第九章
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一人の男。
元老院お抱えの密偵部隊の一人。
1キロ先を見ることができ、音をも拾える魔法を使う。
勇者たちがまた首都に集まるという情報が気になり、独自に調査していた。
男は宿屋から少し離れた酒屋の屋根に伏せ、勇者たちを監視する。
窓から距離があり、ほとんど隠れていたので全ては聞き取れなかった。
それでも話の半分ほどは理解できた。
(あいつらは危険だ。世界を滅亡させる気か)
「あくまで仮定の話」
リオンが静かに口を開く。
「守護竜と魔竜が同一の存在だとする。そして魔竜は二千年間、世界を守ってきたとする」
「魔竜は私たちを殺せたのにそうしなかった......
」
セリーン。
「ああ、攻撃こそしたけれど、皆を回復させる魔力をアリアに授けて息絶えた」
リオン。
「伝承によれば、魔王を西へ追いやった存在でもある」
「魔物の発生も抑えていたのかも。あれ以来、各地で魔物が出ているって噂よ。事実、ガルドの国は襲撃を受けている」
セリーンが眉をひそめる。
「私の中の竜は世界を救うの?」
アリアが不安げに呟く。
(帰還に半年 それから2か月 8か月以上過ぎた)
リズが砂に文字を書く。
「人間の子ではない以上、いつ、どんな形で産まれるのか、わからない。」
リオン。
「まだお腹も出てきてないもんね。」
セリーン。
「私......怖い......」
アリアの声が震える。
「怖くてたまらない。なんで......なんで私が......」
涙が頬をつたう。
「アリア、僕たちは君の味方だ。君を守るよ」
「でもこのことは公にはできない。絶対に」
セリーン。
リズも頷く。
「ああ、世界は魔竜が諸悪の根源だと思っているし、僕たちもそう思っていた。もし世間に知られたら、君はただじゃ済まない」
「もし、もしさっきの仮定の話が、仮にだけど真実だとしたら」
リオンは詰まりながら話す。
「君が竜を誕生させなければ、魔竜の言っていたように、世界は滅亡......」
そこまで言ってリオンは息をのんだ。
"君は魔王にも狙われるかも知れない"
これは口には出来なかった。
(信じるに足る根拠はたくさんある)
リズの文字を皆が見つめる。
しばらくの沈黙。
「はっきり言うわね。私たちはリオンの仮定を信じて動きましょう。」
「もし、産まれてきた竜が、世界にとって悪だったら、もう一度命をかけて戦うのよ。そして、お腹の竜が世界の希望なら、私たちは命をかけてこの子を守る。」
セリーンの力強い言葉に皆の目が変わる。
セリーンが続ける。
「アリア、この後どうしたい?ここに居ては危ないわ」
「みんなありがとう......でもどうしていいのか、わからない......」
(私の里に隠す)
リズ。
「そうしよう。決まりだ。覚悟を決めよう」
リオン。
「その前に......お父さんとお母さんに会ってもいい?」
「もちろん!まだ時間はあるはずだ。一度帰るといいよ」
(長老を説得する)
リズが書き、程なくして解散することとなった。
その日の夕方。
元老院会議が開かれていた。
ヴァルディア貴族たちの代表たちで構成される20名が、小さな部屋に集まっている。
「一体どうなっている!」
「魔竜の討伐によって魔物はいなくなるのではなかったのか!」
「本当に討伐されたのか!」
「討伐隊がこの目でみたと報告している!」
「では何だと言うのだ!」
ある者は机を叩き、口から泡を吹いて言い争っている。
「議長!議長! オルディス殿!」
「静粛に!」
議長オルディスが一喝。
一同静まり返る。
「"耳"よ。報告を」
黒衣の男が前に出る。
「失礼いたします。我々"耳"の調べによりますと、現時点で世界各地、50ヶ所での魔物の出現が確認されております。すでに壊滅した村は10ヶ所に至り、特に南部、ベルクハイムは大量の魔物による襲撃が激しく、勇者ガルドが何とか前線を保持している状況です。」
「何だと!それではヴァルディアに現れるのも時間の問題では!」
「騎士団はどうした!一月以上も連絡がないと聞いておるぞ!」
「連れ戻せ!」
「"耳"よ!捜索に向かえるか!」
「失礼ながら、森は広範囲に渡り、捜索は困難を極めると思われます。加えて我々は対人間を専門としておりまして、魔物とは戦う術を持ちませぬ。」
「兵を招集せねば!」
「城の守りを固めるのだ!」
「外の村はどうする!皆を避難させる余裕はないぞ!」
「静粛に!」
オルディスが一喝する。
「騎士団については、一部隊を捜索にに派遣しようぞ。魔物については兵を招集し、明日より作戦会議、訓練を行う」
「昨夜西の空が白く光ったと街中で噂だ!本当か!」
"耳"が答える。
「はい。複数の"耳"が確認をしました」
「魔竜が復活したのではあるまいな!」
「魔竜は一匹ではなかったかも知れぬ!」
「いや!エルフの長からそのような報告はない!長年一体の魔力しか観察できておらぬ!」
オルディスが口を開く。
「異論はないか!」
「現在のところはここまでだ。街が騒ぎにならぬよう、皆心して当たってくれ」
議会は解散となった。
「オルディス様、内密にお話ししたいことが......」
"耳"が帰ろうとするオルディスを引き留める。
「何!?竜の子だと?確かか!」
「はい。確かでございます」
「そこに孫娘もいただと!」
「その通りでございます」
顎に蓄えた髭を撫でながら、しばらく考え込むオルディス。
「よいか、このことは決して漏らすな。他の"耳"にも悟られるな。知っているのは儂とお前だけだ」
「仰せのままに」
全ては話してはいない。禁書の件は省かせてもらった。
オルディス様は御歳86歳。
20以上年お仕えしてきた。
彼亡き後はセリーン様にお仕えする可能性がある。
「アリアは今どこにいる」
「バーク村に向かい、その後エルフの里に隠れます。 」
「やつの故郷か。内密に連れて参れ。手段は問わぬ。あの屋敷だ。良いか、耳"は使うな。目撃者を残すな。一人もだ」
「ゆけ」
「御意」
"耳"
表向きには元老院の組織だが奴は違う。
はじまりは召使の子だった。
一風変わった魔力特性をしていた。
「水が欲しい。」
と言った儂の呟きを、別棟の使用人部屋から聞きつけ、持ってきたのだ。
その子を引き取り、自分だけの"耳"にするべく、魔力操作を叩き込んだ。
汚れ仕事が奴の専門だ。
"耳"は私が作った組織であり、奴をそのまとめ役に据えた。
その働きで今の地位があると言っても過言ではない。
そうして貴族社会のトップに登り詰め、その地位を守ってきた。
その地位を、孫娘セリーンがさらに押し上げたというのに......
これが公になれば全てが崩壊する。そのような事態には決してさせぬ!
そして、新たな魔竜が誕生するとまた世界は終わりなき魔物との戦いに巻き込まれる。
「セリーンよ......お主は一体何を考えておるのだ......」
第十章に続く。
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