転機
その日の夕方、薄暮の光が海面を赤く染め始めるころ、4隻の軽空母の甲板には
再び攻撃隊が並べられていた。
機数は
零戦21機
爆装零戦13機
天山艦攻4機
合計わずか38機。
第一波攻撃隊の半数以下にまで激減していた。
予備機をすべて組み立て、最低限の艦隊直掩機を残せば、これが出せる限界の機数だった。
だが、土佐の艦橋を包んでいた絶望の空気は、
本隊からの電文によって一変していた。
「第一波攻撃隊、計142機発進せり」
その中には、高速を誇る新型艦爆「彗星」
や天山も多数含まれているだろう。
本隊の攻撃隊と同タイミングで、波状的に
襲いかかれば、今度こそ敵艦隊を撃滅することも
夢ではない。
翔鶴を失った怒りと、再び灯った希望が、
幕僚たちの顔に生気を取り戻させていた。
「第二波攻撃隊、発艦始め」
軽空母千歳の艦橋には発艦を示す信号旗がはためき、わずかにオレンジがかり始めた夕空へ
わずか38機の第二波攻撃隊が次々と飛び立っていく。
艦隊将兵は再び期待を託し、攻撃隊をただ見つめ続けていた。
─────
しかし、その小さな希望が長く続くことはなかった。
攻撃隊の発進から二時間が経過したころ、
艦隊はまだ微かな昂揚感に包まれていた。
無線室からは、攻撃隊が敵機動部隊を確実に捕捉したという電報が次々と舞い込んでいたからだ。
タイミングが合っていれば、本隊の攻撃隊を含め
180機近い大編隊が、
今まさに敵の頭上で怒涛の波状攻撃を仕掛けている
はずだった。
第一波の発進から現在に至るまで、
日本艦隊は間違いなく「攻撃側」に立っていた。
しかし、戦場の女神はあまりにも気まぐれである。
その優位的状況は、あまりにも唐突に終わりを告げようとしていた。
「艦橋、電探室より緊急!」
艦橋の伝声管から、報告が響き渡った。
「電探に感あり!
敵機の大編隊を探知。
機数不明、およそ百機以上。あと
40分で艦隊上空へ到達する模様!」
その報告に、土佐の艦橋は激しい動揺に突き動かされた。
何かが決定的におかしい。
現在、東方にいる敵機動部隊「甲」は
我が方の総攻撃に晒されており、
反撃の余裕などないはずだ。
何より、敵の頭上へ突入した攻撃隊からも
敵の迎撃機に遭遇したという報告はあるが、
敵攻撃隊がこちらへ向かったという報告は
入っていない。
一体この大編隊はどこから湧いて出たのか。
だが、電探室からの新たな報告が
その謎をあまりにあっけなく解消してしまっていた。
迫り来る無数の光点は、敵「甲」集団のいる
東方面からではなく、北東方面から
飛来していたのだ。
理由は単純だった。
この海域で、我々に接近している敵は、
いま叩いている「甲」だけではなかったのだ。
もう一群隠されていた「乙」か「丙」、
あるいはその両方が、日本の攻撃隊が通り過ぎた隙を突き、静かに牙を剥いて接近していたのである。
「総員、対空戦闘用意。」
各艦の艦上では警戒のラッパが鳴らされ
将兵は慌ただしく動き始める。
呉で増設された無数の機銃、新設された二号電探が
ついに役立つのだ。
日本艦隊は攻撃側から引きずり落とされていた。




