第19話
ヴァルディア王都から北の外れ、ノルディア区。
セリーンとリオンは駆けつけた屋敷に馬を繋いだ。
「もう昼前だわ。こんなに遠い場所なんて」
セリーン。
二人ともマントを羽織り、フードで顔を隠している。
古い屋敷だ。
しかし、人を寄せ付けない威厳を感じさせる。
(いかにも、お祖父様の趣味ね......)
"耳" が言うには、ここの三階に "部屋" がある。
少し進んだ門の左側に、乾いた血の手形。
アリア......ごめんなさい......
点々と続く血の跡。
庭に出ると、足を引きずった跡。
その線を辿り、屋敷の玄関手前に差し掛かる。
見つけた。
大量の乾いた血。
頭の形に窪んだ地面。
その底、まだ乾ききっていない血溜まり......
その窪みから繋がる二本の線は膝から下の跡......
その先、足の指の形に凹んだ土......
二人が顔を見合わす。
三階の窓が開いている。
「まさかあそこから......」
リオンが驚きの声を出す。
無意識に剣を握る手が、震えている。
充血し真っ赤な瞳のセリーン。
黙って頷く。
「時間がないわ。お祖父様が来るかもしれない」
「今、構っている時間はない......」
「行こうか」
屋敷の門から道に沿って、血の染みた足跡を辿る。
すぐに道を逸れ、右の草むら、方角で言えば北に入っていく。
「人目を避けて進んだようだね」
馬を取りに戻り、わずかに倒れた草を頼りに進む二人。
「君の言う "耳" がアリアを見つけたら連絡があるのかい?」
「ええ。私たちもエルフの里に向かって捜索するから、どこかで会えるはずだわ」
「ここからエルフの里、徒歩だと三週間はかかるね」
「どこかで馬を手に入れてたら、五日といった所かな......」
足下を観察しながら呟くリオン。
「たぶん、リズがいないと里に入れないと思うの」
セリーン。
リオンが応える。
「確かにそうだね。リズは里にいるはずだから......上手くいけばアリアを見つけてくれるかも......」
「アリアの失踪は知っているはずよ。リズも探してくれているはず」
少し考えるセリーン。
「それなら......私たちもエルフの里に急ぎましょう」
「里までに見つからなければ、引き返して探す。それでどうかな」
リオンの提案に、うん、と頷き、セリーンは手綱を引き駆け出す。
リオンもそれに続いた。
――――――
ひと足先に捜索に出た "耳" 、クレイス。
屋敷へは寄らずに、王都北側の街道を馬で駆ける。
衰弱した身体で徒歩。
必ずどこかで休息を取る。
逆の立場なら......人里から離れた、目立たぬ一軒家。
休憩を取りつつ、人目のない夜を待って扉を叩くだろう。
一縷の望みを持って......
もし匿われたらやっかいだ。
しばらく見つけることが難しくなる。
屋敷からエルフの里に向かって徒歩8時間圏内、と考えると、レント村、ドライク村、北東の外れにノール村。
ノール村は恐らくない。
山をひとつ越え、里を迂回するルートだ。
レント村には "耳" がいるな...
探ってみるか......
第20話に続く。




