第13話 トールの考え
(はぁ……けど、しゃーないかー)
「よし、ちょい君少しええか?」
踏ん切りがついたトールは、一部始終を目撃していた女性店員を手招きした。
「えっ、あ、はっはい!」
女性店員はトールの言葉にビクンと体を反応させる。
魔法なんて現実に存在するわけない。
そう思っている人がほとんどである。
そんな中のこの出来事。
女性店員の反応は至って普通だ。
「大丈夫や。何もせえへんし、とって食ったりもせえへんから」
トールは先程より、優しい声色で声を掛けた。
自身が表現できる最大限の笑顔込みで。
すると、女性店員は目を閉じて肩を震わせながら「わ、私は何も聞いてましぇん……」と呟いた。
何とも言えない空気が流れたが、これは自身の仲間が招いた不手際。トールはそう思い次に行動を移した。
「聞いとっても聞いてなくてもええ。けど、お願いがあんねん。この子と連絡先交換したってほしいねん」
トールが考えた策は、カルファに友達を作ってもらうこと、そうすればこの世界での常識も学べる。
その適任者として、目の前できょとんしている女性店員を選んだのだ。
「あとこの書類にも拇印と署名もしてくれへん?」
そう言うと【次元収納】から、誓約書を取り出す。
「ひぇぇぇ……何も無い空間から、紙が! こっ、ここここにぃひぃ!」
「あはは! そらびっくりするか! ちょい待ちや。回復。」
明るく優しい光が慌てふためいていた女性店員を包む。
「どや、これで少しは落ち着いたか?」
「はぇぇ……これ何だかぽかぽかしますね……不思議と気分も落ち着きます」
「そらそうや、状態とか体力を回復する魔法やからね」
「あの〜トール様? 私にはあれだけ怒鳴ったのに、普通に魔法を使うんですね……というか、この世界に来てから一番魔法を使っているような……」
「いやいや、それは君らの為やからな! 普通に生活するなら魔法なんて使わへんし」
「本当ですかねぇ〜……こういうのって日常生活に出ますからね……今、思えば旅の最中でもよく居なくなったことがあったような……」
なにか言いたそうな口ぶりで、トールを見つめるカルファ。
「なんや、その目」
(どうせ、あっちの世界では使ってたって言いたいんやろな……)
「いえ、別に何もありませんよ? ただ、気になっただけです。習慣ってそんな簡単に治るのかなーと」
(やっぱな〜……ほんまわかりやすいわ。どっかの色黒ムキムキおっさんと大違いや)
「あのー……私はどうしたらいいんでしょうか? やっぱり口封じに殺されるとか……?」
「おい、二人が言い合いたい気持ちはわかるが、お嬢さんが困っておるぞ!」
「っと、そうやった。そうやった。ちょっと待ってや……条件はっと、まぁ、こんなとこやろ」
トールは、魔法で契約条件を印字した契約書を手渡した。
その条件は、この事を他人話さないこと。
定期的に連絡を取ることの二つだ。
簡単ではあるが、今後のこと考えて敢えてこの二つにした。
「確認できたら、下の印って書いてる部分に親指置いて念じるだけでええからね。それで署名もされて契約書交わしたことになるから」
「わ、わかりました」
女性店員が親指を当てると、誓約書の何も書かれていない部分に名前が浮かび上がる。
「私の名前だ……」
「当然や! 魔法やからね。よし、これで誓約完了や! これからもよろしゅうな!」
「は、はい……」
☆☆☆
コンビニでのトラブルを乗り越えたトール率いる勇者一行は、トールの住まいへと帰ってきていた。
「おいしー! このジャーキーっていう干し肉と揚げた鳥やばいよ! 噛めば噛むほど肉の味が口に広がるし、フォムチキだっけ? これなんて外はサクサクで中から甘い脂が溢れてくるぅ〜!」
「変換、スタンプ……顔文字とやらは……えーっとどこでしょう? 早く返さないと……」
――ブブッ。
「わわっ、また通知が!」
チィコはリビングテーブルで足ぶらぶらさせて、牛100%のジャーキーとコンビニホットスナックの名物、フォムチキを頬張り、その横ではトールのスマホを持ったカルファがLINEに夢中となっていた。
「うむ、これは美味いの♪ 飛竜の酒より、キレがある! その上、容れ物も綺麗ときた。この大きさもそうだが造り手の意地のような物を感じるな!」
ドンテツはフローリングに座りワンカップ酒を啜る。
飛竜の酒と言うのは、ドワーフが普段から好んで飲む酒で。飛竜の尾を乾燥させた物を度数の強い酒に年単位で漬けた物だ。
「そうか。気に入ってくれて良かったわ」
「うむ、酒は高いだけが全てではないからの! ときにトールよ。連絡先なんぞ交換して良かったのか? スマホとやらもカルファに渡しておるし。もし万が一儂らのことがバレてしもたら、色々と問題なのではないか?」
「大丈夫や、一応考えてのことやから」
トールは考えていたのだ。カルファも含めた三人が自分無しで生き抜いていく方法を。
「そうか……儂も疎いところが色々とあるからな。この世界でも世話をかける」
「ええよ、気にせんとって」
そう言いながらも、今後のことを思い浮かべると頭が痛いトールであった。




