表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/10

繋がり9 世界が終わるわけでもないし

ライヴハウス リアルロスト


ネア「じゃあ――」


ネア「あと2時間で開場だから」


軽く手を叩く。


ネア「音合わせ、しようか」


ツナグ「……」


ヴェル「……」


カナデ「は~い♪」


ツナグ「(待て)」


ツナグ「(僕たち――)」


ツナグ「(2時間後には、本当にここでやるのか……?)」


ステージ。


照明。


音響機材。


その向こうには――


まだ誰も座っていない、50人分の観客席。


ツナグ「……」


ツナグ「(帰りたい)」


           ――ガチャ


「わり~ぃ、遅れた」


ツナグ「……誰?」


ネア「おそーい」


ネア「キーボードなしで

   演奏するところだったじゃない?」


「悪い悪い」


男はステージへ上がると、

ツナグたち三人を見る。


ラマ「その3人が」


ラマ「ネアの言ってた

   “面白い子たち”か」


ツナグ「……あ……あの」


ラマ「キーボードのラマだ」


ラマ「よろしくな?」


ツナグ「よ、よろしくお願いします……」


ヴェル「……どうも」


カナデ「よろしくお願いしま~す♪」


ツナグ「(なんでカナデだけ

     こんな普通なんだよ……)」


ネア「よし」


ネア「時間もないし、

   さっそく合わせるよ」


一歩、ツナグの前へ。


ネア「まず――少年」


ツナグ「はい」


ネア「ヴォーカルは君」


ツナグ「……え?」


ネア「私じゃないよ?」


ネア「君が歌うの」


ツナグ「……」


ネア「そんな顔しないの」


ネア「音に迷わない」


ネア「周りの音をちゃんと聴く」


ネア「それでも不安定になったら――」


           「私が歌う」


ツナグ「……」


ネア「私の声で、戻る場所を作るから」


ネア「そのときは

   私の歌声に乗ればいい」


ツナグ「……はい」


ネア「それでも最悪――」


ネア「少年が歌えなくなったら」


肩をすくめる。


ネア「私が代わりに最後まで歌うから」


ネア「安心して?」


ツナグ「……」


ツナグ「さすがにそれは」


ツナグ「情けないっていうか……」


ネア「ふふ」


ネア「じゃあ――」


ネア「歌い切ってね?」


ツナグ「……やりますよ」


           「……俺の場合は?」


ネア「ん?」


ヴェル「ツナグは」


ヴェル「最悪、あんたが

    フォローできるんだろ?」


ヴェル「じゃあ俺は?」


ヴェル「ギターでミスったら

    どうするんだよ」


ネア「……」


ネアは少しだけ考えて。


           「ぜってー音」


           「ハズすんじゃねえぞ」


           「ギター?」


ヴェル「……は?」


バラド「俺たちが騒音で

    ごまかしてやろうか?」


サトル「安心しろ」


サトル「客には

    勢いってことにしといてやる」


ヴェル「……」


ヴェル「ナメんじゃねえぞ」


サトル「いいねえ」


サトル「ガキの青いところがさ」


ヴェル「……誰がガキだ」


ネア「まあまあ」


ネア「ヴェルはさ」


ネア「どんな音でも鳴らしてよ」


ヴェル「……あ?」


ネア「昨日みたいに」


ネア「遠慮しないで」


ネア「出したい音、全部出していいよ」


ヴェル「……」


ネア「だって――」


少しだけ笑う。


ネア「私たち」


ネア「トップバンドグループ――」


           “レア・シーン”が


ネア「合わせるからさ?」


ツナグ「……」


プロ。


CDを出せば1位。


そんな人たちが――


僕たちに合わせると言っている。


ツナグ「……これが」


ツナグ「プロ……」


ネア「じゃ」


ネア「始めるよ?」


カナデ「は~い♪」


ヴェル「いつでもいい」


ツナグ「……」


ツナグ「(やるしかない)」


           音合わせが始まる


バラドのドラム。


サトルのベース。


ラマのキーボード。


ヴェルのギター。


そして――


カナデのヴァイオリン。


ツナグ「……っ」


音が多い。


今までとは、まるで違う。


ヴェル「……」


けれど――


カナデ「……♪」


一つの音が、

その中心を通り抜けていく。


ツナグ「(……カナデ)」


ヴァイオリンが、

ヴェルの荒いギターを殺さない。


ドラムの勢いも。


ベースの重さも。


キーボードの広がりも。


全部そのままに――


           繋いでいく


ツナグ「……」


だから僕も――


その中へ、声を置く。


ネア「……!」


ツナグ「(聞こえる)」


一つ一つ。


違う音。


違う人間。


なのに――


ツナグ「(……迷わない)」


声が乗る。


ヴェルのギターが重なる。


カナデの音が走る。


