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冒険者に憧れるおっさん全裸で異世界に転移する。  作者: スメコ


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第二章

深夜、王都ヴァルディアは眠りにつき、明かりはチラホラとしか灯っていない。

用意されていた宿屋に着いた勇者一行はそれぞれの部屋へ案内された。


竜王山脈からの帰路は順調であった。

出てくる魔物といえば小物ばかりで、勇者たちの手を煩わせることなく、ほとんど補給部隊が対処していた。


わずか半年での帰還。


やっと話ができる。


5人はリオンの部屋へ集まる。

先ほど聞かされた、明日のヴァルディア王との謁見。

午前中に開かれ、そのあとは凱旋パレード。

夜には有力貴族を交えた祝勝会が催される。


帰路の道中は部隊の目があり、皆で集まって話すことは叶わなかった。

深夜に到着することは5人にとって朗報であった。


「さて、時間がない。話を合わせよう」

リオンが切り出す。

声に緊張感が滲む。


竜王討伐に沸くヴァルディア王国。

勇者たちの功績はすでに他国にも及び、世界中が英雄の帰還を今か今かと待ちわびていた。

王も貴族も大衆も、世界中の人々が彼らの英雄譚を待ち望んでいる。


しかしだ。


彼らは討伐していない。


まさか竜王が、自らなのか、寿命なのか、目の前で崩御したとは言えない。

ましてやアリアに子を授けたなどとは絶対にあってはならないことだ。


話に綻びがあってはならない。


「私は嘘をつけない」

リズが口を開く。


「そうよね......」セリーン。


「エルフは嘘をつけない、か......」リオン。


広く一般的に知られている事実。

常識。


エルフ族は嘘をつくと精霊の加護を失う。

リズは風の精霊と契約を交わしていた。

約束はひとつ。


嘘をつかない。


精霊はエルフの魔力が好物である。

契約したエルフの魔力を食べることと引き換えに、エルフに加護を与えるのだ。


しかし嘘をつくと魔力が穢れ、精霊は興味を失い去ってしまう。

加護を失ったエルフはもはや、エルフにあらず。

嘘つきというレッテルを貼られ、財産は没収。

さらには一族から除名される。


加護を持たないエルフに価値はなく、運良く容姿に優れていれば奴隷になれる。


元来、非力で身体も小さいエルフ。

加護を失えば、できることは少なく、仕事にも就けず、良くて奴隷、大抵は野垂れ死ぬ運命にあるのだ。


ただ、エルフ特有の言い回しはある。

嘘はつかないが真実を話さない技術だ。


しかし今回の"討伐"。

得意な言い回しも役に立たないほど事実が明白で重すぎる。


最大の懸念はまさにこれであった。


この事態の後始末は、リズに最も負担を強いるであろうことを皆は察していた。


答えは出ていた。


「リズ、本当にすまない......」

リオンが頭を下げる。


「あなたが謝らないで。事実は事実。変えようがない。それに私は命を救われた。本当ならあそこで死んでたわ」

アリアに顔を向けるリズ。


アリアは言葉が浮かばず、目に涙を溜めながらリズを見つめ黙り込んでいる。


「覚悟はできている。この方法しかないの。それに報奨金であと100年は遊んで暮らせるわ。これくらい我慢できる」

リズはセリーンに向き合った。



「さあ、お願い。」



涙が溢れ出るセリーン。

なぜ大切な仲間を傷つけなければならないのか。


帰路、ずっと考えていた。

打開策を。

何度頭で繰り返しても、この方法しか思い浮かばなかった。


自分を呪った。


「ほ、本当にそれしかねえのかよ!」

ガルドが声を殺し叫ぶ。


「大丈夫」

リズはガルドの手を取った。静かで落ち着いた声だった。


皆考えていることは同じだった。

嘘をつけない。

しかし話せなければ嘘をつくことができない......


