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大艦巨砲主義の興亡  作者: kajiki
プロローグ
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8/8

敗色

「敵艦爆接近!」

「4機急降下!」


艦橋にはいくつもの報告が行き交っている。

見張員の声と命令、伝声管からの報告が

複雑に絡み合っている。


「面舵いっぱい。」


艦長である近藤はこの危機に対しても

表面上は平静を保っていた。

右舷を見ると、敵艦爆がこちらへ向かってきている

のが見える。

次々と進路上に湧き出す対空砲の黒煙を

ものともせず、4機はこちらへ真一文字に

向かってきていた。


そして、轟音が艦橋をつつみ込んだとき、敵機は

機首を引き起こして離脱していく。

その直後

投下された4つの爆弾は「土佐」を

包み込むように落下し、爆発した。


吹き上げられた海水が甲板を濡らしていく。


「左舷至近弾!」


伝声管からは間髪入れずに報告が入る。

「機関問題なし!」

「浸水確認できず!」


砲術長は安堵した息を吐きつつ

再び前を見据えた。

そこには空襲を受ける軽空母群が写っている。


すでに「千代田」は多数を被弾して

ゆっくりと海中に没しつつある。

「瑞鳳」の飛行甲板からは黒煙が噴き出ており

時折艦内から炎のようなゆらめきが見えていた。

その左右には戦艦「金剛」「榛名」が

盛んに対空砲火を打ち上げ敵機を

追い払おうと懸命に努力している。


「敵艦攻3、左舷前方より接近!」


目線を移すと、そこには猛然とこちらへ

近寄ってくる敵機が見えた。

これはまずい、そう感じたとき

敵機の内1機が黒煙に突っ込んだ。


直後にその敵機は機首を下げ

海面に突っ込んで大きなしぶきを上げた。

だが、残りの2機は未だに

向かってくる。


艦長の命令で艦は左へ回頭し

敵機に対して艦首を向けようと奮闘している。

魚雷に対して最も被弾面積の少ない姿勢。

それは敵機方向へ突っ込むことだ。


「魚雷投下!」


切羽詰まった報告が艦橋に響く。

そのうちの1機がコクピットに被弾したようで

機体は緩やかに下降し、海面に衝突して

砕け散った。


「被害知らせ!」

「対空砲火、弾幕張れ!」


いくつもの命令が錯綜する。

2本の魚雷が「土佐」の左舷すれすれを

通過していったのはその2分後だった。


「土佐」は右へ左へと回頭し

防空戦闘を続けている。

今のところ本隊からも新たな命令は入っていない。

現在は本隊への攻撃を吸収するべく

敵機動部隊へ接近するより他にない。

しかし米艦載機の攻撃は熾烈をきわめ

やむ気配は見えなかった。


「どうするか、」


近藤がそうつぶやいたとき、見張員の絶叫が響く。

「伊勢被弾!」


右を見ると、戦艦の艦尾から黒煙を吐いていた。

さらに右舷中央に魚雷命中を示す

水柱が噴き上がった。


「伊勢、被雷!」


凶報は続く。


「千歳、被弾!」


「大火災発生!」


前には両舷を砲火で光らせ、疾走している

軽空母瑞鳳の隣に、

炎を噴き上げ艦が停止しつつある千歳がいた。

もう限界が近い。


そんなとき、通信室には新たな報告が舞い込んでいた。


「敵機動部隊を攻撃、

戦果は敵空母1隻撃沈。

他戦艦に爆弾命中一、巡洋艦に爆弾命中一。」


つまり、第一波攻撃隊の戦果と合わせて

敵空母1隻を撃沈し、1隻を撃破したことになる。

空母4隻を有する「甲」は半壊した。


残るは新たに出現した呼称「乙」のみである。

だが、すでに前衛部隊に攻撃を行う余力は

残されていなかった。

電探はさらなる敵編隊の信号を捉え

軽空母群の半数はすでに姿を消していた。


────

2時間後。

すでに空が夕焼けに染まった頃に

前衛部隊は力を失っていた。

軽空母「千歳」「千代田」「瑞鳳」は波間に没し

唯一生き残った「祥鳳」は格納庫で火災が拡大し

飛行甲板は大破している。


逆に、敵の攻撃が軽空母群に集中したことで

本隊の位置が暴露されることはなく

戦艦群に関しても、被害といえば

「伊勢」が爆弾二、魚雷一を受けて速力が低下、

「長門」にも爆弾一が命中し小破しているのみだ。


しかし守るべき軽空母群が姿を消し

他、駆逐艦なども小規模な損傷を受けている。

もはや今日の航空戦において敗北したことは

明確だった。

唯一の慰めは敵空母1隻を撃沈したことだが

ここまで失った戦力に見合うものではない。


そんなとき

本隊より新たな通信がいくつか入ってきていた。


「敵潜により空母飛鷹大破、駆逐艦秋月沈没。」

真っ先にきたのは被害報告だった。

こちらが敵の航空攻撃を吸収したにも関わらず

本隊の戦力は減少していく。


だが、幕僚を驚かせたのは二通目だった。


「前衛は戦艦隊を分離、薄暮より敵機動部隊へ突撃せよ」


幕僚のざわめきが広がり、困惑と蛮勇とでも

言うべき勇気が湧いてきている。

報告によれば敵機動部隊にも数隻、戦艦が

含まれているはずだ。

つまり、戦艦同士の海戦が再び訪れる。


「加賀」からは即座に発光信号が送られてくる。


「艦隊再編、各戦艦と第四水雷戦隊は我に続け。」


それと同時に隊列から特型駆逐艦2隻が離れて

沈んだ軽空母の乗員救助に向かい

また新たに駆逐艦が2隻

生き残った軽空母「祥鳳」、そして損傷し

高速航行が不可能になった戦艦「伊勢」を守るため

分離していく。



残った戦力は

戦艦6隻(加賀、土佐、長門、日向、金剛、榛名)

重巡2隻(利根、筑摩)

駆逐艦4隻(沖波、浜波、藤波、玉波)

の計12隻。

あのトラック沖よりも隻数は少ない。

だが、戦力と闘士はあのときを上回っている。


海面に漂い、救助を待っている将兵は

敵機動部隊へ向かっていく新たな砲戦艦隊を

ただ見つめていた。

すでに上空に敵機の姿はなく

太陽は水平線へ沈みかかっている。

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