幾億年の大河
先生と眼鏡委員がちょっとたどたどしいAIロボにそれぞれ説明を受け出し、
「あ、久我山さん頑張って下さいね。次の面談はバッチリ対応しますので」
「私、勉強する! 学校でも皆を啓蒙するからっ」
「ありがとう、よろしくお願いします」
久我山が愛想良く言って、俺達は職員の案内でロボ達の居る部屋を出た。
「ただの端末の方がコストは掛かりませんし見る方もわかり易いのですが、ロボット型にするとクレームが減るんですよ」
後ろで自動ドアが閉じると急に口調が冷ややかになる職員。コワっ。というか、俺も部外者だぞ??
「行こう、今日は『中間域』の『ヒガシザキコミューン』に入るんだね?」
「024口からです。『ジェリーノイズ』が少なかったので」
飛び交う専門用語! 解説も無し!
「俺はどういう立場何ッスかね?」
隣を歩く拳銃持ち病院スタッフに思わず聞いてみる。
「夜の峠のカンテラか、あるいはただの熊のヌイグルミか、てとこじゃないかな?」
こんな喋り方何だ、と思いつつわかったようなわからんような?
「・・男を見せろ、と?」
「連れ出して逃げろとは言ってないから安心していいよ。いつも通りでいてくれば、それで」
「いつも通り」
学校でそんな親しくしてないぞ?? 会話は丸聞こえだが、前を歩く久我山も観測所職員も知らん顔をしていた。
約10分後、俺と久我山は一段高い位置に窓のある部屋に2人で居た。
窓の向こう部屋に案内の人以外にも多数の職員と病院スタッフの人がいる。
俺達のいる部屋には奇妙な機械の柱が1本有り、その前にコードだらけのジェット機のシートみたいな椅子が2つ有った。
「ふぅ」
久我山はジェリーフィッシュ症の発現を抑制する腕輪を外し、清々した顔で浮き上がり何度か明滅してから腕輪を浮かせて遠隔で操り(!)近くの簡素な台に置いた。
「岡倉君、観測しに行こうか? 上位世界! ・・辞退もできるけど?」
また悪い顔してら。
「いいか、久我山。もし、いつかあんたが消えるとしても、『アイツに借りしかなかったな、反省』て思って消えとけよ?」
「恩着せ! 恩着せマンが現れたっ!」
「へっ」
ここまで保冷袋を持ってきてしまってるのを間抜けに感じつつ、俺は先に向かって左のシートに座った。固定ベルトがオートで出てきてみっちり固定される。うっはっ。
久我山は何とも言えない少し笑った顔で俺を見ていたが、すぐに俺に続いて右のシートに座り俺の右手を左手で握ってきた。
スキンシップじゃない、能力の行使だ。
俺と久我山の姿は透け、全ての区別が少し曖昧になりベルトで固定されたまま身体も少し浮く。だが透過はできないようだ。
「では、ヒガシザキコミューンへのゲートを開きます。ナビは内部で」
職員のアナウンスの直後、背後の柱が光り俺達の頭上に光の粒子が集まり、空間が歪み、裂け目が出来た。うおおっっ、
「ありがとう、きっと思いだすから」
久我山がそう言い、事さら強く浮き上がる感覚と共に、俺達は『俺達の身体を通り抜け』空間の裂け目に吸い込まれていった。
・・そこは光の渦、いや螺旋だった。上にも下にも続いてる。
俺達は元の服装のまま光の身体になって手を繋いでその空間に浮いていた。
「ここは中間域と呼ばれる次元の狭間。光の1つ1つが平行世界に通じてる。時の流れも全然違って、接触の仕方を間違えると何億年も彼方の違う世界に飛ばされて、還ってこれない」
「高校生の仕事じゃないな」
「だよね」
(座標を確認! 024口へ)
職員の人の声が直接頭に響いた。同時に螺旋の遥か上方の光の1つへ、空港のビーコンのような人工的な明かりが点いた。
「行こう。長くは居られないから」
「早く済まそうぜ? 夏休み、居酒屋でバイトすっからさ!」
俺達はビーコンを頼りに、光の螺旋の川を昇っていった。




