第14話 尻尾をたてろ!!
「ヤツが出るなら──、私の出番はないか」
デモンは、そう、つぶやいた。
悪の秘密結社、金星界には、まず頂点に魔王様がいて、そして四天王がいた。
ただ──、ゴレムもダクエルもデモンでさえも。
4人目の姿は、誰も見たことがなかったのだ。
「どうして、四天王なのですか?」
と、デモンが聞いてみたことがあった。
「いや、そこにいるじゃんか」
と、軽々しく返ってきた。
「ケヘヘヘっ、さすが魔王様でございますねぇ」
「…………っ!?」
突如、聞こえた声に、デモンは正直、驚きを隠せなかった。
それもそのはずだった。
インビジブル、四天王の四人目は透明になることが出来たのだ。
魔王様にしか、見えないのは流石だった。
「ケヘヘヘっ! ゴレムもダクエルも──、所詮、前座にしか過ぎないぜ!」
笑いかたのクセが強い。
そこには、カメレオンの姿があった。
深夜の湾岸署は、まだ煌々と灯りが灯されていた。
だが、そこには、帰り支度をする者ばかりで、好き好んで残業をするのはいなかった。
警察署──、とくに湾岸署はブラック企業ではなかったらしい。
「ケヘヘヘッ! こんなのが警察署だってかあ?」
インビジブルには楽勝すぎた。
奴らが鼻が利くのは知っていた。
シュッシュッと、匂い消しを振り撒いた。
それだけで、易々と侵入できた。
「瞳ちゃん、お茶──」
「はい、どうぞ──」
署長は、一番最後まで残っていた。
瞳ちゃんは、その一杯が最後の仕事だった。
こんなにも、平和ボケしている。
警察署──、湾岸署内は、彼にとって、容易かった。
ただ、インビジブルの得意技は、戦闘力ではなかった。
「ケヘヘヘッ! ほら、出ろよ」
次々と、牢屋を開けていった。
何重にも、重ねられた鍵を。
厳重なセキュリティでさえ、楽勝すぎた。
「ケヘヘヘッ! 暗証番号なんざ意味ねえってのよ」
360度、あらゆる角度を見渡せる眼球。
その特殊な眼球には、さらに特別な能力があった。
「ケヘヘヘッ! 丸見えだってのよ」
常人離れした視力には、たくさんの指紋がはっきりと映っていたのだ。
インビジブルは誰にも見られないことを、最大限に活かしていた。
湾岸署で捕らえられていた、犯罪者のすべてが解放されていった。
「ぐふっ。きさま……どうして!?」
「きゃあっ、署長っ!? 大丈夫ですかっ!?」
「アハハハハハハ~ッHaッッ!!」
かつての凶悪犯罪者が、解き放たれていた。
それはサムと呼ばれていた──、凶悪な怪物だった。
そこには、もっとも優秀で、もっとも危ない刑事の姿はなかった。
「残念ですNE⭐」
コキコキと首を鳴らしつつ、あとは署長と瞳ちゃんだけだった。
足下には、たくさんの警察官が、まるで絨毯のようになっていた。
「こんなことをして……ただですむと思っているのか!!」
署長は頑張ったほうだった。
小さな身体を活かして、あの頃とはいかないまでも──、それは確実に残されていた。
片手、両足、そして、サムの片目を奪っていた。
ただ、それらは、あっという間に回復していった。
「アハハハハハハ~HAッ、アハハHAHAHAッ!!」
「くっ……怪物め……」
署長は、署長として、警察官として。
やるべきことを、ただやるしかなかった。
ドルルル──、ドルルル──。
小さなエンジンが加速していく。
「ダメですっ! 署長っ!!」
「瞳ちゃん、いつもありがとうね」
その言葉を最後にして、署長は相討ち覚悟で突進した。残されたすべてをかけて、ひとすじの光となって。
かきんっ!
思いもよらなかった。
第三者、ゴレムの豪腕によって、軽々しく弾かれてしまったのだった。
「ここまでか……」
瞳ちゃんの涙はみたくはなかったが。
彼女が無事であったのを、最後に見届けて。
また、あのお茶を飲みたくなった。
「おい、ゴレムとやら──、タッグを組まないか?」
「……まだ、俺にもやれることはあったんだな……」
ここに、最強のバートナーが結成された。
金星界のゴレムと、マッチョなサムが手を繋いだ、
湾岸署は、やがて混沌となってしまった。
「え……なんでよ?」
トオルは、いつものように、勤務地に向かったが。
湾岸署、そのものが、見当たらなかった。
通り歩く、ひとに訪ねても、いい返事がなかった。
そんなことは、まったく予想もしていなかったから。
とりあえず、浜辺で体育座りをしてみた。
「おい、トオル」
「あ……、先輩」
「おい、タカ。 どうなってんの?」
「おい、ユージ。 どうなってんの?」
「なにしてんの、三人とも?」
タカとユージとトオルとカオル。
その4人が集まって、座談会が始まろうとしていた。
と──、そこへ。
「皆さん、いったい、なにしていたんですかっ!?」
瞳ちゃんが、かけよってきた。
きっと、一睡も出来ずに、ずっと、泣いていたのだろう。 顔中、しわくちゃだった。
「え、マジかよ……」
何度、経緯を聞いても、信じられなかったが。
みんな、やることは決まっていた。
そして、覚悟は決まっていた。
「「「「尻尾をたてろ!!!!」」」」
それは、彼らだけの気合いの入れ方だった。




