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冒険者に憧れるおっさん全裸で異世界に転移する。  作者: スメ子


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1/3

終わりの始まり

「我の子を宿せ」

「さすればお前はもとより仲間の生命も奪いはしない」


首都ヴァルディアから遥か遠く離れた辺境の地、魔竜山脈と名付けられた、世界の果てとも言われるこの地に勇者パーティーは派遣された。

険しい森を抜け、数十の山を超え、登り詰めた崖にぽっかりと開いた洞窟。5年がかりで辿り着いた魔竜の棲まうその洞窟に。


今まさに地に這いつくばり、両腕を失い僅かに意識を保っているのは、聖剣を与えられし勇者リオン。

吹き飛ばされ半身を壁に埋め込まれ意識を失っているのは、盾の勇者ガルド。

両眼から黒い血を流し、直立したまま失神している大魔法使いセリーン。

戦意を喪失し呆然と立ちすくむエルフの弓使いリズ。

そして竜王に語りかけられているのは、仲間の返り血を浴びへたり込んでいるヒーラー、アリア。


5人からなるこの勇者パーティーは、この5年間、世界の悲願である魔竜討伐に挑むために遠征部隊を従え、幾多の試練を乗り越え、補給と魔物討伐の補助である部隊を崖下に残し、今まさに魔竜と対峙していた。

いける。と思っていた。倒した魔物は数知れず。どんな危機をもねじ伏せてきた。何度も死線をくぐった。死を覚悟したこともあった。極めた連携、固く結ばれた絆。パーティーのみならず、部隊全体の練度も極みに達していた。おそらく世界最強であろうこのパーティー...


最前列は盾の勇者ガルド、その体躯は岩のごとく、人々にはまるで壁が動いているかのように見える。自身をすっぽりと覆える巨大なミスリル製の盾は、屈強な男性であっても持ち上げることさえできぬ重量であり、また希少なミスリル鉱石を傷つけることは難しく、一度も破られたことはない。物理攻撃はもちろん、魔法攻撃さえも弾き返す。

その後方、盾の勇者に隠れるように勇者リオンが聖剣を構える。決して大きくはないが、均整のとれたその身体つき、無駄の見当たらない佇まいからは一切の隙を感じさせない。勇者だけが持つことを許されるその聖剣は、輝きを放ち、刃こぼれ一つ見当たらない。数多の敵を切り裂き、葬ってきた。幼い頃から剣術に没頭し、他の全てを犠牲にし生きてきた若き青年は、剣に力を込め全神経を集中する。魔竜の首を落とすことだけを目標に、これまでを費やしてきた。

さらにその後方には大魔法使いセリーン。その両翼、魔竜に向かって右側に距離をとってかまえるエルフの弓使いリズ。左側にヒーラーのアリア。

大魔法使いセリーンは最大火力の魔法攻撃のための詠唱をほとんど終えている。あと一言、唱えれば発動できる。セリーンは一人で一国を相手に戦争出来るほどの大魔法使いである。対魔竜戦を念頭に置き、練りに練り上げた火炎魔法、インフェルノ改。これは本来範囲魔法であり、広大な範囲を焼き尽くす火炎魔法の極地であるが、範囲を大幅に狭めることにより、より高温での爆炎を任意の場所に発動させることが可能になった。

セリーンの右側、エルフの弓使いリズが5本の矢を同時に引いている。エルフ特有の風魔法を纏った個別追尾可能な矢。5本がそれぞれ別の標的をリズの意思を持って追尾できる。矢尻は希少なミスリル製で麻痺効果のある毒が塗られている。この矢から逃れることは至難の業だ。同時に引いている5本の矢のうち4本は目眩し。1本が本命である魔竜の眼球を狙う算段だ。エルフ族の中でも突出した弓の技術を持つ彼女もまた、幼い頃から魔竜討伐を期待されてきた天才であった。

魔竜に向かって左側、ヒーラー、アリア。回復術師とも呼ばれる彼女は、戦闘における生命線である。彼女の膨大な魔力量は勇者リオンや大魔法使いセリーンをも超える。多くの魔力を必要とされる治癒系魔法を休みなく何度も使え、また近くにいれば5〜6人まとめて治癒できる。まさに規格外、世界でも彼女だけ。

