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繋がり10 スタートライン


           「さあ――始めるぞ!!」


           「ここからは――」


           「私たちの時間だ!!」


ステージ。


照明が、眩しい。


ツナグ「……」


一歩。


ステージへ出る。


さっきまで裏側から聞いていた歓声が――


今度は、真正面から押し寄せてくる。


ツナグ「……っ」


目の前には、


           50人のオーディエンス。


知らない顔。


知らない人。


知らない視線。


ツナグ「(……本当に)」


カナデが、

ヴァイオリンを構える。


ヴェルが、

ギターに手をかける。


バラド。


サトル。


ラマ。


ネア。


みんなが――


自分の音を鳴らす準備をしている。


ツナグ「(……歌うのか?)」


僕が。


ここで。


ツナグ「(カナデは――奏でる)」


ツナグ「(ヴェルは――鳴らす)」


そして僕は――


           歌う。


50人もの人間の前で。


ツナグ「……」


胸が、うるさい。


喉が、

少しだけ乾く。


だけど――


           「失敗したって」


           「世界が」


           「終わるわけでもないし」


ツナグ「……」


さっき聞いた言葉が、

頭の中に残っている。


ツナグ「(……そうだ)」


ツナグ「(失敗しても)」


ツナグ「(世界が終わるわけじゃない)」


だったら――


           「は~い♪」


           「みんな~」


           「楽しんでる~?」


ツナグ「……え?」


突然。


隣から、

いつも通りすぎる声が飛んだ。


「うおおおおおお!!」


一瞬で返ってくる歓声。


ツナグ「(……え?)」


ネア「今日は来てくれてありがと~♪」


ツナグ「(待って)」


ツナグ「(歌わないの?)」


ネアが、

ちらりとこちらを見る。


ネア「(いきなり歌わないの)」


ツナグ「(……え)」


ネア「(まずは軽~くトーク)」


ネア「(状況説明して)」


ネア「(オーディエンスは――)」


ちらり。


カナデ。


ヴェル。


そして、僕。


ネア「(少年たち3人を

    初めて見るんだよ?)」


ツナグ「(……あ)」


そうか。


僕たちからすれば、

今日は人生初のライヴ。


でも――


この人たちからすれば。


           僕たちは、誰なんだ?


