第12話 契約書の穴
「えっ、なに? なんなの? 二人して固まって……ボクにもわかるように話してよ〜!」
先程まで、香ばしい匂いを放つホットスナックに夢中となっていたチィコが言う。
「チィコよ……ちょっと待つのだ。あとでちゃんと説明するからの」
「嫌だ〜! ボクも知りたいよー!」
「ははーん、皆さん動揺していますね」
全員の視線が自身に集まったことで、鼻高々といったところだろう。
自分が何をやらかしたのかもわかっていないカルファに、トールの怒りは沸点間近となっていた。
「っこんのぉ……」
「ふふっ、どうかされたのですか? さすがのトール様もご存知ではなかったようですね! 褒めて頂いても宜しいのですよ? それに魔法で作った物が使用できるなら、魔法を使える私達は無敵です!」
「アホかぁぁーーー! ええか? 今証明したことはこの世界の平穏を壊すことにもなるんやで? この日本っていうとこはな! 契約や労働の対価で賃金を得て物こうたりしてる! それが何もなしに全部出来るって……もーしバレてみい、強制送還で済む問題やないで!」
怒鳴ると同時にその手に持っていた新聞紙をくしゃりを握り潰してしまう。
しかし、トールの言うように、この資本主義の日本でカルファのような考えを持ってしまったら、恐ろしいことになるのだ。
もし、カルファが悪意を持ってこの世界の物を模倣し続けたら、日本、いや世界だって大混乱に陥るかも知れないのだから。
だが、その契約書の穴に気付いた本人は何も理解していない。
「そんなに怒鳴らなくてもいいではありませんか……私は少しでも、トール様の手を煩わせないようにと思ったのに――」
尊敬するトールに怒鳴られ、叱られたこの事実だけが、カルファの胸の中に残っている状態だ。
そのことを察したのか、ドンテツは助け舟を出すべく、まだ怒りの収まらないトールを説得した。
「のう、トールよ。カルファのやってしもたことは、無知の怖さ極まれりといったところだが、悪気はないんだ。許してやってくれんか?」
「髭モンジャラドワーフ……ありがとうございます」
「……その呼び名やめんか。お主の為に説得しておるんだぞ?」
「……ごめんなさい、ふざけてしまいました」
「ふざけてしまいました、ってお主なぁ……」
ドンテツがせっかく助け舟を出したというのに、カルファはそれが少し気に食わなかったようで、ふてくされている。
そんなカルファを前に流石のドンテツも少し憤りを覚えたようで、鼻息が荒くなる。
「これは怒って当然や。このタイミングでふざけるのはアカン!」
(ここは、たまりに溜まった分も含めて、今ちゃんと注意しとくか)
たまりに溜まった分。
魔法のことになると全て、疎かになってしまう知識欲の暴走のことだ。
もちろん、他にも言いたいことはある。
例えば趣味趣向を無意識で押しつける傾向や、あーいえばこーいう理屈っぽいところである。
しかし、この三人のやり取りを見ていたチィコには、違うように映っていたらしく、鼻息を荒くするドンテツと、まだ怒りの残るトールの前に立ちはだかった。
「ドンテツ、怒っちゃだめだよ! カルファはトールに怒られて落ち込んでいるんだから!」
「いや、儂もそう思ってだな。励ましたんだがのー……」
幼いチィコに真っ直ぐ注意されたことよっぽど堪えたのか、ドンテツは黙り込んでしまった。
「トールもだよ? 焚き付けちゃだめ!」
「いや、それはそうやけども……」
確かに正論。
しかし、カルファやドンテツであったなら、引き下がることはなかった。
が、相手はトールの癒し枠であるチィコ。
当然、無下することはできず、先に意気消沈しているドンテツと同じく、トールもまた、黙り込んでしまった。
「カルファ、よしよし」
「うぇーん、ありがとう。チィコぉぉ〜!」
問題を起こしたカルファがチィコに慰められ、叱ったトールと、励まそうとしたドンテツが完全に悪者扱いとなっていた。
「ぬぅ……儂まで、悪者扱いか……」
「……なんやこれ。僕とドンテツがわるもんみたいになってるし……まぁ、一人くらいバレたところで問題ないか……いや問題ありまくるし許したくないけどなー……」
この状況に納得はいかないが、どうにか対処をしないといけない。トールの頭の中はそれでいっぱいになっていた。