総勢200名で出発した討伐部隊が5年の間、その数をほとんど減らさなかったのはひとえに彼女の功績である。

何度でも立ち上がって戦える。アリアの能力はパーティーのみならず部隊全体の恐怖感を取り除き、万能感をもたらしたほどであった。


崖を登っている時から感じていた魔竜の気配。ひしひしと伝わってくるその存在感は圧倒的であり、今までのどんな危機的状況よりも絶望を感じさせた。短期決戦。勇者パーティー5人はそれぞれ、語らずとも目を合わせ、作戦を理解した。ここに来るまでの強敵、それも大きな一体に相対しせる時に生み出した必勝の戦法。会敵の段階からすぐにセリーンはリオンの後方で詠唱開始、相手の攻撃に備えガルドがリオンの前、最前列に盾を構える。セリーンの斜め後ろにそれぞれリズとアリア。リズは弓を引き攻撃準備。アリアは不測の事態に備え待機。戦闘開始はセリーンの攻撃魔法から。敵の足元に魔法陣が現れ、何らかの魔法が発動、それを合図にリオンはガルドに向かって走る。反転するガルド、リオンが盾を足場に、敵の頭上に飛ぶ。ガルドの力加減でかなりの高さまで飛ぶことができる。魔竜の頭上までにも。魔法攻撃が終わるか終わらないうちに聖剣を振り下ろすリオン。そのリオンに気づかせない、または対応を遅らせるように既にリズが矢を放っている。マークした目標に向かって最大5本の矢がそれぞれ、さまざまな軌道で疾る。もし相手に先制された場合でも、ガルドが最初の攻撃を防ぎ、あとは同じ動作を行う。この間わずか数秒。敵は何が起こったのか理解する間もなく倒される。幾度か失敗を繰り返し、今では阿吽の呼吸で連携できるようになっていた。

これで勝てる。確信している。


それでも各自、不安と緊張を交えながら崖を登る。崖を上り切ってすぐに洞窟の入り口を見た。見上げた高さは20メートルはあるであろう。魔竜の背丈を想像する。幅、20名は横並びで入れるであろう丸く削り取られたような入り口。その断面はおそろしく滑らかで艶やかである。一行は息を呑んだ。長い年月をかけ、何度も何度も固いものが出入りし、荒く削られていたであろう壁面が一切の凹凸をなくしていることに。その透明な輝きに。

「おいおい、これ、ミスリルじゃねぇか!?」ガルドが口を開く。「こんだけありゃあ一生遊んで暮らしても使いきれねぇんじゃ...」口が開いたままのガルド。

「なんてことだ...」リオンが呟いた。「さ、先へ進もう...」

「そうね...」セリーンが洞窟に入ろうとする。

「まて」俺が行くとは言葉にはせず、ガルドが前に出る。その後にリオン。セリーンが入り、横並びでリズとアリア。

一行は自然と戦闘の陣形を取り、中へと進む。

崖を登っている時に感じた気配がしない。おかしい。

どれくらい進んだのか。10分も経っていないかも知れないし、1時間歩いた気もする。あまりの静寂に違和感を覚える。

真ん中を歩くセリーンの薄暗い洞窟を照らす炎魔法が磨かれたミスリルの壁に反射し、キラキラと一行の周囲を明るく照らしている。

突如目の前がひらけた。

半円のドーム型、部屋というには大き過ぎる。

「広いー!ここなら心置きなく戦えるね。」とリズ。

「戦う?」ヒーラーのアリア。

一行はまるで戦うことを忘れていたかのようにお互い目を合わせ驚きの顔。口を開いたリズはハッとした表情を浮かべ、思わず口に手をやる。

そうだ戦いに来たのだ。私たちは。この幻想的な雰囲気のミスリルの洞窟に酔わされていたのか。


突如、

「...炎の根源、深淵の業火よ我が命を代価とし、その姿を...」


無意識だった。まだ魔竜の気配も姿もない。それに詠唱が違う。


"我が命を対価とし"


この言葉にパーティーは戦慄。

アドレナリンが吹き出し、身体が燃えるように熱をもつ。戦闘突入。

セリーンはなぜ詠唱を変えたのか、彼女自身は自覚していない。幻想的な洞窟が突如牙を剥いたかのように感じ、この5年間の戦いの中で得た戦闘本能がそうさせたのか。


皆同じ場所を凝視していた。否、させられて、いた。


"部屋"の奥に、何か、ある。

黒いかたまり?

