第15話 あるよ?
嗚呼。
どうしてこんなことになってしまったのか。
それは、最初に確かめなかったせいでもあった。
思わず、声に出た。
「詰んだな──、ボスケテ……」
それは、残された刑事達が尻尾をたてたあと、急にやってきた。
いつも、決まった時間にやってきた。
つまり、もよおしたのであった。
「ちょっと……お花を摘んできますっ!」
「おい、トオル。どこで花を摘むんだよ?」
「ちょっとタカさん。なに言ってんのよ!」
「はやく、出してこいよ~。どっさりと、な!」
ユージのひとことが、決定的だった。
トオルは、すこぶる健康的で毎日、決まった時間に出していた。
食べたモノを消化したら、当然、出ます。
つまり、うんちを。
アイドルは、しないって言っていますけど。
アイドルではないので、ね。
トオルは、近くに見えたパチンコ店に、勢いよく駆け込んだ。
「入店っ、入店っ!」
冷や汗をかきながら。
そう、連呼しながら。
まっしぐらにトイレへと向かった。かなり、限界に近かった。
ただ──、その日は特別な日で、パチンコ店には大勢の客がいた。
「はい、始まりました~」
(*’ω’ノノ゛☆パチパチ (*’ω’ノノ゛☆パチパチ
それはいわゆる、演者さんによる動画の撮影だった。
アフロヘアが特徴的な演者さんや、美女による撮影だったらしい。
「入店っ、入店っ!!」
そんなことは、どうでもいい。
勝手に、撮影していればいい、とにかく今は。
出すべきモノを出す──、ただ、それだけだった。
「ケヘヘヘッ! かかったな!」
それは、周囲周到に。
綿密に、練られた罠にしか過ぎなかった。
「これで……よかったんすか?」
「ケヘヘヘッ! 上等だ」
そのイベントは、インビジブルによって企てられていた。
そもそも、そのパチンコ店は、金星界によって成り立っていたのだ。
「いや、マジで詰んだな……」
大量のブツを、大量の水で流した。
そこまではよかった。
だが、そこに紙がなかったのだ。
最悪、手でふくという選択肢もあったのだが。
「あるじゃん!」
みっちゃんには、ならなくてよかった。
トオルは、心底安心していた。
「みっちゃん、みちみち」
そんな歌と、歌詞を思いだしては、そんなことにならなくてよかったと。
その便器には、便利な機能が備え付けられていた。
お尻を拭く必要もなかった。
そのスイッチを押したら、解決するだろう。
乾燥という、便利な機能も備え付けられていた。
───、そのはずだった。
「ケヘヘヘッ! かかったな!」
ポチっとな。
「なんか、やな予感……」
トオルの予感はわりと当たる。
ただ、そのほとんどは、あまり良いことではなかった。 そして、それは今回も。
「カウントダウンします」
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1──
「えっ、ちょっ、待てよ!!」
ゼロ。
その瞬間、トイレの個室は、勢いよく飛んでいた。
トオルは、便器に座ったまま、遥か上空へと向かっていった。
それは、異世界でも、初めての出来事だった。
「アイツ、遅すぎないか?」
「よっぽど、たまってたんじゃないか?」
「ってか……アレ。トオルちゃんじゃあないの?」
パチンコ店で、用を足すためだけなのに。
どうして、そんなことになってしまったのか。
ちょっと面白かったから、しばらく眺めていた。
「とんで、とんで、とんで、とんで、とんで、とんで、とんで、とんで、とんで」
まわって、まわって、まわって、まわる。
そこまでは、いかないように、トオルは切に願っていた。
「よくやった」
デモンは、モニター越しに見ていた。
不確定要素が、飛んでいったのを見ていた。
あとは、あのモフモフだけだった。
「ケヘヘヘ……。え……なんで……っ?」
「もう、用済みだからな」
インビジブルの身体には、デモンの角が深々と突き刺さっていた。
「ごえっ!? ぐぶ……ぶぶぶっ」
インビジブルの口元から、内蔵から吐き出されていく。
体液を浴びながら、真っ赤に染まる。
それはまるで、神話みたいな姿だった。
やがて、ぐったりとなっていった。
魔王様に、余計な心配はかけられない。
四天王のなかには、最弱な存在なんて要らなかった。
「さあ、どうする?」
デモンは、正直、昂っていた。
金星界で、最強の、わたしを倒せるものがいるのかと。魔王様以外で。
「「お待たせちゃん⭐」」
「ぐわらばっ!?」
それは、ぷにぷにの肉球だった。
タカと、ユージの肉球だった。
「「ダブルキック!!」」
易々と、そのキックを食らってしまった。
ふらふらと、身体が揺れて、崩れ落ちていく。
膝がガクガクと、揺れていく。
「そんな……馬鹿な……!?」
完璧だったはずだった。
湾岸署も更地にしたはずだった。
デモンの計画は、完璧だったはずだった。
「お前らの、思い通りにはいかないぜ?」
トオルは、うまく罠にかかっていたが。
打ち合わせは、完璧だった。
あとは、どう騙せばいいのか、それだけだった。
「尻尾は、たてたからな?」
「……なにっ!?」
デモンは、その意味を知らなかった。
ネオトキオという異世界で、警察官だけに託された。
それは、最強のユニークスキルだった。
「アハハハハハHA……HA……?」
せっかく、牢獄から解き放たれたサムが。
ゴレムという、最高の相棒を得たのに、あっさりと逮捕されてしまっていた。
そのほか、たくさんの脱獄者が、一斉に確保されていった。
「キリキリ歩け!」
犬の、お巡りさんというのは、その異世界ではまさに最強だったのだが。
「ちょっ、待てよ!」
検察官は、黙っていなかった。
そこには、茶髪のHEROが立っていた。
キャンニュー、シークレット。
「なんなんだよ、お前らは……」
あるよ、と。
どこからか、渋い声が聞こえてきた。




