第26話
『地獄』
この言葉以外に、この状況を表す言葉がない。
東門より王都に入ったリオン。
静かだ。
瓦礫の中を進むと、目の前に一体のレイバーン。
かつて "人だったもの" をついばみ、咀嚼する音だけが聞こえる。
腰を低く下げ、剣に右手をかける。
「ふうぅぅぅ......」
長く息を吐き出す......
―静止。
次の瞬間、飛ぶ。
剣を抜きざま、雷のような速さ。
目の前の黒鳥、
ゆっくりと、頭と胴がズレていく。
それを目にした後方の一体。
――トンッ と地面を蹴り、跳ねる。
のけぞらせた頭をリオンに振り下ろす。
鋭いクチバシを左手で掴み――
捻る。
ブチンッ
クチバシが顔から、ちぎれた。
バタバタと土煙を上げながらのたうちまわるレイバーン。
リオンはそれを一顧だにせず。
目線は崩れかけた酒場の屋根の上。
でかい奴がいる。
ガアァ!
ひと鳴き。
すると、荒れ果てた建物の影からゆっくりと顔を出す四体。
カチカチと爪を鳴らし、リオンを見下ろしながら囲んでいく。
左手に掴んだクチバシをパキパキと砕き、地面に落としていくリオン。
―再度。
剣を抱き抱えるように身体を捻る。
「すうぅぅぅぅ......」
息を吐き、目を閉じる。
後方の一体、距離を縮めようと右足を上げた。
バンッ
爆発音。
その鳥は両足を根元から失い、前に倒れ込む......
リオンの姿が倒れる鳥の頭に隠される。
爆発音。
右に飛ぶリオン、それに反応するレイバーン。
クチバシを振り下ろす。
リオン一瞬、呼吸をずらしクチバシをかわす。
スッ......
柔らかなものを切るように軽く剣を下ろす。
根元からクチバシが離れる。
バタバタと羽を地面に叩きつけ転がり、噴水のように血を撒き散らす二体。
「ふぅーっ!」
息を吸い込み、吐く。
「すうぅぅぅぅ......」
腰を落とす。
残りの二体が後退りする。
――楽に死ねると思うな。
顔を上げ、目で伝えるリオン。
上のレイバーンが首を傾げ、残り二体を見た。
ビクッと体を震わせ、跳ねる二体。
リオンの右側、二体同時に飛びかかる。
動かないリオン。
二体のクチバシがリオンの頭に届くその刹那、
ゴゥ
風の音。
横振り一閃、二体はクチバシを失った。
―「来い」
手招きするリオン。
上にいるレイバーンの目が深い紅に変わる。
ふわっ。
跳び、降りる。
音がしない。
軽い。
それに......でかい。
下の奴らよりも、ふた回りはある。
「強いな......」
リオン、息を吐きながら腰を沈める。
大型レイバーン、自身の足元、のたうち回る一体を掴んだ。
リオンに放り投げる。
クチバシがあった場所から血を噴きながら飛ばされる一体。
右に躱す。
いない。
速い。
後ろか!
振り向きざま剣を薙ぐ。
消えた。
上だ。
そのまま回転し、下から上へ払う。
ガキン
レイバーンの右足と剣がぶつかる。
重い。
切れない。
後ろに転がり、レイバーンの圧力をいなす。
再度、睨み合う。
息を吐き、腰を沈め......
―どこかで鳴いた。
ピクッと顔を上げるレイバーン。
地面を蹴ると同時に巨大な翼を振り上げ、打ち下ろす。
暴風、腕で顔を覆うリオン。
飛び去ったレイバーン。
「なんて奴だ……」
リオンは深く息を吐いた。
「危なかった……あんなのが、何体いるんだ?」
奴はどこに向かったのか。
そこに何があるのか。
行かなくては。
生き残った人々を助けながら、リオンはレイバーンを追った。
第27話に続く。
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