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『竜の子』 〜冒険者に憧れるおっさん全裸で異世界に転移する〜  作者: スメコ


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第5話

 


 俺は天太。


 34歳。


 みんなからはテンと呼ばれている。


 仕事はダンジョン採掘人。


 冒険者の後につき、魔物がドロップした魔石や鉱物を採掘して持ち帰る仕事だ。


 冒険者になりたかった。


 幼い頃からの夢だったが、俺には才能がなかった。


 ここ東京に冒険者登録試験を受けに村を飛び出したのは16歳のころ。

 だが結果は散々。

 最終試験にたどり着けたのは18年間で三回だけだ。


 そんなこんなで今はこの仕事をして10年以上になる。

 ベテラン採掘人だ。


 今日はB級冒険者パーティーと共にダンジョンの5層目に来ている。


「おいテン」


「なんだ?」

 仕事仲間の優太が話しかける。


 優太は幼なじみだ。

 冒険者を目指して一緒に東京に来た。


「俺たちもういい歳だぜ。いつまでこの仕事を続けるんだ?」


「考えてねぇ」

 そう言ってツルハシを振り下ろす天太。


「お前は体力バカだからな。脳みそまで筋肉だ。そういうの脳筋って言うんだぜ。知ってるか?」


「知らねーよ」


「俺はもうさ、限界感じるんだよ。疲れが取れねぇ。村へ帰って畑継ごうと思う。嫁さん貰ってさ。 」


「いいんじゃねぇか。俺はもう親もいねーし帰ったところでなぁ。」


 採掘人の仕事はきつい。

 背に籠をさげ、積めるだけ積んで帰る。

 浅い階層なら一日に何度も往復する。


 それに冒険者が討ち漏らした魔物が出たり、トラップが残っていたりと危険が付き纏う。


 しかも給料は運んだ物の質と量に左右される。

 出来高制だ。


 魔物に襲われ籠を捨てて逃げ帰ったりすると赤字になる。

 冒険者崩れや荒くれ者も多く、トラブルだらけだ。


「俺も嫁さんは欲しいな......」

 天太が呟く。


「この仕事してちゃあ一生無理だぜ」


(冒険者になりたかったな...あっという間にこんな歳になっちまったか......)


 冒険者試験を受けに行っても若造から馬鹿にされることが増えた。


「他にやりたいこともねぇーしよっ!」

 とツルハシを振り上げる。


 ーーーーーー



「おいテン!なんかお前光って...」




「は? えっ、ちょっ、まっ!まぶしっっっ」




「え」



 も、森?え、どこ?



「え」


 頭を左に向ける。


 金色の髪の長い女性がいる。


 手には剣。



「ゆ、ゆうた、ユータァァァ!」



(まずい!錯乱している)

 金髪の女性が飛びかかってきた。


「ひえっ」

 情けない声を出す。


 押し倒された.......


 "声をあげるな!"

 耳元で囁く。


 "補給部隊か?他の者はどうした"


「へ?補給?」


 "なぜ裸なのだ"



「ーーーえ...えぇー!」

 天太は自分の身体を見て驚いた。



 なんで!?なんで!?


 "武器はないのか"


 レイシアが囁くが、まだ錯乱しているようだ。


 まずい、辺りの魔物が視力を回復しつつある。



 "じっとしていろ"


 レイシアはすでに息絶えている副団長に駆け寄り、落ちている剣を手に取る。


「すまん、借りるぞ。」


 すぐに天太の元に戻り、剣を手に握らせる。


 "私はレイシア、名はなんと言う"


 俺はダンジョンにいたはずだ。

 ここはどこだ。

 この人は冒険者パーティーの人か?


 レイシア?


 いや、知らない。


 何かが起こったんだ。

 魔物の鳴き声がする。

 やばいのは確かだ。


 いや、裸なのが一番やばい。


 "て...テンタ"

 ようやく囁き声になる天太。


 "テンタか、テンと呼ぶぞ。魔物に囲まれている。戦え。諦めるな"


 そう言ってゆっくり天太から離れる。


(え、戦うの?) 天太は剣を見る。

 剣は血で汚れ、刃こぼれだらけ、ボロボロだ。


 レイシア、テンタを見る。

 顔は汚れてるが、首から下は綺麗だ。

 怪我も見られない。

 それによく鍛えられている。


 走れそうだ。


 "テン、走れるか?"


 一匹のオークがこちらへ近づいて来ている。

 まだ見つかってはいない。

 他の魔物もまだ混乱している今だ。

 一帯を抜ける。


 "は、はい..."


 "合図であちらに走るぞ。魔物の間を抜ける。振り返るな。全力だ"


 指をさす。


 "いくぞ!"

 伏せた状態から走り出すレイシア。


(んんんんん!!わからん!裸こわい!)

 続いてとにかく走り出す天太。


 オークの間を抜ける。


(ひぇーーーっ)

 目の前にもいる。


 レイシアが左にかわす。

 天太も続く。


「ヴオォォォォ!」

 怒りを露わにするオーク。


 無我夢中で走る。


 何日も戦っていたレイシアに比べ、採掘していただけの天太。

 体力は有り余っている。


 すでにレイシアを追い抜かしている。


(あれ、レイシアさん)

 急停止、振り返るが、いない。

 困る。


 いた!倒れている。

 戻るしかない。


 レイシアの元に駆け寄る。

 オークがすぐそばまで迫る。


「私に構うな。生き延びろ。」


「それは困ります!」


 天太は剣を捨て、レイシアを担ぐ。

 甲冑を着ているが思ったより重くない。

 いや、軽い。軽すぎる。


 立ち上がり走り出そうとする。

 オークが斧を振りかぶっていた。


「ん"ん"っ」


 痛みが走る。

 背中をやられた。


 振り返らない。

 走るんだ。


 どれだけ走っただろうか。

 少し開けた場所に来た。


 明るい。朝になっている。


 ズキッ。身体に痛みが走る。


 ズキッ、ズキッ。


「あ"ぁっ」

 激しい痛みで転ぶ。


 レイシアが投げ出される。


「い......痛い......」


 斧でやられた傷の痛みではない。

 全身が痛む。

 頭から爪先まで......


