第15話 初めてのお友達
小刻みに揺れる箱――電車の中。
カルファと舞香は時刻表に、記された時刻に来た電車の中にいた。
「ゆ、揺れるのですね! それにかなりのスピードが出ているような――」
馬車で移動すると同じようなものだとトールに聞いていたが、速さが段違いだった。
万が一事故が起きたことを考えてしまい、必然的にカルファの体は強張った。
「大丈夫ですか? カルファさん。その……顔が青いですけど」
「あはは……だ、大丈夫です! 色々と理解が追いついていないだけですので」
本音を言えば少し不安には思っていた。
けれど、エルフの王女としてここで弱音を吐くにはいかない。
(この世界に存在するエルフ族は私一人なのだから)
吊り革を掴んで、カルファはそう言い聞かせた。
それに、スマホに搭載された通行手形を自動で判別する改札という検問のような機械。
駅員という門番が不正の有無を鋭い目つきで様子を確認するといった理に適った仕組み。
分刻みに遅れることもない移動手段。
技術力、国民性からしても、慎重なことが伺えるのだ。
(舞香さんや乗客の様子からしても滅多なことがない限り、事故は起きないでしょうしね)
それに自分以外の乗客は平然としている。
ならば、不安に思うことはない。
「あ、そうか。そうですよね! 徒歩か馬車しか移動手段がないと言ってましたもんね! 私ったらすみません、配慮が足りてませんでした」
「ええ、原理を理解している移動手段であれば全く問題ないのですが。この電車と言う物の原理がどうしてもわからないので、やはり不安ですね……私の方こそすみません。王女とか言っていたのに情けなくて……」
「いやいや、王女とか関係ないですから! 誰だって初めて体験することはおっかなびっくりになっちゃいますって! だから、気にしないで下さい。そんなことよりもエンジョイしちゃいましょう!」
「そうですか……そうですね! 少し気負い過ぎていたのかも知れませんね!」
「です! って今、気付いてしまったんですけど、私ってこの世界でエルフの友達を持つ唯一無二の存在じゃないですか!?」
「私と舞香さんがお友達……?」
「はい! お友達です! って、違いますか? もしかして、嫌だったりとか……」
「い、いえ! そんなことはありませんよ! とても嬉しいですし、光栄です」
カルファは、心から喜んでいた。
この世界の住民と接したことで、日本に降り立ったただ一人のエルフ――トワルフの森エルフの王女として、立ち振る舞わないといけないと考えていた。
けれど、逆に言うと、それは誰もカルファを知る者がいないということ。
であれば、ありのままでいこう。
(トール様と一方的な契約書を取り交わしたというのに、純粋に私を友達と呼ぶこの素敵な少女の為に)
カルファの胸に、そんな想いが宿った。
☆☆☆
カルファは、図書館や書店のある駅に着くまでの間に、調べきれなかったこの世界について、舞香に教えてもらっていた。
まずは、この日本という国について。
日本という国は建国して、二千五百年以上の歴史を誇る大国らしく、通貨は円という貨幣や紙幣といったコインと紙に特殊な加工を施した物が使用されているらしい。
(これだけでも、とても驚いたのですが)
まさかの日本以外にも同じ文明水準を持った国があるらしい。
その数、百九十ヵ国以上。
カルファの住んでいた世界はエルフ、ドワーフ、人族、獣人族、魔族といった五ヵ国しか存在していない。
その差はあまりにも大きかったのである。
「はーい、着きましたよー! まずはここです!
TAKUYA書店! ここには、さまざまなジャンルの本がありますよ〜! 歴史からラノベ、そして絵本に漫画! 一階にはカフェや地元の食べ物屋さんとかもあったりします〜!」
駅のホームを降り、飲食店やコンビニを横目に通路。
ひとりでに動く階段――エスカレーターを利用した先にそれはあった。
透明なガラス細工に、鉄を加工した見た事のないデザインの建物。
間違いなくドンテツが目にしたら、一日中うるさくなるだろう。
ドンテツは鉄や工芸品だけではなく、こういった民族特有の建造物にも目がない。
旅先では必ずと言っていいほど「儂ならこうするかの」と語り出し、周囲を困らせていた。
「ふふっ」
カルファは、少し前の冒険の日々を思い出して、自然と笑みがこぼれた。
「どうかしたんですか?」
「あ、いえ。ドンテツがここに居たらとうるさかったかなと、旅先でよくそういう光景に出くわしたので」
「へぇー! やっぱりドンテツさんて、Theドワーフって感じなんですね!」
「そうですね! ドンテツを標本にすれば、ドワーフの全貌がわかるかも知れませんよ」
「ひょ、標本ですか……ちょっと怖いですね」
「ふふっ、ジョークですよ! それにもし本当であっても――」
カルファはわずかに声の温度を落とす。
「ドンテツのように汚れてないから、風呂に入らない。臭いがしないから大丈夫などといった美的センスのない発言をする生物の標本なんて願い下げですから」
「あれ、何だろう。カルファさんの圧が強い……」
「すみません! 私としたことが、感情的になってしまいました」
「あーいえいえ! 大丈夫です、気にしないで下さい! 誰だって親しい友達であっても、揉めることはありますから! 私だって、親友にお金貸してぜーんぜん返ってきませんからね! 今月支払いなのに、早く返して欲しいものですよ! 連絡しても既読すらつかないんですから」
「へ、へぇ……」
どう考えても、“親友”と呼べる関係ではない気がする。
(お金の切れ目は縁の切れ目……でしたか)
トールの言葉が脳裏をよぎる。
かつての自分であれば、騙される側が悪いと切り捨てていただろう。
関わる価値のない人間だと、迷いなく判断していたはずだ。
だが――。
(どうにかしてあげたくなってしまうとは……)
どうやら、自分が思っている以上にトールの影響を受けているらしい。
「あの……舞香さん。そのご友人のこと、もう少し詳しくお聞かせいただけませんか? このマップによると、三階にカフェスペースがあるようですし」
カルファは、自動ドアの横に設置された館内案内図を指差す。
「はい! いいですよー! あ、でも本! 本を見なくていいんですか!? 二階には本がたくさんありますよ?」
「ふふっ、大丈夫です。本は逃げませんので」
「く――っ、ふふ……あはは! それを魔法が使えるカルファさんが言うと、なんだか異世界ジョークって感じですね! わかりました! じゃあ、女子トークに花を咲かせちゃいましょう〜♪」
「はい、お手柔らかにお願い致しますね」
カルファは、知識欲を刺激される空間の誘惑に抗いながら、舞香の話に耳を傾けることにした。