「ヒール!」

なぜかアリアは怪我もない万全のパーティーに両手を突き出し叫ぶ。


それはゆっくりと近づいていた。

確かに、全員の目にはゆっくりと動いているように見えていた。

が、実際は違った。

身構えたガルドの全身に鳥肌が立とうとしていた刹那。

彼は壁の中にいる。正確には壁に埋もれている。ミスリルの破片であろうものが無数に宙に浮かび、光を反射してキラキラと瞬いているが、その眼には映っていない。

時を同じくしてリオンは幼少期を思い出している。優しい母、父。気の弱い妹。修行で疲れた身体を優しく労わってくれる理解ある家族...

ガルドを弾き飛ばした竜王の尾は、そのままリオンの両腕を聖剣ごともぎり取った。

続いて爆発音が数度鳴った気がする。遅れてやってきた音。そして爆風。

衝撃波はセリーンの詠唱を完成させない。

行き場を失った魔法はセリーンの身体を内側からぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

眼、鼻、口から血がドロっと溢れ出る。

ドサッ。リオンが前のめりに倒れる。

リズの手に弓矢はない。

アリアのヒールが、かろうじて皆の生命を繋ぎ止めている。あとコンマ数秒でも遅ければ、ガルド、セリーンは即死だった。


息ができない。

思考が止まったままだ。

現実をまだ受け入れられない。

夢を見ているのか


ミスリルの破片が舞う幻想的な中、静寂を破ったのは魔竜。


「待ち侘びたぞ。」


確かに言葉を発した。数百年生きた竜は人の言葉を話すと聞いたことがある。低くも高くもない声のトーンは強くなく、怒りや嘲りもない。どこか優しい温もりさえある。そしてその言葉の先にはアリアがいた。


魔竜と目が合う。


話しかけられた?


アリアは混乱しつつも目を見開き、かけ続けているヒールに最大魔力を注ぎ込む。


ガルドがわずかに意識を取り戻す。

セリーンの聴力が少し回復する。

リオンが首をもたげ、魔竜に目を向ける。

リズは震えながら固まり、魔竜をから目を逸らすことができない。

魔竜の言葉は皆の耳に届いた。静かだが威厳ある声質は皆を引き込み、ガルドは一瞬、跪きたくなった。


「来るのが遅すぎたな...」

「いや、これも運命であるか...」


魔竜はまるで独り言のように話し続ける。


「この200年、我は呼び続けておったのだぞ。」


「やはり役目は途絶えておったか...」

「よい、もとより選択肢はない。」


魔竜の目が鋭くアリアを見据える。


「名を何と言う」


戸惑うアリア...


「もう一度だけ聞く。名は!」


「アリア...アリア フェルノア」

アリアは震える声で応える。魔竜は何を言っているのか。このまま皆ここで死ぬのか。崖下に待機する部隊はどうなるのか...

戸惑いを強くするアリア。


「名も捨てたか...」

「よかろう、細かいことは言わぬ。」

「皆の命を助けたくば我に従え。」


アリアは力無く頷く。


「我の子を宿せ。」


何を言っているのだ...

アリアは理解できない。


しかしもはや勝ち目はない。ここまでの力の差は誰にも予想できなかった。勝てると思っていた。誰の責任でもない。首をゆっくりと回し、皆を見る。リズ以外は瀕死の状態だ。そして何より、誰よりも強い絆で結ばれた戦友たちの死を、誰が望もうか。


「はいと言うだけでよい」


魔竜の言葉に押され、アリアは応える。


「はい...」


「運命はそなたを選んだ。誇るが良い。なんとしても子を産み、守り育てるのだ。天が味方すれば...滅亡は免れるであろう...」


「残りの魔力と共に、子をそなたに授ける...」


魔竜はそう言うと大きく息を吸い込む。

深く、長く、長く...


来る。

洞窟中の空気が魔竜に集まる。

後ろから吹く風に髪がなびく。

全身に血が巡る。


助けると言ったではないか。

恐れ慄き、嘆きにも似たか弱い悲鳴をあげるリズ。

守らなければ。アリアに出来ることは、自身の生命を削ってさらに魔力を増大させ、来たる攻撃の後、皆のダメージを瞬時に治癒することだけだ。

出来るのか...即死させられたら治癒は不可能...


