気がする。


(こっちは、まんまエルフって感じやな。ほんま面白いわ)


 日本で目にするとなおさらである。


「うげぇ……想像しただけで厳しいかも」


「はいはい。納豆もええけど、もうご飯出来たで! 麺伸びんうちに食べてや」


「おお、出来たか! では、お呼ばれしようかの!」


「ボクもー!」


「私もー!」


 そんな種族の違いがありながらも、今日も四人は食卓を囲む。

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