第32話 百貨店へ
暖かみのあるオレンジ系の照明に、圧迫感を感じさせない高い天井、小綺麗な服装をした人に溢れた店内。
トールたちは、さっそく百貨店の中に入っていた。
(チィコは人の多さ、ドンテツは相変わらず、建物の構造が気になるらしいな)
先程まで、後ろについていたというのに、自分を追い抜いている。
その様子に、思わず笑みがこぼれるトール。
「おお! ひっろーい! 人もたくさんいるねー! 貴族のお城みたい! って、これがエスカレーターかー! 穂乃花ちゃんが言ってた通り、自動で動くんだね〜!」
「本当ですね。まるでゴミのように見えますね。ですが……エスカレーターより、後ろにあるエレベーターの方が色々と見渡せますよ? ゴミの様子とか」
「ゴミ、ゴミと……やめんか、その漫画とやらからとったセリフ。儂ら以外にも客はおるんだからの!」
「別に迷惑をかけているわけではないのですから、いいではないですか。それに――」
「――それに?」
「これのセリフは、漫画でなくて小説ですし」
「いや、どっちもいいわい」
「ドンテツに完全に同意や。カルファ、日本を満喫するのはええけど、人の多いところであんまアホなことは言うたらあかんで」
(ドンテツには申し訳ないけど、今日は引率するので手一杯になりそうし、ツッコミは任せよか)
「そうだよ、カルファ! 人を傷付けることを言ったらだめなんだよー」
「トール様に、チィコまで……私はちゃんと声のボリュームとか考えてですね――」
(ちょっとドンテツに負担をかけてる気はするけど、皆楽しそうで何よりや。ここにして良かったわ)
トールがこの場所を選んだのは、何も偶然ではない。
まずは、導線。
地下鉄へ直結する道に繋がっており、旅行や出張で訪れた人向けに地元のお土産や名物が取り揃えられている。
このことによって、道を迷うことがない。
(目的地までどう行くか、予測出来ていれば、市役所行った時みたいにならんしな)
同じ轍を踏まない。
それがトールなのである。
次にその歴史と建造物としての価値。
この百貨店は、九十年近くの歴史があり、ドンテツやカルファ、チィコであっても、親しみやすい中世ヨーロッパのような雰囲気が随所に見られるのだ。
最後に、品揃えが豊富なこと。
店は、地下一階から地上七階まであり、地下一階は観光客、出張で訪れた人向け。
一階については、イマドキ女子が喜びそうな貴金属に有名ブランドの化粧品の数々が展示・販売している。
(普段から化粧っ気のない、カルファが興味を持つかはわからへんけど、何でも経験や)
どう考えてもオカンである。
いや、異世界を魔王の魔の手から救ったとは思えない、カルファ見守り隊である。
(特にカルファは僕らより、長生きすることが確定してるわけやしな。このまま経験せんまま歳をくってしもたら若い子に毛嫌いされるのが見えてるし。まぁ、友達が出来てから、少しは興味持ち始めたみたいやけど)
「色んなものに触れて、ちゃーんと見識を広めんとな」
「ど、どどどうしたんですか?! いきなり私の頭を撫でたりなんかして!」
「いや、特に意味はない。なんか撫でたくなった。ただ、それだけや」
「撫でたくなったそれだけって……意味もなく、女性の頭を撫でてはいけませんから!」
「はいはい」
「って、また撫でるー! 全然わかっていないじゃないですか!」
頭を撫でられるのに、敏感なお年頃のカルファは置いておいて。
二階から四階にかけては、ファミリー層を狙ったインテリア家具に寝具、ファッションなんかがテーマで、他の階より家族連れが多い。
そしてこの階には、地酒のお店とかもあったりする。休日のお父さんをターゲットにしている階だ。
ファッションはともかく、インテリア家具に地酒とかならドンテツにピッタリの場所である。
トールの視線に気づいたようで、ドンテツは振り向いた。
「な、なんだ? 今度は儂か?」
(って、なんで顔赤いねん)
頭を撫でられていたカルファを見てみたのか、ドンテツは身構え顔を赤らめていた。
(完全に毒されてやん。まぁ、ああも毎日BLがどうのこうのと言われてたら無理もないか)
「あはははー! それはないて。同性の僕に撫でられても嬉しないやろ? 仮にするにしても、もっと相応しい子おるみたいやし」
「わわっ、儂に相応しい子?!」
「ほら、あの子」
トールは、ハンマーを持って鉄を打つ真似をする。
すると、ドンテツの赤くなり小声で耳打ちしてきた。
「トールよ、ここで言わんでくれ。カルファがおると色々とややこしい」
「ははは……もう遅かったみたいやわ」
「えっ!? 何ですか?! 髭モンジャラドワーフに相手が?」
「はぁ……」
「あはは……ごめんごめん」
(実はドンテツには好きな子が出来た。相手は先月、働き始めた月乃屋商店の看板娘である雪子さん。ドンテツの話によると若いけど元気で頼りがいのある強い女性らしい)
「人の色恋沙汰は、お、面白半分で口にするものではないぞ」
「面白半分とはちゃうけど、今ではなかったね。はは……」
「いやいや、絶対今ですよ! だって、私たち全員が揃っているんですから!」
「ふぅ……めんどくさいの。そういう意味ではない」
「めんどくさいってなんですか! パーティメンバー内での隠し事はご法度でしょう? 現に私は一日起こった出来事を包み隠さず、一言一句逃さず話しています」
「いや、カルファ、そっちの方がおかしいからね」とか言ってしまうと、買い物をする前に一日が終わってしまうのでグッと堪え、一人案内図に夢中となっているチィコに声を掛けた。
「チィコはどこの階がいい?」
「ボクはね、色んな物を食べたいかなー。こことか!」
チィコが指を差したのは、レストラン街のある五階、六階の案内図だった。
「そうかそうか、ほんなら上にいかなあかんね」
五階から六階は飲食店が参入しており、日本っぽい寿司やったり、マスコットキャラクターが可愛い粉物系の店、人気オムライス店とかジャンルは多岐に渡る。
ここは言うまでもなく、素直で可愛いチィコの為である。
無意識ではあるが、チィコが自分の想いを汲み取ってくれた。
そのことが嬉しくて、トールの自然と足取りも軽くなる。
「上かー! あ、じゃあさ。このイベントって書いている一番上は? ここには何もないの?」
「あるっちゃあるけど、今は絵画展が開かれてる時期やからなー興味あるんやったら、行ってみてもええけど」
最上階の七階は、季節ごとのイベントに合わせて展示内容が変わる階だ。
バレンタイン、ホワイトデー、ハロウィン、クリスマス、年越しといった感じに。
「そっかー、絵画とかはまだボクには難しいかなー。絵が凄いっていうのはわかるけどさ」
「せやな、芸術とかは奥深いしなー。僕も気分転換に見たりするけど、まだ本質はわからへんしな」
「へぇー……トールでもわからないんだ! じゃあ、まだわからなくてもいいかな♪」
「ふふっ、そうか。ほんなら、取り敢えず飯行こか」
「うん、あ、でも二人はいいの?」
「大丈夫や。そのうち区切りつけて来るやろうし、ドンテツにはかんたんスマホ持たせてるしな」
「そっか! じゃ、問題なしだね!」




