第16話 女子トーク
カルファと舞香は、ホシバシックス――通称ホシバと呼ばれるカフェスペースにいた。
いわゆる女子トークというものに、花を咲かせている最中である。
カルファにとって、この場所での会話はどれも新鮮で、かつての冒険の日々とは違う、ゆったりとした時間が流れていた。
「とまぁ、こんな感じです……」
「なるほど……」
舞香によれば、その友人は近所に住む幼馴染で、数年もの間お金を返していないらしい。
それでも彼女が信じているのは――頼み方が、あまりにも丁寧すぎるからだ。
感謝を過剰に伝え、救えるのは舞香だけだと強く訴えてくる。
卑怯な手ではある。
だが、
(まさか、この程度の嘘に気付けないとは……)
自分たちの世界にいた人間は、こんな初歩的なことには引っ掛からない。
これは、日本という国が平和だからこそ、生まれた疑わない心につけ込んだ、嘘。
その危うさに、カルファはため息をつきそうになるが、かろうじて飲み込んだ。
「きっと忙しいんだと思うんです……だから、今は連絡できないのかと」
「そうですか……」
(これは……重症ですね……)
つい先程まで、トールから借りたスマートフォンの多機能さに驚いていたはずだったが、今はそれどころではない。
舞香自身は気付いてないだろうが、この状態は一種の“依存”に近い。
(こうなると、昔、見た詐欺師と同じですね……)
旅先のギルドでよく見る光景だった。
初心者冒険者に無料で配布している地図などを、売りつける。
それも愛想良く「この地図は高価で有料だ」と触れ込み付きでだ。
そして、バレた瞬間、生活苦を訴える。
結果――。
(依存してしまうんですよね……)
状況は違っても、同じ構図。
放置すれば悪化する。
それは、カルファにも十分理解できることだった。
(これは、早急に解決すべき問題です)
舞香のためにも。
カルファは静かに拳を握り、椅子から立ち上がった。
「では、そのご友人の元へ向かいましょうか」
「え――っ!?」
「トールのような転移はできませんが、私の風魔法は移動に適しています。それに――ちょうど、覚えたての探索魔法を試したかったのです」
もちろん、それは方便だった。
だが――。
(聞いてしまった以上、放ってはおけません!)
日本で初めてできた友人のために。
その想いは、確かなものだった。
☆☆☆
カルファは、トールから教わったオリジナル魔法の透明化と、風魔法の飛行を用いて、舞香の家へと訪れていた。
舞香によると両親は日中仕事に出ており、この時間帯は不在だという。
上空から見下ろした街並みは、やはり驚異的だった。
(この世界は……本当に文明が発達していますね)
彼女の家は、外観こそ周囲と大差ない一般的な造りだったが、それでも十分に立派だった。
(貴族でもないのに、この水準……)
魔法に頼らないからこその発展なのだろうか。
興味は尽きない。
室内もまた、整理整頓が行き届いた清潔な空間だった。
(うん、やはり良い家ですね……)
「いやー! まさか自分が空を飛ぶなんてびっくりですよー! もしかして私も魔法使えたりして……」
「どうでしょうね……。ですが、転移者であるトールが使える以上、可能性はあるかもしれません」
「ええ――!? 使えるんですか!?」
「お、落ち着いてください。あくまで可能性の話です。それに、もし使えてしまった場合……実験対象になる日々が待っているかもしれませんよ?」
カルファがそう言うと、舞香はぴたりと固まった。
直後――。
「はい、粗茶ですがどうぞ」
来客用だろうか。
舞香は、深緑色の飲み物を差し出してきた。
カルファは、手に取って口元に運ぶ。
すると、落ち着く香りが広がった。
(これは……)
トワルフの森で飲んでいた薬茶に似ている。
故郷の味に似ていることに、カルファは少し驚いた。
「とても良い香りですね。これが“緑茶”というものですか?」
「ですです! って、カルファさん知ってるんですか?」
「ええ。私の故郷にも似た飲み物があります。薬茶と呼ばれているのですが、トール曰くほぼ同じものだと」
「へぇ~! 異世界と共通点あるんですね! ……あ、すみません! “異世界”って言い方失礼でしたよね!」
「いえ、問題ありません。トールも私たちの世界を“異世界っぽい”とよく言っていましたし」
「それに?」
舞香が首を傾げる。
カルファは小さく咳払いをした。
「おあいこですから」
そして、少しだけいたずらっぽく笑う。
「――異世界と私たちの世界、案外共通点があるのかもしれませんね」
「ふふっ、確かに!」
「ええ」
その後もカルファは、舞香との何気ない会話を楽しみながら、日本と自分たちの世界について語り合った。
それは戦いとは無縁の、穏やかで満ち足りた時間だった。




