第10話 いざ、コンビニへ!
――ピロパロピローン、フェミフェミマ〜♪
何故か耳に残る、日本人なら必ず聞いたことのある電子音、挽きたてコーヒーと揚げ物の匂いがする超絶便利な店。
そう、トール率いる勇者一行はコンビニに訪れていた。
そしてこれが、ここまでに来る道中で全員の行きたい場所を照らし合わせた結果である。
トールの前を歩くカルファとドンテツは、それぞれ別の意味で目を輝かせていた。
「いやーしかし、なんだな。このコンビニとやらは何でもあるのだな……また、ドアが勝手に開くしの」
「本当ですね……この狭い店内に規則正しく陳列されていますし、しかもこれ導線も考えられていますよ……魔法を使わないから文化はどれほどものかと思いましたが……これほどまでとは――」
「でもさ、でもさ! これすぐ取れるくない?」
二人を後ろから抜いたチィコが指を差して言う。
その差したものは――レジ前にある飴やガムなどが陳列された棚だ。
そんなチィコに、一番後ろで一行を見守っていたトールは近づき優しい声色で声を掛けた。
「ええか? チィコ取れるけど、取らへん。これが日本のいいところや」
治安がいいからこそ、成り立つ文化。
しかし、冒険の日々に身を置いていた者からすると、わざわざ取りやすい場所に商品を置いている意味を理解出来ないのは仕方ない。
(自分で言いながらつくづく思うな……平和が一番やて)
どうやら先を歩いていたドンテツとカルファも同じようなことが気になっていたらしく、トールの言葉を聞いて、自らの意見を口にした。
「なるほど……性善説の元運営されているのですね。となると、かなりの教育が行き届いていないとありえないですよね」
「だの、まぁなんかあっても、ひーちゃんとか名乗っておった強き者をおるしの。あそこにいるか細い店員らしき者もとんでもない実力を持っているやも知れん」
(って、どうしても道逸れるな……まぁ、ヒロおじ見たあとに一般人見たら、そう考えるのは普通やろうけど――)
「いやいや、それはないからな。あの人は一般人や。魔法を使うこともできひんし、なんか体術とか凄いわけでもない」
「ガハハッ、流石にそれはないだろう。どれ試してみるか……」
「ちょい待ち!」
「大丈夫だ。魔法も使わんし、乱暴なこともせん」
ドンテツはそう言うと、レジに向かって歩いていく。
「お嬢さん、これをくれるかの」
その手には、レジ前のお得品コーナーにあった30%OFFのシールが貼られたあんぱんが握られていた。
(ああ、そういうことか……)
これは自らも工房を営んでいるからこそ視点。
ドンテツは、接客を見て判断しようと考えていたのだ。
「は、はい! あの袋はいりますか?」
「袋? 儂は袋なんぞ注文しておらんが……」
「あ、いえ! 手提げ袋と必要かなと思いまして」
「ほう……なるほど」
異世界ではない接客作法に目を丸くするドンテツ。
(ふふっ、あの様子。感動してるな)
「トールよ!」
「どうしたんや?」
「うむ、ここは立て替えてくれんか?」
「いや……なんでお金ないのに買おうとするん」
「仕方ないではないか、これが一番手っ取り早いんだ……だが、そうだな――」
トールからお金を受け取る前に、ドンテツは、ポケットからドラゴンの牙できた小ぶりのアクセサリーを店員へと渡した。
「お嬢さん、これを……」
「こ、困ります! こんな物を頂くわけにはいきません」
「大丈夫だ。大した金額の物でもないからな」
(ドンテツ! ただで物を渡すんは、この国の文化にはないて!)
「こら、そういう勝手なことはしたらあかん!」
「いや、しかしだな。このお嬢さんの接客が良かったのだ。その報酬として、何かを渡すのは儂の自由だろう?」
「気持ちはわからんでもないで? けど、ここ日本や。働いてる時に、お客から何か貰うのは無理なんや」
「ぬう……だめなのか? どうしてもか?」
カルファが市役所で見せたように、ドンテツもまた瞳を潤ませ跪く。
「はぁ……なんで、君まで上目使いするんや」
「いや、お主こうやれば話を聞いてくれるだろう?」
「そんなアホな……いつ誰がどうなってそんなやり取りしたん? さっきカルファとのやり取り見てたやろ? 僕はそんな情に訴えかけるような仕草に惑わされへんって」
「うむ、見ていた。だが、あれは空気の読めんカルファだったからな。今回は違う、儂にはわかる」
「わかるって何が?」
「ほれ、覚えておらんのか? チィコがトワルフの森でどうしても珍味を食べたいと言った時、その手前の村、王林の村でチィコがコップルの実を食べたいとゴネた時、あとは出店の干し肉を買ってやったり――」
トワルフの森、カルファの故郷で直径五十メートルの大樹が生える大森林である。王林の村は、この日本で言うところの林檎に似た果実を生業としている小さな村だ。
「あーはいはい。もうわかったから! なんでそういうんは覚えてんねん……」
トールは、自身が旅の中でおこなってきた子供だからという贔屓目を指摘されてバツの悪い表情をする。
内心、贔屓してしまっているという、その事実は理解していたからだ。
とはいえ、ここで認めてしまっては話がややこしくなってしまう。
特に理屈っぽく、勘違いしてしまうエルフ族のカルファが見ている時は。
(これ見て、変なこと覚えてしまったら、あかんしな……でもな――)
「よし、では渡しても大丈夫だの」
「そうやな……って、ならへんで! 今回のは守らなあかんルールやし、渡された方が損するんやから」
「そうですよ! 先程私が甘い声を出して跪いたのに、ここで「そうやな、お前の言う通りやな。ほな、あげるか」なーんて言ったら、男色確定ではないですか!」
「はぁ……なんで、君はそこから離れられへんの? あれ甘い声やなくて、幼い声って感じやけど」
「や、やはり……そ、そ、そうなのか?! 先程も言ったが儂は――」
「もうええから! そのくだり! 僕も女の子が好きやし! 普通に!」
トールが大声を上げたことで、店内が静まり返った。
チラチラと様子を伺っていた他の客もそそくさと外へ出ていく。
当然と言えば当然だろう。
見るからに成人し、身なりもしっかりとした男性が大声で女の子が好きなど、いくら多様性が受け入れられる世の中でも、なかなかお目にかかれるものではない。
「コホン、お嬢さんが損するなら、やめておこう。えーっとそうだ。支払い方法は……お嬢さん、どうしたらいい?」
一瞬、変な空気になりかけたところ、ドンテツは咳払いをしてその場を仕切り直す。そしてあんぱん片手に戸惑っている女性店員に教えを請った。