プロの三人が、

その変化を一瞬で拾う。


そして――


           音が揃った


ツナグ「……」


ヴェル「……」


曲が終わる。


静寂。


ツナグ「……ウソだろ」


ヴェル「……1回で」


ヴェル「音が合った……」


ラマ「……これなら大丈夫だな」


サトル「だな」


バラド「じゃ、出番まで休むか」


ツナグ「待って!?」


ツナグ「まだ1回しか

    やってないんですけど!?」


ネア「他のバンドも

   リハあるからね~」


ツナグ「1回で本番!?」


ネア「大丈夫、大丈夫♪」


ツナグ「何を根拠に!?」


ネア「……」


カナデを見る。


カナデ「?」


ネア「(……やっぱり)」


ネア「(少年だけじゃない)」


ネア「(ヴェルの音も)」


ネア「(ラマも、バラドも、サトルも)」


ネア「(誰の音も消してない)」


           全部を残したまま


           一つにしてる


ネア「(どういうことなの?)」


ネア「(……ヴァイオリニスト?)」


           開場


50人収容のライヴハウス――


リアルロスト。


その客席が――


           満員になった


ツナグ「……」


50人。


数字で見れば、

大したことないのかもしれない。


でも――


ツナグ「(……多いだろ)」


知らない人が50人。


僕たちの音を聴くために、

目の前にいる。


ステージでは、

別のバンドが演奏している。


歓声。


拍手。


照明。


ツナグ「……」


胃が痛い。


そして――


           いよいよ


           僕たちの出番


ステージ裏


ツナグ「……」


ネア「少年?」


ツナグ「……」


ネア「緊張してる?」


ツナグ「……しない方が」


ツナグ「おかしいですって……」


ネア「あはは」


ネア「そうだね~」


ネア「私も初めてのライヴのときは――」


ツナグ「……」


ネア「……」


           「しなかったわ~♪」


ツナグ「しなかったのかよ!!」


ネア「あははは♪」


ツナグ「今の間なんだったんですか!?」


ネア「いや~」


ネア「それっぽいかなって」


ツナグ「返せよ僕の共感!!」


ネア「だってさ~」


ふっと。


ネアの声が変わる。


ネア「失敗したって――」


           世界が


           終わるわけでもないし


ツナグ「……」


ネア「失敗したら」


ネア「やり直せばいいだけでしょ?」


ツナグ「……簡単に言うね」


ネア「そうしないと

   前には進めないから」


ツナグ「……」


ネア「バンドでも」


ネア「人生でもね」


ツナグ「……前へ、か」


思い出す。


「消えちゃえよ」


あの言葉を。


自分の名前が嫌いだったことを。


誰とも繋がれないと思っていたことを。


それなのに――


ツナグ「……」


横を見る。


カナデがいる。


ヴェルがいる。


ネアがいる。


ラマ。


バラド。


サトル。


ツナグ「(……いつの間に)」


ツナグ「(こんなに増えたんだよ)」


           「ジャストの皆さん」


           「出番です」


ツナグ「……っ」


ネア「よし」


ネアが手を差し出す。


ネア「円陣でも組むか」


ラマ「今さら?」


バラド「急に青春始めやがった」


サトル「高校生だろ、お前」


ネア「いいじゃん?」


ネア「今日はライヴ初めての子が

   3人もいるんだし」


カナデ「やろやろ~♪」


ヴェル「……まあ」


ツナグ「……」


7人が集まる。


肩が触れる。


声が近い。


ツナグ「(……なんだこれ)」


知らない人と近づくのは、

苦手だったはずなのに。


ツナグ「(……嫌じゃない)」


ネア「じゃあ――」


7人を見る。


ネア「気合い入れていこうか」


一拍。


ネア「さあ――」


           「始めるぞ!!」


ネア「ここからは――」


           「私たちの時間だ!!」


ツナグ

カナデ

ヴェル

ネア

ラマ

バラド

サトル「おおおおおおおおおおおおお!!」


ツナグ「……!」


ネア「そして――」


円陣が解ける。


ステージの向こうから、

観客の声が聞こえる。


ネアは笑った。


ネア「私たちの時間で――」


           世界を


           変えてやろうぜ?


ツナグ「……」


世界を、変える。


そんな大それたこと。


僕にできるわけがない。


――そう思っていた。


でも。


ツナグ「(……世界が終わるわけでもない、か)」


だったら――


一歩。


ステージへ向かう。


ツナグ「(一曲くらい)」


           「繋いでみるか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