「な、何だってんだ......」


 しばらく倒れ込んでいた。


「ごめんなさい......」

 気を失っているレイシアに駆け寄る。


 ようやく痛みが引き、彼女を抱き上げ木の下に寝かせた。


「あれ......」


 力が湧いてきた。

 背中の痛みも気にならない。

 よし、まだ走れる。


 そう思った矢先、ガサガサと音がした。


 音のする方に顔を向けるとゴブリンが背中を向け立っていた。


(ゴブリンだ......一体ここはどこなんだ。ダンジョンのトラップでどこかに飛ばされたのか。あそこに転送陣はなかったはずだ)


 戦闘の訓練は受けてきたが、実戦経験はない。

 ずっと鍛錬してきた。ゴブリンは模擬ダンジョンで戦ったことがあるが、弱らせた個体だ......


 あいつになら勝てるか......!?

 でも、ゴブリンは群れる。

 見つかると厄介だ。逃げよう......と向き直る。



 目の前にもう一体いた。


「うわっ!」

 思わず尻もちをつく。


 棍棒を振りおろすゴブリン。

 咄嗟に左腕が出た。


「ゴキッ。」


 頭をかばった左腕が折れた。


「うあ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"」


 訓練ではない。

 実戦なのだ。

 殺される。

 恐怖におののく。

 逃げなきゃ、逃げなきゃ!


 踵を返し駆け出そうとする。

 足に力が入らない。


 そうだ、攻撃する、攻撃するんだ。

 震える右手が落ちている木の棒を掴んだ。


 ゴブリンが棍棒を振り上げる。


「うああああ!」


 木の棒を振る。


 かすっただけだ。


 ゴブリン、一瞬ひるむ。

 が、相手が弱いと察し、ニヤけた顔で棍棒を振り下ろす。


「ぐぅっ。」


 ドンッ。

 棍棒が地面を打つ。

 間一髪右に転がり免れた。


「ゲェー!」


 ゴブリンが怒りの表情でさらに棍棒を振る。

 横に薙いだ棍棒が宙を斬る。


「くるなー!」

 目をつむり木の棒をゴブリンへ突き出した。

「グァェ」


 ゴブリンの喉に突き刺さっていた。


 ドッと膝をつくゴブリン。


「メキメキ、メキ」


「うあぁ!」


 さっきの痛みだ。

 全身を貫く。

 必死の形相でレイシアを見る。


 無事だ。


 さっきのやつ!血走った目で探す。

 いる!こっちに走ってくる。


「ゔゔゔ」


 激痛に耐えながら立ち上がる。


 木の棒を右手で頭上に構える。

 ふと激痛が消えた。


(まだだ。もっと近くまで!)


 向かいくるゴブリン。

 手には短剣。


 「おらぁ!」


 振り下ろす棒はゴブリンの頭を割った。


 顔を上げる。

 見渡す限り、


 ゴブリン。

 ゴブリン。

 ゴブリン。


 ダンジョンブレイク。

 頭に浮かんだ。

 放置されていたり、未知のダンジョンから魔物が溢れ出す現象だ。

 天太が幼い頃、村が大損害を受けた。

 それがきっかけで冒険者を志した。


(その時より多い気がする...)


 囲まれている。

 もう戦うしかない。

 しかも右手一本で。


 死ぬかも!嫁さん欲しかった!


「うおぉぉぉぉ!かかってきやがれー!」


 棒を振り回す天太。


 当たりさえすれば倒すことができた。


 と、5体目を棒で殴り殺したところで激痛。


「ゔゔゔっ。」


 耐えろ。耐えなきゃ死ぬ。


 6体目で棒が折れた。


 落ちているゴブリンの棍棒を拾う。


「7!8!」

 数を数える天太。


 正気を保とうとしているのか。


「9!」

「ゔゔっ!」


 また痛みが襲う。


 10、と数えると同時に身体になにか当たった。


 矢だ。


 刺さっていない。


 11、12、13......


 いつしか両手に棍棒を持ち、暴れ回る。

 目は充血し、吊り上がり、鬼の形相。


 時折り襲ってくる痛みに耐えながら......



―――


肩にポツポツと何かが当たる......


 あ、雨だ。


 あれ、俺......何してたんだっけ......




 あ、そうだ。

 ゴブリンと戦って!


 ギョッとし、辺りを見回す。


 そこら中に、夥しい数のゴブリンの死体。

 


 ――これ、俺がやったの?


 全裸で?


 途中からの記憶がない......


「いでででででっ」


 まただ、メキメキと身体中から音がなってくる。


「あ、レ、レイシアさん!」


 痛む身体を無理やり動かし、寝かせた場所へ向かう。


「良かった...無事だ......」


 彼女は寝息を立て眠っている。


 目は窪んで痩せ細っている。


 威厳のある、説得力のある声だった。きっと偉い人だろう......


 天太はゴブリンの腰布を一枚拾い、自分の腰に巻く。


 ちょっと長さが足りない。

 大きく動くと脱げそうだ。


 そうだ、と綺麗目の布を探し、レイシアの頭に被せた。


 次第に雨は激しくなり、真っ赤な血で染まる身体を洗い流しす。


 そして二人の気配を消した。


挿絵(By みてみん)




 第6話に続く。

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