第6話
ビクッ。
目を開くレイシア。
すぐ左にあるとてつもない気配に腰の剣を探る。
ない。
やばい。
そうっと左に顔を向ける。
背中だ。
大きい。
寝ているのか。
全体を見ようと頭を引く。
腰布!ゴブリン!連れてこられたのか!
この大きさ、ゴブリンキングより巨大、オークほどはある。
―ゴブリンは人間の女を攫い孕ませる。
ゴブリン同士の交配よりも知能の高い個体が産まれる―
こいつが目を覚ませば私には勝ち目はないだろう。
テン......逃げ切れたかな。
そうであれば良いが......
剣を探さなければ。
ゆっくりと膝立ちになろうとする。
「んーーー」
ゴブリンが寝返りを打った。
硬直するレイシア。
「あ、おはようございます」
ゴブリンが喋った?目を丸くする。
「テ......テンか......?」
いや、こんなに大きくなかったぞ。
「はい、レイシアさん。目が覚めて良かったです」
驚くとともに安堵する。
「お前が守ってくれたのか......」
状況を確認する。
目の前にはゴブリンの死体が広がる。
よく見ると剣傷ではない。撲殺されている...
「もう、無我夢中で......」
天太はここに来た経緯を話した。
「そうか、私でもゴブリン10体が限界だ。よくやったぞ、テン」
いや、実際にこれだけの数を相手にするのは勇者でも難しいだろう。
しかも剣なしで......
「とにかくここを離れなければ。すぐに魔物に見つかる
」
死体の山は他の魔物に来てくれと言っているようなものだ。
「そのアザ......」
レイシアが天太の左肩から首筋にかけて広がるアザを見つける。
痣持ちではなかったはずだ。
絶対に。
全裸で現れたこの男の痣を探したが見つからなかった。
「ん?」
天太が左肩を覗く。
「ゴブリンにやられたんですかね。あ、そういえば左腕も治ってる......」
痣を知らない?
そんな馬鹿な。
この男はどこから来たのだ......
それにその痣、私のより遥かに大きい......
いや、今考えるのはやめだ。
敵ではないようだし。
「ここから離れるぞ」
ーーーしばらく森を進むと川に出た。
「少し休もう」
息を切らすレイシア。
五日間、飲まず食わずだ。
昨日はまともに眠れたが、もう身体はボロボロだった。
何か食べなければ......
手で水をすくい、口に運ぶ。
テンは小枝を集め何かしている。
天太が頭に被せてくれていたゴブリンの布で、身体を拭っていると、テン、今度は川に入った。
しばらくすると魚を三匹獲って帰ってきた。
天太、レイシアの左足、内腿に痣があるのを見てしまい、目を逸らす。
「食べましょう!」
火を起こして魚を焼く。
「昔、村でよく獲ったんですよ。」
「何という村だ?」
「天王村と言います。俺の名前はそこから付けられました。」
テンノー村。
騎士団を率いて各地を回ったが、そんな名前の村は知らない。
少なくともヴァルディアにはない。
「どうやってここまで来たんだ?」
「いや、言っても信じてもらえないと思うんですが......」
「なんだ?」
「幼馴染の優太と一緒にダンジョンに潜っていたんですけど、そしたら突然身体が光出して......気づいたらここに......」
ユータとダンジョン?
ダンジョンとは何だ......
「あいつがどこに行ったのか心配で......」
オークと対峙した時と重なる。
あの時の光......
ふと川の向こう岸を見るとゴブリンがこっちを見ている。
今にも仲間を呼ばんとしているではないか!
「おい!」レイシアが声を出す。
天太、咄嗟に砂利を掴み立ち上がると同時に投げ放つ。
バババッ!
ゴブリンに無数の穴が空き崩れ落ちた。
なんてやつだ!レイシアは言葉を失う。
と同時に天太の腰布が落ちた。
「うわっ」
慌てて手で隠す。
「す、すみません!」
「ななな、長居していられないな」
と目を背けた。
男の裸を見るのは昨日と今日で2回目だ。
親のも兄弟のも見たことがない......
「ここの位置が全くわからないが、とにかく移動しよう」
幾分元気を取り戻したレイシアはもう使い物にならなくなった甲冑を脱ぎ捨てる。
痩せ細った身体、それに肌着姿。
またもや目を逸らす天太。
レイシアはゴブリンの布を腰紐にし、剣を差す。
二人は火を消し、また森に入った。
第7話に続く。
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