リオンの "話を合わせよう"


それはリズを除いた4人の話だ。

リオンはリズのことをいつ切り出していいものか、検討もついていなかった。

とりあえず口に出た言葉が "話を合わそう" であった。それを察したリズが自ら解決に動いた。


「はやく済ませてしまいましょ」


リズが再度セリーンに身体を向ける。

顎を上にあげ首を露にする。

エルフ特有の透き通った白く滑らかな肌。

何本もつたう青い血管はあの日見たミスリルのようだ。


セリーンがそっと首に手のひらを当てる。


「準備はいい?」

小さな泣き声をアリアに向ける。


黙って弱々しく頷くアリア。


二度目だと思った。

竜王の提案に頷いたあの時から......


口は固く結んでいる。

開けば大声で泣いてしまいそうだから。


リオンとガルドは目を逸らした。

逃げる自分を恥ながら。

どうしても見ていられなかった。


「ごめんなさい......」

セリーンは重い重い罪を全身に纏いながら唱える。


「ファイア」

「ヒール」


間髪入れずアリアが口を開く。


繊細な作業が行われた。

治癒してしまっては意味がない。

ピンポイントで喉を焼きながら痛みを最大限抑える。


リオンとガルドがリズに向き直り、ガルドがリズの手を握る。


リズは上を向きながら、あまりの痛みの無さに驚き、今度は自分が皆を助けていることに少し喜びを感じていた。


長い時間だった......


皆疲労困憊した。

こんなに胸の痛む戦いは初めてであった。



「リズ...」


セリーンが呼ぶ。


「大丈夫よ」

リズはそう応えた。


しかし誰の耳にもそれは声として届かなかった。



ヴァルディア城内は朝から活気に溢れ、人々が忙しく働いている。

その表情は晴れやかで皆、体に羽が生えたように軽く、声は活気に溢れている。

こんなに希望に満ちた明るい朝がこれまでにあっただろうか。


王座から下に24段階段を降り、さらに3メートル離れた場所に勇者一行は横並び、跪いている。


「顔を上げよ。」


王の言葉に一斉に顔をあげる勇者たち。その表情には疲労が見られる。

顔色も良くない。


それはそうだなと、王は理解する。

何しろ竜王討伐の帰りだ。

帰還も昨夜遅くだと聞いている。


「此度はまことに大義であった」


「そなたたちの働きは国益のみならず、世界の...」


一通りの口上を述べる王の言葉は、あまり頭に入ってこない。

一行はまだ昨夜の"手術"を思い返している。


間違ってはいなかったか......正しかったのか......


