第42話
遠吠え。
長く、長く......
王都に、世界に、響き渡る。
人々は恐怖より、神聖な美を感じた。
――静寂。
誰も動かない。
敵意を感じない。
ただ、美しい。
うっとりと見上げる群衆の前に、トンと着地。
優雅で気高い足取り。
息を呑み、自然と道を開ける人々。
レイシアに向かって進む。
この世の終わりか......それとも、始まりか......
誰も動かない。
声も出さない。
やがてレイシアの目の前。
鼻先がレイシアの頬に。
「お前......そんなに大きかったか......?テンを追ってきたのだな......」
そっと鼻先に左手を当てる。
大きな頭を寄せ、そっとレイシアの肩を押した。
「そうか......生かすのか......私はとんでもない世界に足を踏み込んだな......」
人々はただ、じっとその光景を見ていた。
姿勢を低くしたかと思うと、レイシアがその背に乗った。
悠然と立ち上がる狼。
振り返る。
――ヴォン。
低く短い鳴き声。
城壁の上には何百というヴェアウルフの群れ。
レイシアを乗せた巨大で美しい狼は、大群を引き連れ戻っていく......
――
飛び込む寸前だった。
突然の警報に、クレイスが制止する。
「お待ちを!」
全裸で真っ黒の巨人と、誰にも気づかれずに崩れかかったヴァルディア城頂上にいた。
衛兵が首縄を持ち上げた。
今だ、と身体を縮ませ、飛ぼうとした瞬間。
「何だ!?」
「あ、あいつらは......」
クレイス。
「テン殿!ヴェアウルフです!計画変更です。レイシアさんを助けなければ」
「だ、大丈夫だと思う。様子を見ましょう!」
「大丈夫......?な、何を仰って......」
――
クレイスは驚愕した。
人生で初めて、思考が停止した。
「な......何がどうなって......」
生まれて初めて自分の目を疑った。
「あいつら......ずっと追いかけて来てたんだ......」
森で懐いた犬たち。
レイシアを乗せた犬が城を見上げた。
テンが西を指差す。
犬はそれを合図に踵を返し、西へ駆けて行った。
――
「何だ!」
走る勇者パーティー、急停止して剣を抜くリオン。
目の前からヴェアウルフの大群が戻ってくる。
バーク村に行く途中、物凄い速さで迫ってくるヴェアウルフが自分たちには目もくれず、通り過ぎた。
「王都か!王都が危ない!」
慌ててヴェアウルフを追う勇者パーティー。
速い!
馬では到底追いつけない。
やっと王都に戻った。
人がいない。
皆建物の中に避難しているのか。
被害はなさそうだ。
――城へ向かったのか。
と思った矢先。
今度は戻ってきた。
「みんな!」
リオンの声にセリーンが詠唱を開始、リズが弓を引く。
「あいつだ!」
恐らく先頭のあいつがリーダー、短期決戦しかない!
リオンが剣を先頭のヴェアウルフに向けた。
「先頭の!先頭の......!?レイシア!?」
――
あれはテンだった......
全裸はいつものことだが、なぜ真っ黒......
とにかく西を目指す。
この大群だし、バーク村を越えて森の中へ。
あぁ、私はこれからどうなるのか......
まぁ、またテンと旅をするのだろう。
あ、勇者達!
「リオン!セリーン!」
ヴェアウルフの頭から顔を出し、叫ぶ。
「西に抜けて森へ行く!」
そう言い残し、勇者パーティーを置き去りにした。
――
服、持ってくればよかった......
テンの呟きにクレイスが振り向き、丸くなったままの目で、その顔を見つめた。
第43話に続く。
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