呼吸の停止の瞬間、それは反転するだろう。

とてつもない量の息を吸い込んだのだ。その後の展開は誰にでも予想できる。


アリアの全身の血は沸騰寸前、広げた両手は細かく激しく、震え、眼から鼻から毛穴に至るまで、全身から熱い血が流れ出す。


反転。


それは、細く、長く、長く。

そよ風のようで、切れ目のない吐息。


拍子抜けをくらい、思考停止に陥ったアリアを優しく包み込みはじめる。

柔らかな感触。全く敵意を感じないどころか、どこか遠い昔の記憶が甦るような懐かしさを。まるで母に寝かしつけられているような...


全身の力が抜けていく...


ふと魔竜を見ると、顎を地につけ目を閉じている。

その姿に生気なく、よくよく見るとかなり老いている。その顔に刻まれた皺の深さが悠久の時を物語っている。


生命が尽きていた。


それからの記憶は曖昧だ。

ミスリルの粉がまだキラキラと宙を舞うなか、竜王の吐息に包まれ、失った魔力を取り戻したアリアは一晩中ヒールをかけ続けた。リズは眠っていた。


「アリア...アリア...」


リオンの声がする。

目を開けるとリオン、ガルド、セリーン、リズが覗き込んでいる。

魔力が切れ、失神していたのだ。


「あぁ、ごめんなさい」

そう言ってガルドの差し出した手を引き、上体を起こす。

朝の匂いがした。


皆の顔を見回す。良かった。皆生きている。

リオンは正座している。両腕はない。しかし表情は柔らかい。

ガルドは元気そうだ。見た感じでは全回復している。鎧は砕けたのであろう。下着姿だ。

セリーンは顔中血まみれだが笑顔だ。元気そうだ。

リズは少し悲しそうな目をして微笑んでいる。


ふと魔竜のいた場所を見る。

彼女はまだそこにいる——彼女、そうはっきりと感じた。魔竜は雌だった。


「みんな...」


アリアの言葉にガルドが被せる。

「生き残ったな!」

「アリア、君のおかげだ」リオンが続く。

セリーン、リズがうんうんと頷く。


「ちょっとごめんよ」

リオンはリズとセリーンに支えられ立ち上がる。

「ガルド、悪いが僕の剣を取ってきてくれないか。あそこに刺さっている。大切な宝物なんだ。」

「お安い御用だ」

弾き飛ばされた聖剣は柄の部分までミスリルの壁に突き刺さっていた。

丁度リオンの目の高さにある聖剣をガルドが見つけ、引き抜こうと試みる。だめだ。もう一度力を込める。だめだ。

「ガルド、ありがとう...それはもう僕のものではないようだね...」

役目を終えたんだ。

結局、僕は竜王に傷一つさえ付けられなかった...


事実、リオンは全く反応出来なかった訳ではない。視線は確実に魔竜の尾を捉えていた。しかし速すぎた。身体が追いつかなかったのだ。


立ち上がるのもやっとのアリアはガルドに背負われ、勇者パーティーは来た道を戻った。


討伐を知らせる狼煙に崖下は沸いた。

歓喜の雄叫びが崖の上まで聞こえる。


「俺たちは負けた。どういうわけか、全くわからないが...アリアのおかげで助かった。アリアの身に起きたことは...魔竜の言葉が本当かどうかは...今はわからない...皆秘密にしよう。一生の秘密だ。脅威は去った。さぁ、帰ろう。」皆の顔を見ながらリオンは言う。

ガルド「結果オーライ!帰ろうぜ!」

「長い旅が終わったのね。」セリーン。

「早くお風呂に入って柔らかいベッドで寝たい!」リズ。

「お腹が空いた〜!」とアリア。ふと、へその奥に違和感を感じたが気にならなかった。


帰りはそう長くはかからないだろう。数多の魔物を討伐しながら進んできたのだ。さらに魔竜が死んだことにより、魔物の数も減っていくはずだ。人類は打ち勝った。長きに渡り世界を苦しめてきた魔竜を討伐したのだ。これで平和が訪れる。この偉業は後世まで語り継がれるだろう。


崖上に上がってきた部隊はどうやっても切断できない竜王の首は諦め、勇者パーティーを安全に崖から降ろした。


真の平和が訪れる。

そのはずであった...




第二章へ続く

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