「勇者一行の業績を讃え、ここに報奨の品を授与する。勇者リオン殿、前へ」


しかしリオンには両腕がない。


「失礼!勇者ガルド殿、前へ」


階段の手前、従者がガルドに目録を渡す。


王に向かい深く頭を下げるガルド。


「早く故郷に帰りたいであろう。すまんが今日一日、我らのため、国民のために尽くしてほしい。頼めるか」


先の威厳ある口上から打って変わり、王は優しくリオンに語りかける。


「ありがたき幸せ。私どもにはもったいないお言葉でございます。これからも王に、この国に尽くして参ります」


「なにか言いたいことはあるか。なんでも構わんぞ」


「王、失礼を承知で一つお願いがごさいます」


「なんなりと申せ」


「ここにおりますエルフの弓使いリズ。竜王に喉を焼かれ話すことが叶いません。どうぞお気を悪くされませんようにお願い申し上げます」


「なんと。リオン、お前だけでなく...そうであったか......」

「報奨金を上乗せせよと大臣に伝えろ」


「すまぬなリオン。大義であった。多くの犠牲を払って世界を救ったお前たちには心から感謝する。下がってよいぞ」


歓喜する民衆に囲まれ、パレードの馬車はゆっくりと城の周りを進む。

やれやれ、戦っている方が楽しいぜ早く酒を飲ませろ。

ガルドが悪態をつく。

慣れない手つきで手を振り作り笑顔のリズとアリアにセリーン。

リオンはマントを羽織り聖剣に似た剣を腰に差して先頭に立ち、笑顔を振り撒いている。



ーーー筋書きはこうだ。

必勝の陣形を取った勇者パーティー。

短期決戦に臨む。

セリーンの詠唱とともにリオンが駆け出し、リズが弓を構える。

竜王の先制の一撃をガルドが受ける。

ミスリルの盾は砕かれるが防ぎ切り、振り向きざまリオンの足を両手で受け、高く放り投げる。

竜王の足元に出現した魔法陣からは最強の炎魔法インフェルノ改が発動。

リズは弓を引き、その5本の矢は仰け反った竜王の周りを縦横無尽に疾る。

そこへリオンが竜王の遥か頭上から聖剣を叩きつける......

首を切り落とすことは叶わなかったが、その衝撃で竜王は絶命。

しかしリオンもその衝撃に耐えられず両腕を失う。

まさに竜王が断末魔の中崩れ落ちる最後の瞬間、リズに向かいファイアブレスを放つ竜王。

炎に焼かれるリズ。

アリアは両腕を失ったリオンを死から救い、リズの大火傷を治癒したが、声を失ってしまった。


貴族たちはこの話に興奮歓喜し、勇者一行を褒め称える。

豪華な祝賀会の場で勇者たちは祝いの品を山ほど受け取り、たくさんの愛想を振り撒いている。


勇者一行が解放されたのは夜遅くになってからだった。


翌朝、宿屋の一階にて勇者たちが朝食のため顔を合わせる。

宿屋は主人の好意により貸切になっていた、


「おはよ〜。よく眠れた?」

とセリーン。


「あぁ、ぐっすりだ」

ガルド。


アリア、

「あなたのイビキが私の部屋まで届いていたわ」


「まったくだ」

リオン。


ニコニコとリズが微笑む。


「勇者様どうぞ」と宿屋の一人娘がスープを掬ってリオンの口に運ぶ。

昨夜からつきっきりでリオンの世話をしてくれている。実は帰還初日に部屋に来て、世話を名乗り出てくれていたのだが、その日はリオンが断り、アリアが世話役を買って出ていた。


「ありがとう、イルマ。もう下がっていいよ」



「みんな帰るのかい?セリーンの家はここヴァルディアだったね」

リオン。


セリーンの実家は首都ヴァルディアに唯一屋敷を持つことを許された貴族、オルディス家。

その三姉妹の長女だ。

その権力は絶大で実質貴族社会のトップに君臨する。今回の功績はその地位をさらに押し上げ、政治にもさらに多大な影響力を及ぼすことになるだろう。


「俺はこの後発つ。早くベルクビールが飲みてぇ!」


ガルドの家は首都から馬車で二週間。

南に位置するベルクハイム国。

小国だが歴史があり、山岳地帯に囲まれている。

勇猛な国柄ゆえに今まで独立を保っている。

ヴァルディア国とは軍事同盟を築き、友好な関係が続く。


「アリアは?」

リオン。


「私も今日発とうと思う。早く両親に会いたいわ」


実はアリアの実家は帰還中に通り過ぎている。

ここから西へ馬車で一週間。

ヴァルディア領の西端で辺境の地のバーク村。

穀物の生産を糧に生きる村だ。

そこから西は森林地帯。

そこを抜け山々を越えると竜王の眠る山脈に辿り着く。

その先は未知の領域である。

竜王の存在が全ての生き物の往来を阻んできた。

しかしこれからは変わるであろう。

昨夜の祝賀会でも、早速、冒険者を派遣しては。と話に上がっていた。


「リオンは確か東の村ね」

セリーンがリオンを見る。


「ああ、馬車で三日あれば着くさ。走れば一日かからないけどね」


「大量の金貨を持って?」

セリーン。


「金貨はここの商会に預けようと思う。持って帰っても物騒だしね。アリアもそうするだろ?」


「そうね、流石に持って帰れないよね」

アリアが微笑む。


報奨品の8割を占める金貨は商会を通して支払われる。商会は首都に本拠地を構え、世界中に展開している。大抵は冒険者施設に併設されており、好きに財産の出し入れが可能だ。