ネア「今日はね~」


ネア「私が最近仲良くなった」


ネア「面白~い少年たちを

   連れてきちゃいました~♪」


ツナグ「(面白いって何だよ)」


ネア「紹介するね~」


手を向ける。


ネア「ヴォーカル――」


           「ツナグ!」


ツナグ「……っ」


拍手。


ネア「ヴァイオリン――」


           「カナデ!」


カナデ「よろしくお願いしま~す♪」


ネア「そしてギター――」


           「ヴェル!」


ヴェル「……どうも」


客席から声が飛ぶ。


「ネアさんと仲良くなれるとか

 めちゃくちゃ羨ましいじゃねえか!!」


「どこで知り合ったんだよー!」


ネア「ん~?」


ネア「秘密~♪」


「ずりぃぞー!!」


ツナグ「(……すご)」


ただ喋っているだけ。


それなのに――


           客席が、ネアを見ている。


いや。


見ているというより――


           一緒に遊んでいる。


ネア「でね?」


ネア「みんな今日は――」


ネア「ジャストの新曲とか」


ネア「ちょ~っと期待してたんだよね?」


「してたー!!」


「新曲聴かせろー!!」


ネア「うんうん」


大きく頷く。


ネア「でもね~」


一拍。


           「ネタ切れなの~!」


「……は?」


ツナグ「(言った!?)」


ネア「あははは♪」


ネア「というわけで~」


カナデたちを指差す。


ネア「今日はこの子たちの曲を」


ネア「私たちが勝手に

   演奏しちゃおうかな~って♪」


ツナグ「(そういうノリでいいのか!?)」


「さっすがネアさん!!」


「人の曲で勝負すんのかよ!」


「作った本人より

 上手く歌っちゃえー!!」


ツナグ「(……怒られないの?)」


少なくとも僕が同じことを言ったら――


           絶対に空気が死ぬ。


バラド「(ネアだからな)」


サトル「(何言っても

     妙に憎めねえんだよ)」


サトル「(客を巻き込むのも上手い)」


サトル「(音楽以前に――)」


           人の心を掴む。


サトル「(あいつには

     そういう天性のもんがある)」


ラマ「(そのせいでさ~)」


ラマ「(レア・シーンが売れてる理由が)」


ラマ「(音楽がいいから――だけじゃ

    なくなってるの)」


ラマ「(俺はちょっと

    不満なんだけどね~)」


ツナグ「……」


ネアを見る。


笑っている。


好き勝手に喋っている。


なのに――


誰も嫌そうな顔をしない。


むしろ。


           もっと聞きたそうにしている。


ツナグ「(……なんなんだ、この人)」


何をしても許される。


――いや。


違う。


           許したくなる。


そんな何かが、

ネアにはある。


ネア「まあ今日は~」


指を一本立てる。


ネア「この7人で――」


ネア「たった1回しか

   音合わせしてませ~ん♪」


「……え?」


ツナグ「(それ言うの!?)」


ネア「だから~」


ネア「その1回だけで

   どこまで出来るのか――」


ニヤッと笑う。


ネア「1回しか音合わせしてない

   完成度、聴きやがれ~~~!!」


歓声。


「マジかよ!!」


「まあ……ネアさんならいいか!!」


ツナグ「(いいんだ!?)」


ネア「そうだろ~!?」


ネア「お前らだって」


ネア「クッソ安いチケットで

   聴きに来たんだから――」


           「値段相応の歌」


           「聴かせてやるよーー!!」


ツナグ「(それ言っていいのか!?)」


ヴェル「……っ」


笑いを堪えている。


バラド「(これで魅力的に見えるのが)」


バラド「(ネア・シーンスの)」


           わけ分かんねえところなんだよ。


「上等だー!!」


「聴かせてもらおうじゃねえか!」


「少年たちからパクった曲を!!」


ネア「パクったって言うんじゃねえぞ!!」


ネア「てめえらあああああ!!」


一拍。


ネア「図星なんだよおおおおお!!」


           ドッ!!


会場が、

一斉に笑う。


ツナグ「……」


ツナグ「(……これでいいの?)」


ネアが横目でこちらを見る。


ネア「(少年)」


ツナグ「(はい?)」


ネア「(バンドのヴォーカルやるなら)」


ネア「(これくらいのトーク――)」


           「できなきゃダメだぞ?」


ツナグ「(無理ですよ)」


ツナグ「(ネアさんにしか

     できないですって)」


ネア「ん~」


そして。


今度は、

こっちを見る。


嫌な予感。


ツナグ「……」


ネア「じゃあ少年」


ツナグ「……はい?」


ネア「せっかくだし」


マイクを向ける。


ネア「どんな曲なのか――」


ネア「説明してみる?」


ツナグ「……え?」


ネア「この曲に」


ネア「どんな想いを込めたの?」


ツナグ「……」


ネア「だって――」


           「少年が創った歌詞でしょ?」


ツナグ「……」


           ――静かになる。


さっきまで笑っていた50人が。


今度は――


           僕を見る。


ツナグ「……」


50人。


全部。


こっちを見ている。


ツナグ「…………」


何か。


言わないと。


曲のテーマ。


込めた想い。


何を伝えたいのか。


ツナグ「………………」


そんなもの――


上手く説明できない。


だったら。


ツナグ「……この歌詞は」


一拍。


           「物語です」


ネア「……」


ネア「(……それだけ?)」


ネア「(まあ――)」


少しだけ笑う。


ネア「(少年らしいか)」


ツナグ「……」


マイクを握る。


ツナグ「聴いてください」


ツナグ「1曲目」


息を吸う。


さっきまで。


あれだけ怖かった50人が――


今は。


           聴いてくれる人に見える。


ツナグ「タイトルは――」


           『この価値ある素顔を』


           『仮面で隠す必要ない』


静寂。


その中で――


カナデが、

弓を構える。


ヴェルが、

ギターを握る。


ネアが、

マイクを持つ。


そして。


ネア「少年」


ツナグ「……?」


ネアは、

楽しそうに笑った。


ネア「魅せてもらうわよ?」


一拍。


           「普通には出せない」


           「斬新を」


ツナグ「……」


普通には出せない。


――昔なら。


それはきっと、

嫌いな言葉だった。


「みんなと違う」


「ズレている」


そういう意味にしか、

聞こえなかったから。


でも――


ツナグ「……」


カナデを見る。


カナデ「……♪」


笑っている。


ヴェルを見る。


ヴェル「……やろうぜ」


そして。


50人を見る。


ツナグ「(……違ってていい)」


ツナグ「(今だけは――)」


           「それを」


           「隠す必要なんてない」


カナデの弓が――


           動いた。


最初の一音が、鳴る。


ツナグ「……!」


           僕たちの


           初めてのライヴが――


           始まった。

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