もっとも、アリアの村のような辺境の地にはないが。


セリーンが続ける。


「一、二週間ほど帰るのを待ってくれない?屋敷の宝物庫にあなたの腕に使えそうなものがないか探してみたいの。一緒にあなたの魔力で動かせる腕を作りましょ!」


「それは嬉しいね!ありがとう、恩にきるよ」


「リズは?」

アリアが聞く。


リズは頷き目を閉じる。


卓上にある砂糖がサラサラと宙を舞い出した。


もう少しここにいるわ

調べたいものがあるし


テーブルに砂糖の文字が浮かぶ。


「そうだね。僕もだよ。」

とリオン。


「ああ。」

ガルド。


皆の心に引っかかっているあの言葉。


竜王の遺した言葉に。


皆は互いに目を合わせ頷く。


決して口には出来ないその言葉の意味を探る。

自分は何か誤解しているのではないか。

帰還中もずっと彼らを不安にさせてきたあの言葉。


アリアに子を授けた。

その意味するものとは.......


最初は漠然としたものであったが、今では強い違和感として皆の心に深く根ざしていた。


知らないことが多すぎる......


「次はいつ会えるだろうか......」

リオンの声は心配で満ちている。


勇者たちの一挙手一投足は注目の的。

公衆の面前ではおいそれと会話もままならない。


「決めましょう。半年後の4月18日、この場所で」

セリーンが言う。


皆が頷く。


「じゃあその時まで元気でな!」

ガルドが立ち上がり部屋に帰った......




そこは人間にとって未知の領域。

大陸を南北に分断する竜王山脈の西側。


「厄災のドラゴンの気配が消えて半年になる。」


「彼奴はよく気配を消す。突然現れては我らを殺すのだ。」


「しかしこんなに長く気配を消したことはない。」


「奴に何かあったか」


「王はご存知か」


「ビーストの繁殖が活発になってきている」


「数がどんどん増えているぞ」


「それは我らにとってよいことだ」


「王が仰るには彼奴の寝床の先には人間という種族がいるらしい」


「ああ、何やら大層美味いと仰っていた」


「それに我らの魔力を高め強くするとも」


「王は万の人間を喰らい今のお力があると」


「ぜひ喰らってみたいものだ!魔獣は食べ飽きた」


「万に一つ、あ奴が死んだとなれば......」


「調べに向かわせるか」


ーーーーー


アリアは馬車に揺られている。

王都を離れて三日目だ。


膨大な魔力量を持つアリア。

しかし肉体はごく一般的な女性であり、体力も然り。

遠征部隊にはいつも気を遣われていた。


遠征当初、馬車で行ける道はアリアの故郷バーク村まで。

その先の森林地帯からは当然徒歩になる。


両親と妹が見送りに来てくれたな〜。


懐かしさに胸が温かくなる。


森林地帯を抜ける頃にはガルドの背中がアリアの指定席になっていた。


ふと思い出す。


一族の使命......

名を捨てた......


人違いだろう。

でもそのおかげで皆助かった。




  ーーーーーー 我が子を宿せ ーーーーーー




竜王の声が聞こえた。

鳥肌が立つ。


あの時感じたへその奥の違和感。


目を閉じ集中する......



???



自分のものではない......


ごく微力、砂粒ほどの青い光のような......


全身に不安が襲った。


これが竜王の言ってた "子" なの?


二つ魔力が一人の人間に宿るなど聞いたこともない。


気のせいであってほしい、夢であってほしい......


お父さんお母さんなら何か知っているかしら......


そうだ、村の教会に行ってみよう......


神父さんなら何か知っているかも......




第三章に続く。


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